講演情報

[14-O-C004-05]クラスター後のターミナルケアは医療依存度が高い

*渡辺  基1、守屋  陽子1、松本 弘昭1、山内 健吾1、飯島  貴子1、佐々木 明子1 (1. 静岡県 みかたはら介護老人保健施設)
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目的;我々の施設では令和4年8月にCOVID-19のクラスターが発生した。今回我々はクラスター発生後のターミナルケアで何が変わったかを検討するために、前後1年間計2年間の当施設でターミナルケアを施行した利用者36名の状態像の比較検討を行った。結果:クラスター発生後のターミナルケアにおいて医療依存度が増えていることが示された。考察:老健のターミナルケアの医療行為に対する報酬上の評価が必要である。
はじめに;老健においては在宅復帰支援施設としての役割が近年重要視されているが、一方で一般病院および家族から看取りの施設としても期待されている。今回我々はクラスターの前後でターミナルケアを施行した利用者の状態像の比較を行い、老健におけるターミナルケアの現状につき考察したので報告する。
対象および方法;令和3年9月~令和4年8月13日までのクラスター発生前にターミナルケアを行った入所者18名とクラスターが発生した令和4年8月14日~令和5年7月までにターミナルケアを行った入所者18名の36名を対象とした。両群の年令、BMI,介護度、抗生剤の投与期間、酸素投与期間、褥瘡の発症の有無、および死亡病名、合併症、既往症につき比較検討した。
結果;ターミナルケア施行時の年令、BMI,介護度、抗生剤の投与期間は両群において明らかな差は認めなかった。酸素投与期間はクラスター前の群(以下クラ前群)は3.7日であったが、クラスター後の群(以下クラ後群)は7.4日で両群で統計学的な有意差はなかったが、クラ後群で長い傾向を認めた。また褥瘡の発症数もクラ前群は18名中1名(5.6%)であったが、クラ後群は18名中7名(41.2%)でクラ後群で発症率は高かった。死亡病名は両群で老衰、肺炎がほとんどを占め(クラ前群18名中15名、クラ後群18名中14名)明らかな差を認めなかったが、合併症、既往症の数はクラ後群が多かった。クラ後群18名の内訳はCOVID-19の陽性者10名、陰性者8名であった。陽性群と陰性群をクラ前群のターミナルケアの状態像と比較したところ、年齢、BMI,介護度で明らかな差は認めなかったが、酸素投与期間、褥瘡の発生者数も陽性者のみでなく、陰性者もクラ前群の方より、期間は長く、褥瘡の数も多かった。
考察:本年3月の介護老人保健施設における人生の最終段階における医療ケアの提供実態にかかる調査研究事業報告書(以下報告書)によれば、平成21年にターミナルケア加算が設けられた際に施設内で看取りを行った施設は40%に過ぎなかったが、10年経過した本年度の調査では80%の施設で看取り対応が行われているに至ったとしており、すでに老健においてターミナルケアは日常的な業務であると考える。我々の施設においても年間に20名程度のターミナルケアを施行しているが、ターミナルケアにおいて医療行為をどこまで行うか判断に迷うことが多かった。施設において限られた医療資源しかないことが主な理由であるが、報酬として評価されないことも理由となる。今回の検討でクラ後群においてターミナルケアの際に酸素投与や褥瘡の処置などの医療行為が必要な例が多いことが示唆された。また死亡病名は老衰、肺炎がほとんどを占めていたが、既往症、合併症の数もクラ後群が多く認められた。これより、クラスターの発生がターミナルケアの医療依存度に影響をおよぼしている可能性が高いことが予想された。COVID-19陽性者のみならず、陰性者においてもクラスター前より、医療依存度が増えていた。これより、コロナ未感染であってもコロナ禍で施設入所していた利用者はターミナルケアにおいて医療行為が増える可能性が示唆された。
報告書によれば、施設側からは充実した看取りを行うために医療的ケアに対する評価を求める意見が多く、利用者の疾患や状態に応じて酸素療法や麻薬による疼痛緩和などが過不足なく提供でき穏やかな最期を迎えられるように制度面の見直しと費用補助が望まれるとしている。今後もターミナルケアの医療行為に対して報酬上の評価が必要になると考えた。
まとめ、1,クラスターの発生後においてターミナルケアの医療依存度が増えていた。2,死亡病名は老衰、肺炎が多数であったが、クラスター後の既往症や合併症がクラスター前より多くなっていた。3,老健のターミナルケアの医療行為に対する報酬上の評価が必要である。