講演情報

[14-P-L001-01]訪問リハの導入により自宅生活を継続できた症例転倒リスクを軽減しながら本人の思いに合わせた支援

*辻村 和憲1、清光 洋子1 (1. 石川県 公益社団法人石川勤労者医療協会介護老人保健施設手取の里)
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転倒による骨折での入院を繰り返した通所リハ利用者に対して訪問リハを導入したので報告する。転倒要因を抽出し、本人の思いに合わせて環境調整や動作練習、転倒予防の指導を行った結果、骨折することなく自宅生活を継続できた。また、役割を獲得し、居場所が生まれたことで余暇活動に変化がみられた。今回の訪問リハの関わりでは、転倒リスクを軽減しながら、その人らしく生きるための支援が行えたと考える。
【はじめに】
通所リハでは利用前訪問や訪問指導を行っているが、生活状況の把握や環境調整が十分に行えず、課題解決に至らないケースがある。症例は転倒予防を目的に通所リハを開始したが、転倒による骨折等での入院を繰り返した。そこで通所リハのみでは骨折を防ぐことが困難と考え、訪問リハを導入した。その結果、転倒要因を抽出でき、本人の思いに合わせて環境調整や動作練習、転倒予防の指導を行ったことで、骨折することなく自宅生活を継続できたので報告する。
【症例紹介】
80代女性。認知症が疑われる夫と二人暮らし。診断名は左大腿骨転子部骨折、認知症、双極性障害、左膝蓋骨骨折。主訴はもう転んで入院したくない、左膝が痛い。X年Y月に転倒予防を目的に通所リハを開始したが、Y+1月に転倒し、胸椎圧迫骨折の診断で入院した。その後はY+4月に尿路感染症、Y+5月に左大腿骨転子部骨折・左橈骨遠位端骨折の診断で入院し、ほとんど自宅で生活できなかった。Y+7月末に自宅退院し通所リハを再開したが、生活状況の把握と環境調整を十分に行うことが困難なため、Y+8月に訪問リハを導入した。
【初期評価】
左膝関節痛、左下肢筋力低下、バランス能力低下を認めた。歩行器歩行は自立、独歩・伝い歩きは軽介助、自宅の手すりがない階段の昇降や深い浴槽の移乗は軽介助が必要な状態であった。また、病識の低下により、転倒リスクに配慮した生活が困難であり、手すりの設置を拒否していた。認知機能ではHDS-Rが24点とカットオフ値を超えていたが、服薬管理に夫の介助が必要であった。精神機能では気分の浮き沈みがみられた。
退院時には移動は歩行器を使用すること、2階へは上がらないこと、入浴は通所リハで行うことを指導されていた。しかし、退院時指導が守られておらず、独歩や伝い歩き、階段昇降、自宅での入浴を一人で行っており、転倒リスクが高い状況であることがわかった。本人からは「2階にある作業場に行きたい、家のお風呂にゆっくり浸かりたい」と上記動作を行いたい思いが聞かれた。
【目標とプログラム】
課題は転倒リスクを軽減し、骨折することなく本人の思いに沿った自宅生活を継続できるとした。2か月間の短期目標を歩行器使用の定着と浴槽移乗の自立、4か月間の長期目標を階段昇降の自立と台所やトイレでの伝い歩きの獲得とした。プログラムは転倒予防の指導、動作練習とした。転倒予防の指導では、左膝関節痛により支持性が低下し動作が不安定となることから、荷重による過負荷を防ぐために歩行器を使用すること、階段昇降は2か月後に訪問リハで練習を開始するまで行わないこと、夫が家にいる時に入浴すること、とした。動作練習は歩行器歩行、浴槽移乗、玄関の段差昇降とした。
【経過】
訪問リハ開始3週間後には歩行器使用が定着した。しかし、開始1か月後に寝室で独歩し転倒した。訪問するとポータブルトイレの位置が変更されており、動線の幅が狭く、歩行器が使用できない状況であった。そこでベッドの位置を変更し、歩行器を使用できるように環境を調整した。開始6週間後には浴槽移乗が自立し、短期目標を達成した。開始2か月後には気分の落ち込みが強くなり、寝衣のままベッド上で過ごすようになった。開始2か月半後には精神面が安定し、活動性が回復したため、台所やトイレでの伝い歩き、階段昇降練習を開始した。その後、徐々に気分が高揚している様子がみられた。主治医から双極性障害による気分の浮き沈みが激しい時に転倒を繰り返していたと情報があり、この間の転倒は精神状態が影響していた可能性があることがわかった。開始3か月後には気分が高揚し、「きれいな庭にしたい」と一人で庭の草むしりを行っていた。転倒リスクが高い活動であったが、行動の抑制はせず、草むしり動作の獲得を目標に屋外の環境調整や庭での移動・床上動作練習を実施した。開始4か月後には目標を達成し、天気の良い日は庭で過ごす様子がみられた。
【結果】
目標とした歩行器使用の定着と台所やトイレでの伝い歩き、階段昇降、浴槽移乗の自立を達成することができた。さらに、床上動作や庭での草むしり動作が自立した。その結果、転倒による骨折が生じることなく自宅生活を継続でき、役割を獲得し、余暇活動を安全に行えるようになった。
【考察】
転倒要因として、身体機能面では左膝関節痛、左下肢筋力低下、バランス能力低下が挙げられたが、リハビリによる左下肢の支持性改善や動作の安定性向上が見込まれた。生活面では病識や認知機能低下により指導が守られておらず、独歩や伝い歩き、階段昇降、浴槽移乗を行っていることが抽出されたが、それらを行いたい本人の思いを考慮し、生活場面での環境調整や動作練習、通所リハでの機能訓練と合わせて転倒予防の指導を行った。その結果、目標の動作が自立し、骨折することなく自宅生活を継続できたと考える。
百留は参加への支援を行う際に重要なことは、生きがいや役割、居場所が生まれるような支援をし、それによってその人らしい人生を送ることであると述べている。今回、転倒を防ぐために行動を抑制するのではなく、本人の主体性を尊重した支援を行った。その結果、草むしりの役割を獲得し、庭での居場所が生まれたことで余暇活動に変化がみられた。今回の訪問リハの関わりでは、転倒リスクを軽減しながら、その人らしく生きるための支援が行えたと考える。