講演情報
[14-P-L001-03]通所リハビリサービス変更による身体評価での効果検証
*菊池 健志1、大嶋 直志1、岡崎 友明2 (1. 埼玉県 介護老人保健施設 鶴ヶ島ケアホーム、2. 医療法人社団満寿会 鶴ヶ島在宅医療診療所)
通所リハビリテーションにおける生産性向上、介護の質の向上を目指したサービス変更の取り組みについて、利用者の身体能力評価における有効性の検証を行った。新サービス導入前後で、身体能力に優位な差がないという結果となった。研究を通じ、研究自体の精度向上の必要性、身体能力評価を用いたい検定における他因子への配慮など、学びのある検討となった。
【目的】介護業界の現状として、人手不足が社会問題となる一方、サービスの質の向上が求められ、新加算の新設も含め「生産性向上」という言葉が頻繁に飛び交うようになった。これはICT等を用い「業務の効率化」を図ると共に、少ない人員数でより質の高い介護サービスを提供することを意味する。当通所リハビリテーション(3-4時間、午前午後2回/日実施)では、「生産性向上を伴うより質の高いリハビリテーションサービスの提供」を目指し、2022年7月頃より、理学療法士、介護職員が共同して行う「チームローテーション型運動療法」の導入を開始した。これを導入したことにより、届け出利用者数を24名/回から30名/回に変更し、利用者数が向上したことにより生産性向上が図れた。しかしながら、「質の高いリハビリテーション」という観点で、身体能力に関する効果が得られたかについては、具体的な検証ができていなかった。そこで、本研究では、3ヶ月に1回実施している運動機能能力評価結果を用い、2022年7月前後の評価日を「基準日」に設定し、前後1年における身体能力の変化について「チームローテーション型運動療法」の導入の効果検証を試みた。
【サービス内容変更の概要】「チームローテーション型運動療法」を導入する背景として、利用者数を増加するにあたり、「このスタッフ数でこれ以上の利用者さんはみれません!」という職員の声がきっかけとなった。変更前は10種目のプログラムをそれぞれの利用者ごとに立案し、空いている運動種目スペースにランダムに誘導する仕組みをとっていた。結果、評価の時間を捻出することが出来ず、プログラムの変更は初期値から大きく変化しなかった。また「とにかく業務を回す」ことが目的となっていた。変更後は5種目に限定し、能力に合わせた方法、回数を設定することで個別性を担保した。利用者は4~6人のチームでそれぞれの運動療法プログラムをサーキット形式で実施する仕組みに変更した。時間内での運動時間も前後で約10分程度増加し、利用者からの「まだ運動スペースは空かないのか?」というクレームは減少した。
【対象】令和4年5月1日から令和6年5月31日に当通所リハビリテーションを利用された方(242名)のうち、基準日から1年以上経過後の評価結果が得られた85名を対象とした。
【方法】令和4年7月を基準とし、前後3ヶ月に行なった評価日(令和4年7月以降に利用開始した方は初回評価時点)を「基準日」に設定し、それより1年前の評価結果と、1年後の評価結果の3回分の評価結果を抽出した。年齢等によるデータの偏りをなくすため、参考文献等データより抽出し、独自に設定した年齢別基準値(一部年齢別基準非該当)との差を分析対象データとした。基準日より1年前の評価結果を得られた群を(1)1年前評価群。基準日に評価実施した群を(2)基準日評価群。基準日より1年後に評価できた群を(3)1年後評価群とした。評価項目は、①握力 ②片脚立位時間(平均値) ③Timed Up & Go Test(以下TUG) ④5m歩行時間 ⑤長谷川式簡易認知症スケール(以下HDS-R)とした。対象者の評価項目において、歩行手段の変更(杖歩行から独歩など)や事情により評価実施できなかった項目についてはその項目のみを対象から除外した。これらについて、基準日前(運用変更前)の検証として(1)1年前評価群(2)基準日評価群の2群間での検定を実施した。また、基準日後(運用変更後)の検証として(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間での検定を実施した。
【結果】(1)1年前評価群(2)基準日評価群の2群間の検定結果については、①~⑤のすべての項目のついて有意な差を認めなかった。また、(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間の結果についても①~⑤すべての項目について有意な差を認めなかった。そこで、基準値との差の平均値を評価項目ごとに比較したところ、(1)1年前評価群(2)基準日評価群の比較では、①握力 ②片脚立位時間については改善傾向 ④5m歩行時間は改悪傾向 ③TUG ⑤HDS-Rについては大きな変化がなかった。(2)基準日評価群(3)1年後評価群の比較では、③TUG ④5m歩行時間については改善傾向、①握力 ②片脚立位時間 ⑤HDS-Rについては改悪傾向が示唆された。
【考察】今回の結果では、サービス内容変更前後において、利用者の運動能力改善については有意な差を認めなかった。(1)1年前評価群の母数(29名)が少なかったことより、基準日との比較データの抽出についての信頼性が疑われると感じた。(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間の比較については、①握力 ②片脚立位時間 ⑤HDS-Rについてはやや低下している傾向があるものの、③TUG ④5m歩行時間などの移動能力に直結する運動能力についての向上が得られた点については興味深いと感じた。①握力=全身体力指標 ②片脚立位時間=バランス能力指標 ③TUG=歩行バランス能力指標 ④5m歩行時間(歩行能力)と位置付けている。今回の結果から、柔軟性や持久力、認知症予防タスク等についてのプログラムの検討の必要性を感じた。また、本研究を通じて、利用者の能力改善に関連する他因子として、「利用開始からの日数」「介護度」「評価自体の精度」「週利用回数」「利用日以外の活動」「疾患」「障害の特徴」など様々なものが存在することを改めて認識することができた。今後、上記を考慮し更に多くのデータを集積し、精度の高い検証を行いたいと考える。科学的介護、EBMリハビリテーションの実現に向け、「利用者の笑顔」「ありがとうの言葉」を信じ、研鑽に努めたい。
【サービス内容変更の概要】「チームローテーション型運動療法」を導入する背景として、利用者数を増加するにあたり、「このスタッフ数でこれ以上の利用者さんはみれません!」という職員の声がきっかけとなった。変更前は10種目のプログラムをそれぞれの利用者ごとに立案し、空いている運動種目スペースにランダムに誘導する仕組みをとっていた。結果、評価の時間を捻出することが出来ず、プログラムの変更は初期値から大きく変化しなかった。また「とにかく業務を回す」ことが目的となっていた。変更後は5種目に限定し、能力に合わせた方法、回数を設定することで個別性を担保した。利用者は4~6人のチームでそれぞれの運動療法プログラムをサーキット形式で実施する仕組みに変更した。時間内での運動時間も前後で約10分程度増加し、利用者からの「まだ運動スペースは空かないのか?」というクレームは減少した。
【対象】令和4年5月1日から令和6年5月31日に当通所リハビリテーションを利用された方(242名)のうち、基準日から1年以上経過後の評価結果が得られた85名を対象とした。
【方法】令和4年7月を基準とし、前後3ヶ月に行なった評価日(令和4年7月以降に利用開始した方は初回評価時点)を「基準日」に設定し、それより1年前の評価結果と、1年後の評価結果の3回分の評価結果を抽出した。年齢等によるデータの偏りをなくすため、参考文献等データより抽出し、独自に設定した年齢別基準値(一部年齢別基準非該当)との差を分析対象データとした。基準日より1年前の評価結果を得られた群を(1)1年前評価群。基準日に評価実施した群を(2)基準日評価群。基準日より1年後に評価できた群を(3)1年後評価群とした。評価項目は、①握力 ②片脚立位時間(平均値) ③Timed Up & Go Test(以下TUG) ④5m歩行時間 ⑤長谷川式簡易認知症スケール(以下HDS-R)とした。対象者の評価項目において、歩行手段の変更(杖歩行から独歩など)や事情により評価実施できなかった項目についてはその項目のみを対象から除外した。これらについて、基準日前(運用変更前)の検証として(1)1年前評価群(2)基準日評価群の2群間での検定を実施した。また、基準日後(運用変更後)の検証として(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間での検定を実施した。
【結果】(1)1年前評価群(2)基準日評価群の2群間の検定結果については、①~⑤のすべての項目のついて有意な差を認めなかった。また、(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間の結果についても①~⑤すべての項目について有意な差を認めなかった。そこで、基準値との差の平均値を評価項目ごとに比較したところ、(1)1年前評価群(2)基準日評価群の比較では、①握力 ②片脚立位時間については改善傾向 ④5m歩行時間は改悪傾向 ③TUG ⑤HDS-Rについては大きな変化がなかった。(2)基準日評価群(3)1年後評価群の比較では、③TUG ④5m歩行時間については改善傾向、①握力 ②片脚立位時間 ⑤HDS-Rについては改悪傾向が示唆された。
【考察】今回の結果では、サービス内容変更前後において、利用者の運動能力改善については有意な差を認めなかった。(1)1年前評価群の母数(29名)が少なかったことより、基準日との比較データの抽出についての信頼性が疑われると感じた。(2)基準日評価群(3)1年後評価群の2群間の比較については、①握力 ②片脚立位時間 ⑤HDS-Rについてはやや低下している傾向があるものの、③TUG ④5m歩行時間などの移動能力に直結する運動能力についての向上が得られた点については興味深いと感じた。①握力=全身体力指標 ②片脚立位時間=バランス能力指標 ③TUG=歩行バランス能力指標 ④5m歩行時間(歩行能力)と位置付けている。今回の結果から、柔軟性や持久力、認知症予防タスク等についてのプログラムの検討の必要性を感じた。また、本研究を通じて、利用者の能力改善に関連する他因子として、「利用開始からの日数」「介護度」「評価自体の精度」「週利用回数」「利用日以外の活動」「疾患」「障害の特徴」など様々なものが存在することを改めて認識することができた。今後、上記を考慮し更に多くのデータを集積し、精度の高い検証を行いたいと考える。科学的介護、EBMリハビリテーションの実現に向け、「利用者の笑顔」「ありがとうの言葉」を信じ、研鑽に努めたい。