講演情報

[14-P-L001-04]多様なニーズをマネジメントにて達成する―共に決める目標の大切さ―

*山口 史人1、土屋 裕規1 (1. 三重県 介護老人保健施設 志摩豊和苑)
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多様なニーズがあった症例に対して、目標の合意形成およびマネジメントを行った。多様なニーズに対して優先順位をつけ、目標設定を療法士、症例、介護士の間で共有した。自主トレーニングやリハビリプログラムを含めて、症例から苑内移動の相談や介護士から環境設定についての提案があり、目標を達成した。共有意思決定により、症例の自立的な行動や多角的な視点でアプローチが行え、目標達成に繋がったと考えられた。
<はじめに>
今回、通所リハビリテーション(以下、通所リハ)で、多様なニーズがあった症例に対して、Canadian Occupational Performance Measure(以下、COPM)を用いた目標の合意形成を行った。自主トレーニング(以下、自主トレ)を含めたリハビリプログラム(以下、プログラム)や介護士(以下、CW)、ケアマネジャー(以下、CM)と連携し、目標達成に至ったため、その経過を報告する。
<事例紹介>
症例は80歳代の女性で、要介護4、心筋梗塞の手術中に脳梗塞を発症。退院後、他施設入所し、リハビリテーション(以下、リハビリ)を5か月間行った。その後、自宅退所し、通所介護を1か月利用するも、リハビリ希望があり、当苑通所リハを週3回利用開始(以下、X日)となった。家族構成は娘と同居しており、娘は自営業をされている。
<初期評価>
X日、改訂長谷川式簡易知能評価スケールは29点で、コミュニケーションは表出、理解ともに良好。高次脳機能障害は認められず。Stroke Impairment Assessment Set-moter(以下、SIAS-m)は5-4-4-4-2、Timed Up & Go Test(以下、TUG)は12.2秒(4点杖)、Barthel Index(以下、BI)合計点は85点、入浴は0点であった。苑内移動は左側のクリアランス不良があり、馬蹄型歩行器近位見守りで対応した。自宅では屋内4点杖歩行または伝い歩き自立、屋外4点杖歩行見守りで移動されていた。IADLは興味関心チェックシートより、洗濯や料理、娘の仕事の手伝いなどを行っていることが分かった。
<方法・経過>
 X+9日、自宅で1ヶ月目のリハビリテーション会議(以下、リハ会議)および家屋評価を実施した。リハ会議では症例から「施設から退所して入浴は通いでしか入浴していない、自宅でも入ってみたい」「外出しているが、友達や娘の付き添いをしてもらっており、一人で歩きたい」「料理や洗濯など行って、継続して家事を手伝っていきたい」と多数なニーズを聴取した。家屋評価では、浴槽の深さが63cm、縦手すりは設置されておらず、浴室内で設置可能であるかも不明であった。ご自宅の周辺はアスファルトの舗装された道が多く、銀行やクリニックはご自宅から300m程の距離にあった。X+10日、COPMを実施し、課題の重要度、遂行度、満足度を評価した。COPMで重要度/遂行度/満足度(以下、〇/〇/〇)は、「入浴」8/1/1、「楽器の演奏」8/5/6、「料理」6/6/7、「仕事」5/4/5、「屋外移動」2/1/2であった。症例との目標は、遂行度が低かった「入浴」と「屋外移動」となり、ご自宅での入浴及び病院受診等における外出の自立を目標設定として合意形成した。X+13日、プログラムは縦手すりを使用した浴槽の跨ぎ動作(以下、跨ぎ動作)指導、歩行訓練を実施した。X+39日、リハビリで縦手すりを使用した跨ぎ動作が行えるようになった。同時期の症例は大浴場にて入浴していた。当苑には個浴用浴槽があり、自宅での入浴に繋げるため、2ヶ月目のリハ会議で環境設定を行った上での跨ぎ動作の手順や介助方法をCWに申し送り、動作練習を依頼した。プログラムは手すりなしでの跨ぎ動作指導を行った。苑内移動は、左側のクリアランスが良好になり、4点杖歩行見守りで対応を変更となった。しかし、X+50日、「苑内で少しでも歩きたい」と希望があったため、苑内移動を馬蹄型歩行器修正自立に再度変更し、通所リハ時に自主トレとして歩行訓練を行った。X+60日、「自宅でも娘と一緒に入ってみたけど、浴槽内が滑って怖かった」と症例から相談を受けた。通所リハでの入浴で浴槽内に滑り止めを使用していることをCWより情報を得て、ご自宅でも滑り止めを購入することをご本人様に提案し、購入することとなった。X+64日、「自宅で娘と一緒に跨ぎ動作の練習を行った」「娘と一緒に近くの銀行まで10分程、4点杖で歩いた」と自宅でも跨ぎ動作や屋外歩行を行っている発言があった。X+66日、3ヶ月目のリハ会議で「縦手すりを浴室につけたい」と希望があり、会議後、CMに縦手すりの設置場所の提案および跨ぎ動作の様子について情報共有を行った。屋外歩行に関しても「娘と買い物や散歩が多くなった」と外出が多くなっている様子もあり、屋外歩行時の注意喚起をした。X+96日、4ヶ月目のリハ会議で「浴室に縦手すりをつけて、娘の見守りで浴槽に入っている」「近くの銀行まで4点杖を使って一人で行けるようになった」と自宅での入浴や一人で外出が行えていると発言があった。初期評価時と比較して、SIAS-mは5-4-4-4-4、TUGは8.94秒(4点杖)、BIの入浴は5点、苑内移動は4点杖自立の対応となり、COPMで遂行度/満足度(以下、〇/〇)は「入浴」6/7、「屋外歩行」7/8となった。
<考察・まとめ>
 今回の目標設定として、COPMの使用やリハ会議で症例の状況を把握し、療法士、症例、CWの間で合意形成したことが、共有意思決定に繋がったと考えられる。藤本は共有意思決定の効果として「患者における治療への自立的参加」「治療の多角的視点」「医療者間コミュニケーションの確立」と述べている。本症例に関しても自立的な参加がみられ、通所リハや自宅での運動量の確保や跨ぎ動作の動作学習に繋がった。また、療法士もCWと相談し、リハビリだけでなく通所リハの入浴での跨ぎ動作練習やご自宅での滑り止め購入の提案など、多角的に治療を提案することが可能となった。リハビリだけでなく、症例、CWが目標に対して、動作の練習をしたことで実動作が行え、遂行度や満足度が向上したのではないかと考える。Lowは「COPMの遂行度・満足度ともに 2 点以上の向上があれば臨床上意味のある向上である」と述べており、今回の介入は症例にとって効果があったと考える。今後は身体機能や疾患の予後予測も視野に入れた目標設定していき、自立支援の向上に努めたい。