講演情報

[14-P-L001-05]自動車運転が自立し役割の再獲得に繋がった一症例~訪問での関わりについて~

*平光 亮介1、島袋  盛一1、浅川 義堂1、小島 美穂子1、馬渕 愛子1、河合  璃保1 (1. 岐阜県 医療法人社団 友愛会 介護老人保健施設 山県グリーンポート)
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今回、脳梗塞発症後、自動車運転の再開を希望された症例に訪問リハビリテーションで介入し運転再開に至った一症例を報告する。症例は高次脳機能障害がみられないものの、中等度麻痺が残存した。本人や家族の不安が強く、制度についても分からず、自動車運転は難しいと考えていた。訪問リハビリテーションにて評価・検討を行い、制度の指導で不安を解消することにより、自動車運転を再開し、本人の役割の再獲得ができた。
【はじめに】
当事業所のある岐阜県は、移動に自動車を使用することが多い。一般社団法人自動車検査登録情報協会によると一世帯当たりの自動車の普及台数が1.545台でありこれは全国で8位にあたり、自動車に依存した生活というのが窺える。そのため、実際のリハビリテーションの臨床場面でも、自動車を運転したいとの意見が多く聞かれる。今回、夫婦二人暮らしで、自動車運転の再開を希望された症例に対し、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)で介入し、運転再開に至った一症例を報告する。なお、今回の発表に対する症例の同意は得ている。
【症例紹介】
80歳代男性。脳梗塞。要介護1。左片麻痺BRS(Lt):上肢4.手指3.下肢5。MMSE:30点。FIM:116点(移動はT字杖歩行で自立)。LSA(Life-Space Assessment):45点。
主訴:車を新車で買ったのにすぐに病気で入院しそれから乗っていない。妻は免許を持っていないため、娘が買い物や喫茶店に連れて行ってくれる。もともと病気になる前は家族でよく一緒に行っていたのに、自分では行けなくなった。車の運転を再開したいけど不安で家族も止める。どこに連絡すればいいかわからない。
生活行為聞き取りシート(車の運転がしたい):実行度1/10、満足度3/10。
週2回の訪問リハ、週2回の通所リハビリテーションを利用。【運転支援介入】
(1)連携:主治医に連絡。検査の結果次第では書類を書くことは可能。
ケアマネージャーに連絡。利用者の要望を伝え、ケアプランに記載依頼を行う。
(2)自動車乗車評価:実際に車まで移動し、エンジンをかけない状態での、車の乗り降り、ハンドル操作、ギアチェンジ、ブレーキ・アクセル操作、後方目視の確認を評価。ハンドル回転にやや不安があったため回旋補助装置(ハンドルスピナー)を購入することを提案。その他は、問題が見られなかった。
(3)SDSA評価:運転合格予測式総計8.170、運転不合格予測式6.398で運転可能なレベルであった。しかし、評価の途中で注意の分配が不十分によるミスが目立ったため、100マス計算を自主訓練で行うように課題を提示した。SDSA評価の結果に関して医師に報告。
(4)臨時適性検査:岐阜県公安委員会に電話し、評価・手続きを受けてもらうように指導。
(5)公安委員会にて臨時適性検査を受け許可。
(6)娘に同乗し、判断をしてもらうよう指導。その際、問題認められず自立に至る。
【結果】
自動車運転は自立し、現在は妻や孫と買い物や喫茶店に行っている。娘が仕事で忙しいときは孫の迎えに行くなど役割の再獲得もできた。LSA(Life-Space Assessment):71点。生活行為聞き取りシート(車の運転がしたい)実行度:10/10、満足度10/10となった。
【考察】
症例は脳梗塞後遺症による、中等度麻痺や歩行能力の低下が見られていた。そのため症例や家族が麻痺のある状態で、自動車運転が再開することは難しいと考え、さらに制度を知らないためどのように行動をしていくかわからない状態であった。今回、訪問リハにて評価・検討を行いつつ、制度の指導を行うことにより、症例と家族の不安を解消することに努めた。その結果、症例の目標への後押しが行え、自動車運転を再開することができた。さらに運転を再開することで、家族の中での役割の再獲得に至ったのだと考えられる。
しかし、訪問リハ中、実車訓練は困難であり、高次脳機能障害が残存した際など判断が難しい場面が出てくる可能性が高い。そのため医師や、実車訓練を行う自動車学校、運転の可否を判断する公安委員会との情報交換を進め提案していくことが重要になると考えられる。