講演情報
[14-P-D001-02]風景構成法を道具として回想が語られた2事例
*佐藤 靖子1、平清水 友香1 (1. 山形県 医療法人社団斗南会 介護老人保健施設ラフォーレ天童)
風景構成法(以下、LMT)は非言語的コミュニケーションや心理療法の意味を有する。LMTを入所者に実施しているが、描画が回想刺激となりLMTと回想を同時に行える事例を経験したので2事例につき報告する。LMTと回想を行うことは入所者の心理特性を把握でき、介護士の介護負担感が軽減しケアの一助となると推察された。
風景構成法(The Landscape Montage Technique、以下LMT)は1969年に中井久夫によって創案された描画法であり、一定の枠組みの空間に描画された要素の構成的な意味などを読み取る技法である。また彩色の過程は投影的表象を表現している。LMTは非言語的コミュニケーションや心理療法の意味をも有し、実施対象は主に児童や統合失調症で行われているが、高齢者への実施も少数の報告がある。
LMTでは描画後に季節、時間、場所、アイテムなどについての話し合いをおこなう。話し合いの過程で問いかけを思い出に結び付くようにすると回想となることがある。今回、LMT実施時に回想に至ったった事例を経験した。LMTおよび回想により個人史を知り、性格傾向、認知レベル、現在の心理状態などを把握し、ケアに活かせた事例を経験した。
【倫理的配慮】報告にあたり本人、家族の同意を得た。利益相反なし
【対象および方法】
対象は実施に協力の得られた入所中の2事例。LMTの実施時間は約1時間。枠づけされた白の八つ切り画用紙に、大景群(川、山、田、道)、中景群(人、木、家)、小景群(花、動物、石)を順に書き加えて風景画を作成してもらい、クレヨンで色付けしてもらった。LMTの構成型分類は高石1)の自我発達と関連付けた構成型分類(I羅列型~VII完全統合型)によって分類した。描画後に描画のアイテムなどを材料として回想を試みた。
【事例紹介】
事例1 85歳、女性 アルツハイマー病、要介護1、A1、IIb、HDS-R 20点
LMT:構成型VI 立体的統合型。全体的な纏まりはあるが、空白が多く色彩は全体的に暗い。川は幅が狭いが2本、道は広く描画されており精神的エネルギーは保たれている。山はなだらかな連山であるが、茶色で塗りつぶされており木は描かれていない。田の面積は左下に広めに緑色に描画されており、農作業に従事してきたことを物語る。人(自己像)は不釣り合いに大きい。家は屋根に小屋根が乗っており、ほぼ中央に描かれている。花は数多いが黒の線で描かれている。動物はヤギであり乳房が描かれている。木と石は描画がない。
回想:5人兄弟の長女として出生。父親は戦後マラリアで死亡。母親は脳梗塞となり、祖母と2人で農業と養蚕で家計を支えたが貧しく、朝は友人から学校へ登校するのを誘われるので隠れていたことは悔しく涙が出る。中学校卒業後は農業を行い、結婚後も農業を営んだ。母乳が出なかったのでヤギの乳を搾って子供に飲ませた。2人の子供と孫がいて今は幸せ。
事例2 82歳、女性 アルツハイマー病、要介護4、A2、IIb、HDS-R 12点
LMT:構成型IV 平面的統合型。川(最上川とのこと)、道の幅は狭く、田の面積は極めて広い。山は小さい7峰の連山。茶色で塗りつぶされており木は描かれていない。中景群と小景群のアイテムが順番に1列に描画されており、人は夫、木は杉、家は小さい。花はひまわり、動物はヤギとのことである。石の描画はない。全体的に空白が多いが、色彩は多彩である。
回想:田畑が3町歩あり、子供のころから農作業の手伝いを沢山行った。田植えは速く上手にできたと得意げな表情となった。
経過:2事例ともLMT、回想を実施後は心理的安定が得られ、介護士の介護負担感が軽減した。
【考察および結語】
LMTは作品の解釈、制作過程のコミュニケーションなど様々な要素を含んでおり、構成型分類は自我発達過程と関連している。高齢者は自分の人生について語ることがあり、自伝、口述史、語り、ライフレビュー、回想などの枠組みがある。人生の折々の経験や出来事がごく自然に思い出される心的過程が回想である。日常的なケアの場で意図的に回想法を活用してケアに生かすことも重要である。回想を肯定的に捉えて利用するとケアの一助となり、介護者の負担感が軽減し介護者が相手の人生を知り、肯定的に接するようになることもある。しかし、時には否定的な経験が語られることもあるので慎重さも必要である。
コラージュと回想を同時に実施した報告はあるが、今回はLMTと回想を同時に実施した。個別に実施し、所用時間は約90分であった。LMTは農村風景が描かれるので農業に従事してきた人は自分の人生を語り始め、回想の刺激材料となることがある。
事例1はLMTから描画はまとまっており認知レベルが保たれているが、アイテムからは退行的、受動的傾向にあると推察される。貧しくて学校に行けなかった悔しい思いが語られたが、今は幸せと過去の清算があった。事例2のLMTは風景の統合が困難で認知レベルの低下があり、依存的傾向にあるので介護士は介護負担感が多いと感じるのであろう。回想ではAさんと同様に子供のころから農作業の手伝いやヤギの搾乳を行っていたことを生き生きと話され心理的解放があった。
LMTと回想を連続的に行うことは性格傾向、心理状態、認知レベルなどの把握、および心理的効果などが得られケアの一助となると推察された。
【参考文献】
1)高石恭子:甲南大学学生相談室紀要、第2号:38-47,1994
LMTでは描画後に季節、時間、場所、アイテムなどについての話し合いをおこなう。話し合いの過程で問いかけを思い出に結び付くようにすると回想となることがある。今回、LMT実施時に回想に至ったった事例を経験した。LMTおよび回想により個人史を知り、性格傾向、認知レベル、現在の心理状態などを把握し、ケアに活かせた事例を経験した。
【倫理的配慮】報告にあたり本人、家族の同意を得た。利益相反なし
【対象および方法】
対象は実施に協力の得られた入所中の2事例。LMTの実施時間は約1時間。枠づけされた白の八つ切り画用紙に、大景群(川、山、田、道)、中景群(人、木、家)、小景群(花、動物、石)を順に書き加えて風景画を作成してもらい、クレヨンで色付けしてもらった。LMTの構成型分類は高石1)の自我発達と関連付けた構成型分類(I羅列型~VII完全統合型)によって分類した。描画後に描画のアイテムなどを材料として回想を試みた。
【事例紹介】
事例1 85歳、女性 アルツハイマー病、要介護1、A1、IIb、HDS-R 20点
LMT:構成型VI 立体的統合型。全体的な纏まりはあるが、空白が多く色彩は全体的に暗い。川は幅が狭いが2本、道は広く描画されており精神的エネルギーは保たれている。山はなだらかな連山であるが、茶色で塗りつぶされており木は描かれていない。田の面積は左下に広めに緑色に描画されており、農作業に従事してきたことを物語る。人(自己像)は不釣り合いに大きい。家は屋根に小屋根が乗っており、ほぼ中央に描かれている。花は数多いが黒の線で描かれている。動物はヤギであり乳房が描かれている。木と石は描画がない。
回想:5人兄弟の長女として出生。父親は戦後マラリアで死亡。母親は脳梗塞となり、祖母と2人で農業と養蚕で家計を支えたが貧しく、朝は友人から学校へ登校するのを誘われるので隠れていたことは悔しく涙が出る。中学校卒業後は農業を行い、結婚後も農業を営んだ。母乳が出なかったのでヤギの乳を搾って子供に飲ませた。2人の子供と孫がいて今は幸せ。
事例2 82歳、女性 アルツハイマー病、要介護4、A2、IIb、HDS-R 12点
LMT:構成型IV 平面的統合型。川(最上川とのこと)、道の幅は狭く、田の面積は極めて広い。山は小さい7峰の連山。茶色で塗りつぶされており木は描かれていない。中景群と小景群のアイテムが順番に1列に描画されており、人は夫、木は杉、家は小さい。花はひまわり、動物はヤギとのことである。石の描画はない。全体的に空白が多いが、色彩は多彩である。
回想:田畑が3町歩あり、子供のころから農作業の手伝いを沢山行った。田植えは速く上手にできたと得意げな表情となった。
経過:2事例ともLMT、回想を実施後は心理的安定が得られ、介護士の介護負担感が軽減した。
【考察および結語】
LMTは作品の解釈、制作過程のコミュニケーションなど様々な要素を含んでおり、構成型分類は自我発達過程と関連している。高齢者は自分の人生について語ることがあり、自伝、口述史、語り、ライフレビュー、回想などの枠組みがある。人生の折々の経験や出来事がごく自然に思い出される心的過程が回想である。日常的なケアの場で意図的に回想法を活用してケアに生かすことも重要である。回想を肯定的に捉えて利用するとケアの一助となり、介護者の負担感が軽減し介護者が相手の人生を知り、肯定的に接するようになることもある。しかし、時には否定的な経験が語られることもあるので慎重さも必要である。
コラージュと回想を同時に実施した報告はあるが、今回はLMTと回想を同時に実施した。個別に実施し、所用時間は約90分であった。LMTは農村風景が描かれるので農業に従事してきた人は自分の人生を語り始め、回想の刺激材料となることがある。
事例1はLMTから描画はまとまっており認知レベルが保たれているが、アイテムからは退行的、受動的傾向にあると推察される。貧しくて学校に行けなかった悔しい思いが語られたが、今は幸せと過去の清算があった。事例2のLMTは風景の統合が困難で認知レベルの低下があり、依存的傾向にあるので介護士は介護負担感が多いと感じるのであろう。回想ではAさんと同様に子供のころから農作業の手伝いやヤギの搾乳を行っていたことを生き生きと話され心理的解放があった。
LMTと回想を連続的に行うことは性格傾向、心理状態、認知レベルなどの把握、および心理的効果などが得られケアの一助となると推察された。
【参考文献】
1)高石恭子:甲南大学学生相談室紀要、第2号:38-47,1994