講演情報
[14-P-D001-03]興味関心チェックシートを利用した認知症アプローチ
*森井 聖冴樹1、加藤 貴康1、西部 貴揮1、山内 洋樹1、折付 直也1、松本 直澄1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設ケアコートみやこ)
認知機能低下が在宅復帰の障害となる老人介護保険施設において,利用者の興味や関心に基づいた会話をリハビリテーションに取り入れることで認知機能の向上を目指した.アンケートを通じて得た情報を元に,open questionで会話を行った.短期的には統計的に有意な改善は見られなかったが, 認知機能スコアは上昇した.また,リハビリテーションへの拒否の軽減や会話量増加に寄与し,心理的安定にも繋がる可能性が示唆された.
はじめに
老人介護保険施設から在宅復帰が困難となる要因は多義にわたるが,その中でも認知機能の低下は重要な要素となる.認知機能低下は高齢者の日常生活の自立や安全を脅かし,在宅での介護を難しくする一因となる.当施設も利用者の認知機能向上を目的とした回想療法や音楽療法などの取り組みを定期的に実施している.リハビリテーション科でも認知機能加算期間中は認知機能に対して積極的なアプローチができ,機能の維持・向上がみられるが,認知機能加算期間終了後は認知機能が低下する傾向がある.また,各フロアスタッフから利用者の様子を聞くと,他者との会話が少なく問いかけにも反応も乏しいと報告を受けることが多いが,リハビリ介入時は1対1という事もあり,セラピストとの会話で昔の思い出話などで,多弁となる場面も多く経験する.太田ら(2009)は「患者が自由に感情を表現出来るように工夫を示していくことは,他者への関心を示し,肯定的回想を促し心理療法として患者の意欲を高める」「意欲が高まることにより患者の不安や抑うつといった症状は改善される」と示した.そこで身体機能訓練と合わせて認知機能に働きかけるアプローチが必要となる.本研究では,利用者の家族に協力を仰ぎ,利用者の過去に得意だったことや興味を持っていた事をリハビリテーションの中で会話として取り入れることで認知機能の向上を図ることを目的とした.
対象
男性6人 女性31人 平均年齢87歳±5.9 認知に関わる病名 アルツハイマー型認知症 16人 レビー小体型認知症 2人 脳血管性認知症 2人 老年期認知症 13人 脳血管疾患 12人 長谷川式認知スケール(以下HDS-R)25点~5点の全利用者とし途中退所者は除外とした.
方法
利用者の興味や関心を知るため,家族に興味・関心チェックシートの記載を依頼した.利用者の好みや,得意なこと,思い出などを記載してもらい,これに基づきリハビリテーション中に利用者とopen question方式で会話を行った.open questionとは,答えが「yes」「no」ではなく,自由に表現できる方法である.具体的には,以下のような質問で実施した.
「若い頃にバイクが趣味だとお聞ききしましたが,どんなバイクをのっていましたか.」
「以前のお仕事はウエディングドレスのデザイナーをされていたのですね.一番印象に残っているデザインはどんなデザインですか.」
「ご家族や友人と旅行によく出掛けたそうですね.一緒に過ごした思い出深い旅行先について教えてください.」これらの質問をリハビリ介入時に行った.認知機能検査はHDS-Rを用いて開始時と開始3ヶ月後に再評価を実施した.また,年齢の差によって変化はあるか検討した.統計処理はR4.4.1を使用し Shapiro-Wilk検定後,対応のあるT検定を行い有意水準=0.05とした.
結果
アンケートの回収率は67%であった.HDS-Rの平均点は取り組み開始当初は16.5±5.7,取り組み開始3ヵ月経過後は17.5±5.8 対応のあるT検定を行ったところ,P>0.05で有意な差は認められなかった.年齢での比較では,70代では開始当初は15.0±4.24取り組み開始3ヶ月後は16.5±8.5であった.80代では開始当初は12.94±3.85取り組み開始3ヶ月後は14.22±3.45であった.90代では開始当初は14.23 ± 5.77取り組み開始3ヶ月後は15.38 ± 6.66であった.どの年代もHDS-Rの平均点の向上がみられた.
考察
本研究の結果,認知機能の向上を目的とした会話の取り入れが,短期間では統計的に有意な改善をもたらさなかったものの,以下の点で肯定的な効果が観察された.
HDS-Rの平均点の上昇
HDS-Rの平均点は、全体的に見ると取り組み開始当初に比べ3ヶ月経過後の点数は上昇した.特に年代別に見ても,全ての年代で平均点が上昇していることが確認された.これにより,年代に関係なく,利用者の認知機能が向上する傾向が見られたと言える.このことは,利用者の興味や関心に基づいた会話が認知機能の維持・向上に寄与する可能性を示唆された.
利用者のリハビリテーションへの受け入れ
利用者の興味や関心に基づいた会話を取り入れることで,リハビリテーションに対する利用者の受け入れ姿勢が改善され,拒否が軽減されたことが主観的に確認された.これは,利用者が自身の過去の経験や趣味について話す機会が増えることで,リハビリテーションに対する抵抗感が減少し,積極的な参加意識が高まったためと考えられる.太田ら(2009)が示した「患者が自由に感情を表現できるようにすることが意欲を高め,不安や抑うつの改善につながる」との見解も本研究の結果と一致する.
コミュニケーションの増加
リハビリテーションのセッション中に行われるopen question方式の会話は,利用者とセラピストの間のコミュニケーションの量を増加させた.具体的には,利用者が多弁になる場面が多く観察され,これが心理的な安定感を促進した可能性が示唆される.コミュニケーションの増加は,利用者の社会的参加にも寄与し,リハビリテーション全体の質を向上させる重要な要素である.
長期的な効果の可能性
短期間では統計的に有意な認知機能の改善は見られなかったものの,長期的な視点で見れば,利用者の興味や関心を取り入れた会話が継続されることで,徐々に認知機能に対する肯定的な影響が現れる可能性がある.認知機能の改善には時間がかかるため,より長期的な介入研究が必要と考えられる.
結論
本研究では,利用者の興味や関心に基づいた会話をリハビリテーションに取り入れることで,認知機能の短期的な改善は統計的に有意ではなかったものの, HDS-Rの平均点は全体的に上昇しており,特に年代別に見ても全ての年代で改善が見られた.また,リハビリテーションへの拒否の軽減やコミュニケーションの増加が観察された.これらの結果は,利用者の心理的な安定やリハビリテーションの質の向上に寄与する可能性があると考える.今後は,長期的な介入や多様な評価方法を導入し,認知機能の変化をより詳細に評価することが求められる.
老人介護保険施設から在宅復帰が困難となる要因は多義にわたるが,その中でも認知機能の低下は重要な要素となる.認知機能低下は高齢者の日常生活の自立や安全を脅かし,在宅での介護を難しくする一因となる.当施設も利用者の認知機能向上を目的とした回想療法や音楽療法などの取り組みを定期的に実施している.リハビリテーション科でも認知機能加算期間中は認知機能に対して積極的なアプローチができ,機能の維持・向上がみられるが,認知機能加算期間終了後は認知機能が低下する傾向がある.また,各フロアスタッフから利用者の様子を聞くと,他者との会話が少なく問いかけにも反応も乏しいと報告を受けることが多いが,リハビリ介入時は1対1という事もあり,セラピストとの会話で昔の思い出話などで,多弁となる場面も多く経験する.太田ら(2009)は「患者が自由に感情を表現出来るように工夫を示していくことは,他者への関心を示し,肯定的回想を促し心理療法として患者の意欲を高める」「意欲が高まることにより患者の不安や抑うつといった症状は改善される」と示した.そこで身体機能訓練と合わせて認知機能に働きかけるアプローチが必要となる.本研究では,利用者の家族に協力を仰ぎ,利用者の過去に得意だったことや興味を持っていた事をリハビリテーションの中で会話として取り入れることで認知機能の向上を図ることを目的とした.
対象
男性6人 女性31人 平均年齢87歳±5.9 認知に関わる病名 アルツハイマー型認知症 16人 レビー小体型認知症 2人 脳血管性認知症 2人 老年期認知症 13人 脳血管疾患 12人 長谷川式認知スケール(以下HDS-R)25点~5点の全利用者とし途中退所者は除外とした.
方法
利用者の興味や関心を知るため,家族に興味・関心チェックシートの記載を依頼した.利用者の好みや,得意なこと,思い出などを記載してもらい,これに基づきリハビリテーション中に利用者とopen question方式で会話を行った.open questionとは,答えが「yes」「no」ではなく,自由に表現できる方法である.具体的には,以下のような質問で実施した.
「若い頃にバイクが趣味だとお聞ききしましたが,どんなバイクをのっていましたか.」
「以前のお仕事はウエディングドレスのデザイナーをされていたのですね.一番印象に残っているデザインはどんなデザインですか.」
「ご家族や友人と旅行によく出掛けたそうですね.一緒に過ごした思い出深い旅行先について教えてください.」これらの質問をリハビリ介入時に行った.認知機能検査はHDS-Rを用いて開始時と開始3ヶ月後に再評価を実施した.また,年齢の差によって変化はあるか検討した.統計処理はR4.4.1を使用し Shapiro-Wilk検定後,対応のあるT検定を行い有意水準=0.05とした.
結果
アンケートの回収率は67%であった.HDS-Rの平均点は取り組み開始当初は16.5±5.7,取り組み開始3ヵ月経過後は17.5±5.8 対応のあるT検定を行ったところ,P>0.05で有意な差は認められなかった.年齢での比較では,70代では開始当初は15.0±4.24取り組み開始3ヶ月後は16.5±8.5であった.80代では開始当初は12.94±3.85取り組み開始3ヶ月後は14.22±3.45であった.90代では開始当初は14.23 ± 5.77取り組み開始3ヶ月後は15.38 ± 6.66であった.どの年代もHDS-Rの平均点の向上がみられた.
考察
本研究の結果,認知機能の向上を目的とした会話の取り入れが,短期間では統計的に有意な改善をもたらさなかったものの,以下の点で肯定的な効果が観察された.
HDS-Rの平均点の上昇
HDS-Rの平均点は、全体的に見ると取り組み開始当初に比べ3ヶ月経過後の点数は上昇した.特に年代別に見ても,全ての年代で平均点が上昇していることが確認された.これにより,年代に関係なく,利用者の認知機能が向上する傾向が見られたと言える.このことは,利用者の興味や関心に基づいた会話が認知機能の維持・向上に寄与する可能性を示唆された.
利用者のリハビリテーションへの受け入れ
利用者の興味や関心に基づいた会話を取り入れることで,リハビリテーションに対する利用者の受け入れ姿勢が改善され,拒否が軽減されたことが主観的に確認された.これは,利用者が自身の過去の経験や趣味について話す機会が増えることで,リハビリテーションに対する抵抗感が減少し,積極的な参加意識が高まったためと考えられる.太田ら(2009)が示した「患者が自由に感情を表現できるようにすることが意欲を高め,不安や抑うつの改善につながる」との見解も本研究の結果と一致する.
コミュニケーションの増加
リハビリテーションのセッション中に行われるopen question方式の会話は,利用者とセラピストの間のコミュニケーションの量を増加させた.具体的には,利用者が多弁になる場面が多く観察され,これが心理的な安定感を促進した可能性が示唆される.コミュニケーションの増加は,利用者の社会的参加にも寄与し,リハビリテーション全体の質を向上させる重要な要素である.
長期的な効果の可能性
短期間では統計的に有意な認知機能の改善は見られなかったものの,長期的な視点で見れば,利用者の興味や関心を取り入れた会話が継続されることで,徐々に認知機能に対する肯定的な影響が現れる可能性がある.認知機能の改善には時間がかかるため,より長期的な介入研究が必要と考えられる.
結論
本研究では,利用者の興味や関心に基づいた会話をリハビリテーションに取り入れることで,認知機能の短期的な改善は統計的に有意ではなかったものの, HDS-Rの平均点は全体的に上昇しており,特に年代別に見ても全ての年代で改善が見られた.また,リハビリテーションへの拒否の軽減やコミュニケーションの増加が観察された.これらの結果は,利用者の心理的な安定やリハビリテーションの質の向上に寄与する可能性があると考える.今後は,長期的な介入や多様な評価方法を導入し,認知機能の変化をより詳細に評価することが求められる.