講演情報
[14-P-D001-04]帰宅願望・不眠のある利用者への関わり方
*牧野 理恵1 (1. 福井県 あじさい)
入所利用者に対し、施設生活を安心して過ごすためにどのように関わりを持てばよいか考えて取り組んだので報告する。傾聴を基本とし、対象利用者が興味や意欲の持てる事を本人と家族に聞き取りを行い、実施した。帰宅願望・不眠が無くなる事はなかったが、穏やかに過ごす時間は増えた。介護面での関わりだけでは不十分であり、医療面など多職種、家族との連携が重要であると感じられたので報告した。
「はじめに」 認知症の周辺症状の1つに帰宅願望がある。帰宅願望への介護の目標とは帰宅願望を無くすことではなく、その原因となる不安や焦りを緩和すること、そして落ち着いて過ごすことが出来ることにより表情が和らぐことである。今回、入所直後よりほぼ毎日帰宅願望があり時には職員に対し興奮して強い口調で訴え、毎日のように荷造りをし、不眠の利用者を対象としてより安心して過ごすためにどのような関わりを持てばよいか考えて取り組んだので、その経過と結果を報告する。「方法」実施期間令和5年8月~11月1.帰宅願望時には本人の思いに寄り添い傾聴する帰宅願望への対応として絶対におこなってはいけない介護は、帰りたいという訴えや行動を問題視したり、行動を抑制したり、帰りたいという要求を説得したり否定しようとすること、帰りたいという訴えの裏にある理由を知ろうとせずにその場限りの対応でごまかすことである。本人の帰宅願望時にはできるだけ上記に注意して傾聴する。2.毎朝新聞を手渡す3.8月より裁縫クラブに参加する(毎週金曜日)施設での生活を落ち着いて過ごすために何かできないかと考え、本人・家族に、本人が日常的に行ってきたことや趣味は何か、興味があることは何かなど聞き取りを行った。自宅では新聞を読んでいた為、毎朝提供し読んでもらう。また、編み物が好きであることであった為、8月より裁縫クラブに参加してもらう。4.10月より手作業の声かけを行う(1日1度) タオルたたみ・新聞たたみ・塗り絵・レクリエーションの作品作りなど本人は日中、ぼんやりして過ごしていることも多かった。そこで、10月より何かひとつを1日に1度時間を定めず、本人に声をかけて拒否がなければ手作業を提供する。「倫理的配慮」 ご本人、ご家族に対して趣旨を説明し、目的以外に使用しないことを伝え、同意を得た。「結果」1.帰宅願望時の対応は、職員が一対一で傾聴できるときは本人の言葉を聞くことができたため落ち着いた様子が見られることもあったが、夜間など職員の手が足りなく十分に傾聴することができないこともあった。本人から「いつ迎えに来る?」と家族を気にするような言葉も聞かれた。期間を通して帰宅願望が無くなることはなかったが、興奮して激しい口調で訴えることは少なくなっていった。2.新聞を手渡すことにより職員との会話やほかの利用者とのやり取りが増えた。本人から「新聞まだ読んでないから見せて」と希望されたり「ありがとう」との言葉も増えた。3.裁縫クラブの参加当初は拒否があり、見ているだけでぼんやりしていることもあったが、一ヶ月後を過ぎるころには参加曜日以外の日にも自分から向かうこともあり、終了後には職員に「ありがとう」と言われるようになった。出来上がった作品を通して家族と面会してもらうことができ、面会時には本人の笑顔も見られた。4.手作業はほぼ拒否なく参加されていた。手作業後職員よりお礼を伝えると、「いいよ。いつでもするよ。」と言われることもあった。 期間を通して帰宅願望が無くなることはなかったが、穏やかに過ごせる時間が増えていった。時間の経過とともに施設に慣れてきたためか、荷造りすることも少なくなってきた。夜間の帰宅願望も少なくなっていったが、不眠状態は変わらなかった。「考察」 取り組み前と比較して、本人の帰宅願望は昼夜変わらず見られるが、興奮して激しく訴えることが少なくなってきたこともあり、穏やかに過ごす時間が増えてきたのではないかと考える。また、手作業等の参加により、ほかの利用者や職員と関わる時間も増えたため、施設生活にも馴染んで落ち着いた時間が過ごせてきていると考えられる。本人の作った裁縫クラブの作品をきっかけに、それまで面会のなかった家族が毎月面会に来所されるようになった。面会のたびに本人は嬉しそうな笑顔をされており、これは本人の“できる”という自信が持てたことと家族との交流が持てたためではないかと考えられる。帰宅願望を訴えた際、「いつ迎えに来る?」と家族を気にするような言葉がたびたび見られた。本人が不安感を持っているように感じられたが、傾聴のむずかしさを感じた。 夜間の不眠状態はほとんど改善されず、介護だけでは解決できないことを早く気が付いて多職種との連携をとるべきであったことを反省した。「終わりに」帰宅願望に対する傾聴はとても重要な介護である。また、その根底にある不安感は人それぞれに違った理由があり、認知症の症状も人それぞれである。介護は介護職のみでは行えない。利用者その人を良く理解し、健康管理や体調管理、身体のケアを行い、コミュニケーションを工夫し、周囲の環境を整え、日々の活動の機会を提供し役割や自信を持てるようにサポートし、介護職はもちろん、多職種と介護に関わる家族が連携して一貫したチームケアを実践していくことが重要である。参考文献続・初めての認知症介護―徘徊・興奮暴力・帰宅願望解説集― http://www.dcnet.gr.jp/