講演情報

[14-P-A001-03]後期高齢者の日常生活自立度が皮膚、体臭へ及ぼす影響

*小山田 裕一1、松浦 和孝1、居村 晴美1、升田 賢太2 (1. 大阪府 松下介護老人保健施設はーとぴあ、2. ロート製薬株式会社)
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高齢者の皮膚状態や臭いについてはいくつか報告があるが、生活環境や自立度の違いによる皮膚や体臭挙動の報告はないため、本施設利用者を対象としてロート製薬株式会社と共同研究を行った。利用者及び職員を対象としたアンケートと、肌状態、体臭評価を実施した結果、日常生活自立度のランク間でいくつか特徴が見られ、皮膚や臭い関連トラブルに対して、生活環境や健康状態に合わせた適切なケアが実現できる可能性が示唆された。
【目的】
日本は高齢化が急速に進み、高齢者向けの施設や住宅を利用する高齢者も急速に増加している。一方で高齢者は同年代であっても生活環境や自立度が個人間で大きく異なり、それぞれに応じて適切なケアを考えていく必要性が高い。介護現場において、利用者の肌トラブルや臭いが問題になるケースが多く、高齢者の肌状態や介護施設の臭いに関しては数多くの報告がされている。しかしながら生活環境や自立度の違いによる皮膚状態や体臭の違いについては報告がみられない。その特徴を把握することでさらに適切なケアが提供できると考え、今回ロート製薬株式会社との共同研究により本研究を行った。
【方法】
1.研究対象者:厚生労働省が規定する障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)ランクJ、A、Bに該当する方を本施設に入居もしくは通所している女性から各12名ずつ、計36名選んだ。また、障害高齢者の群とは関係なく、認知症高齢者の日常生活自立度のランクI、II、IIIに該当する方が少なくとも5名ずつ含まれるように割付を行った。なお、ランクJ対象者は通所で本施設を利用しており、ランクA、Bの対象者は入所利用している。
2.皮膚トラブル及び体臭に関するアンケート(利用者36名及び介護士・看護師18名対象):利用者に対しては気になる肌トラブルの種類と発生部位、かゆみに関して(時期、部位、程度、発症時期)調査し、利用者を担当する介護士と看護師を対象には肌トラブルに加えて臭いに関しても調査を行った。
3.皮膚測定:背部及び片腕の前腕内側部の肌水分量と、血流量、肌画像撮影、肌色差の測定を行った。なお血流量に関しては爪部に関しても測定を行った。
4.後背部の体臭評価:入浴後に指定の肌着を着用し、24時間後に指定の肌着を回収した。後背部の体臭評価は、回収した肌着に対し、専門家パネラーによる官能評価と、GC-MSによる体臭成分分析を行った。
【結果】
1.皮膚トラブル及び体臭に関するアンケート:日常生活自立度の高いランクJの方が特に背中に関して最もかゆみの自覚症状があったが、介護士・看護師対象のアンケートでは、ランクJの肌トラブルは特に気にならないという結果であった。
2.肌測定(肌水分量と肌色差):肌水分量はいずれの群も高い水準になっており、ランクJの方の背部の赤みが強い傾向が確認できた。
3.肌測定(血流):血流に関する評価として、毛細血管スコープを用いて解析を行った。かゆみが気になると回答した方の方が毛細血管は長く、濁りが少なく、毛細血管の状態としては良好な傾向であった。
4.体臭評価:ランクBの方に関して、官能評価では一般的に知られている糞尿臭の他にも不快感を伴う特徴的な臭気が確認され、成分分析に関してもランクBに特異的に多く検出される成分が発見された。この成分は例えば一般的に腋臭に見られることの多い成分と言われている。
【考察】
アンケート調査では、ランクJにおいて利用者にはかゆみの自覚症状があったが、介護士・看護師は視覚的にトラブルは気にならないという解離が見られた。皮膚測定の結果からは、肌状態としては、保湿のケアは十分施されていると思われる一方で、通所であるランクJの方に生じる赤みやかゆみのケアに関しては、皮膚の赤みは一般的に炎症を示唆する所見であり、自宅と介護施設の環境の差あるいは自立されている方本人の皮膚ケアが職員の皮膚ケアに比べて不十分であった可能性も示唆され、皮膚ケアに関する啓発も必要と考えられた。毛細血管の状態、つまり健康状態とかゆみの自覚に関係性が見られたというのは、予想に反する結果であり、今後検討すべき課題である。体臭としてはランクBと他群との間で群間差があり、一般的な糞尿臭以外にも周囲に心理的な影響を与える成分が存在する可能性が示唆された。このことは自立度の低下と臭いの問題の関連性を紐づけていく上で非常に興味深い結果と考えられた。
【結語】
生活環境や自立度の違いによって高齢者の皮膚状態や体臭に差が見られることが示唆された。
なお、本研究はロート製薬株式会社内の臨床研究等倫理審査委員会で承認を得て、ロート製薬株式会社及びパナソニック健康保険組合 松下介護老人保健施設 はーとぴあにて臨床研究等の実施許可を得て、実施された研究である。