講演情報
[14-P-A001-07]多職種支援と組織づくりの重要性集団感染を経験して
*大石 敏也1、松井 悠太1、鈴木 教靖1 (1. 静岡県 介護老人保健施設 平安の森)
早期よりCOVID-19に罹患した利用者に対してリハビリテーションの実施やカンファレンスで情報を共有した上で、多職種で検討し支援をしたことで日常生活動作能力の低下を予防することができた。また、日頃より活動している栄養サポートチーム等の委員会活動が良い結果に繋がったため報告する。今回、COVID-19による集団感染を経験して、普段より取り組んでいる組織づくりが改めて重要であると考えられたので報告した。
【はじめに】 新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)は2023年5月から、これまでの「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から5類感染症へとCOVID-19の分類が変わった。介護老人保健施設のような高齢者施設では、重症化しやすい基礎疾患のある利用者が多く入所しており、隔離された状態で入所生活が長期化した場合、運動機能や日常生活動作(以下ADL)能力の低下が起こることが予想される。COVID-19診療の手引きや小野らの報告により、早期のリハビリ治療や多職種での情報の共有が重要であると述べられている。今回、早期よりCOVID-19に罹患した利用者に対してリハビリテーション(以下リハビリ)の実施やカンファレンスで看護師や介護福祉士等と情報を共有した上で、ポジショニングや体位交換、離床、食事再開まで段階的に多職種で検討し支援をしたことでADL能力の低下を予防することができた。また、日頃より活動している栄養サポートチーム(以下NST)等の委員会活動が良い結果に繋がったため報告する。【経過】 2024年1月29日、A病棟入棟中の利用者1名がCOVID-19のPCR検査陽性と判明した。以後利用者25名が陽性となり、感染対策上、利用者の活動範囲は居室のベッドサイド周囲に制限された。個別リハビリテーションの提供は、感染者拡大に伴い2024年2月5日から2月16日までレッドゾーンを対象に専従としてリハビリを実施した。【当施設でのCOVID-19診療体制】 COVID-19病棟にセラピストを1名専従で配置。リハビリの頻度や程度は医師の指示のもと決定。厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症への対応について」を参考に個人防護具は1.サージカルマスク2.ゴーグル・フェイスシールド3.手袋4.N95マスク5.ガウン(利用者および利用者周囲の汚染箇所に直接接触する可能性がある場合)を装着した。リハビリの単位は1単位(20分間)で週3~5回実施した。訓練を受ける利用者にもサージカルマスクを装着し、飛沫を避けるために利用者の正面を避けるように配慮した。 理学療法は、基本動作練習、ADL練習(移乗・歩行・食事)、関節可動域練習、筋力強化練習を行った。必要に応じて呼吸練習、離床練習、車椅子ポジショニング等を個々に合わせて実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき口頭と文書にて十分に説明し同意を得た。【感染前後のADL状況】 感染前と感染直後のADL(移乗・歩行・食事)を3段階で評価した。機能的自立度評価法(FIM)を用いて7点から5点を「可能」、4点から2点を「一部介助」、1点を「不可・未実施」として分類した。感染直後のADLは、「一部介助」、「不可・未実施」の割合が増加した。リハビリ介入後のADLの変化は、各項目で概ね維持から改善と介入効果が得られた。しかし、一定数ADLが低下した利用者もいた。COVID-19重症度分類の軽度に分類される症状であったが、認知症を基礎疾患にもち、低栄養である利用者がADL低下を認め、改善を得られなかった。【施設での取り組み】 当施設では、感染対策チームやNSTは毎月の活動、各病棟では平日にカンファレンスを実施し、よりよいケアが提供できるように協議している。NSTは、摂食条件の検討や経口摂取のフローチャートを作成や多職種に向けての情報発信をして、それを元に看護師や介護福祉士が必要な個別訓練や食事介助を実施している。【考察】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第9.0版)では、隔離によって運動量や活動量が低下しやすいために、隔離期間中であっても、発症早期から機能維持を目標とした適切なリハビリ治療を可能な限り実施することが重要であると述べられており、今回の結果からも早期からのリハビリによりADLが維持できたと考える。当施設では、身体機能、認知機能が低下した高齢者が多く入所している。小野らによると、要介護度の高い高齢者は、予備力に乏しく、誤嚥・感染による発熱を容易に発症する。治療に伴い臥床傾向となるため、高齢者は容易にADL低下をきたす。誤嚥や絶食期間は、嚥下機能も低下し、栄養状態の悪化は点滴の長期化につながり、更なる臥床傾向へと悪循環をもたらす事となる。対応として、利用者の認知機能・身体機能・嚥下機能・ADL能力を把握し、多職種でアセスメントし共有することが重要であると報告している。当施設でも、毎日カンファレンスを開催し、情報を共有している。多職種でのアプローチが良い影響を与えた可能性が考えられる。最後に、日常生活自立度(障害高齢者、認知症)の重症度が高いほど悪化し、日常生活での離床や食事再開が困難であった。介護施設は、専門性の高い職種が多く配置されているわけではないため、看護師とリハビリ職を中心に当施設で作成した摂食嚥下マニュアルをもとに反復唾液テストや水飲みテスト等のスクリーニングテストを用いながら経口摂取の開始を検討していった。限られた人員で、支援できるようにNSTやリハビリ職が情報を発信し、経口摂取の開始基準や離床の進め方等、多職種で協同できる組織づくりを進めている。今回、COVID-19による集団感染を経験して、普段より取り組んでいる組織づくりが改めて重要であると考えられた。