講演情報
[14-P-O001-04]症候群サーベイランスを導入した結果と今後の課題A施設の2023年度からの運用実績より
*宗貞 健一1 (1. 山口県 社会医療法人松涛会 老人保健施設コスモス)
A施設の感染流行を踏まえ、症候群サーベイランスを導入した結果、日常のベースラインと今後の課題を確認したため報告する。症状を発熱、呼吸器症状、嘔吐、下痢に分け、施設の各フロア別に毎日の有病数を算出した。結果、当施設平常時の1日最高有病数は、発熱では2件、呼吸器症状では0件、嘔吐、下痢では各2件であり、感染流行探知の目安ができた。スタッフがタイムリーに感染流行を探知できる体制の構築が急務となる。
【目的】感染対策は、その発生や流行を早期に探知し、流行の拡大を最小限に抑えることが要となる。その要求に応える技術として「症候群サーベイランス」がある。これはバイオテロを含む新興・再興感染症の早期探知を目的として、アメリカ、台湾、韓国など諸外国ではすでに実用化されている1)。A施設においては、入所者のADLや医療度により、3フロア(3階、4階、5階)で構成されている老人保健施設であり、2023年7月中旬に新型コロナウイルス感染のクラスターを、同年7月下旬より呼吸器症状のアウトブレイクを、同年11月にノロウイルス感染のアウトブレイクを経験した。その経験を踏まえ、同年12月1日より感染流行を迅速に探知し入所者を感染から守るための対策として、症候群サーベイランスを導入した結果、A施設での日常のベースラインを活用した感染対策の実践など、その有用性を確認するとともに、今後の課題を確認したため報告する。
【方法】1.研究期間 2023年4月1日~2024年5月31日
2.研究対象 上記期間に入所している入所者全員
3.研究方法 症状のカテゴリーを「発熱(ここでは37.0℃を超えるものと定義する)」「呼吸器症状」「嘔吐」「下痢」に分けて、各フロア別に入所者の毎日の有病数を算出しグラフ化した。上記症状のある入所者を要観察者として管理日誌にリストアップして、有病期間を調査した。2023年4月1日から11月30日まではカルテによる後方視的調査を、12月1日から2024年5月31日までは前方視的調査を行った。
【結果】2023年度の3階、4階、5階のフロアごとの各症状別に後方視的に有病数を抽出した。3階での年間の有病数は、発熱80件、呼吸器症状0件、嘔吐15件、下痢10件であった。4階は、発熱106件、呼吸器症状63件、嘔吐8件、下痢1件であった。5階は、発熱41件、呼吸器症状0件、嘔吐1件、下痢0件であった。A施設は7/11から7/23までの期間において、5階で新型コロナウイルス感染のクラスター、7/25から8/13の期間において、4階で呼吸器症状のアウトブレイク(病原体同定できず)、11/4から11/25の期間において、3階と4階でノロウイルスのアウトブレイクを経験した。7/11から7/23までの5階での新型コロナウイルス感染のクラスターの発熱の有病数は31件、図1に示す4階の7/25から8/13までの呼吸器症状のアウトブレイクでは、発熱の有病数56件、呼吸器症状の有病数63件であった。ノロウイルスのアウトブレイクでは、4階の下痢発生を発端に、3階の入所者まで嘔吐、下痢、発熱が波及し、有病数は、4階で嘔吐1件、下痢2件、発熱8件、3階では嘔吐1件、下痢10件、発熱4件であった。全体的にみると、感染流行時の1日の最高有病数は、発熱6件、呼吸器症状8件、嘔吐1件、下痢2件、日常の1日の最高有病数は、発熱2件、呼吸器症状0件、嘔吐2件、下痢2件であった。2024年度5月初旬に、3階での発熱有病数が1日に3件になったため、感染流行を懸念し、発熱者にインフルエンザ・コロナ抗原検査を施行したが陰性であり、医師の診察にて感染流行は否定されたため、標準予防策で対応した事例もあった。
【考察】2023年度の日常の有病数をベースラインと定義すると、発熱に関しては1日の最高有病数が2件であるが、2024年5月にはベースラインを超えた1日の発熱有病数が発生したことで、検査施行の判断に至ることができたことは、検査結果が陰性であっても施設内の感染流行の可能性を予測できたという意味で、症候群サーベイランスは有用であったと考える。また、呼吸器症状については、A施設は日常の1日の最高有病数は0件であるため、当該症状が1件でも発生すれば感染流行を疑い、感染隔離および検査が必要という判断に至ることができる。2023年度の日常の嘔吐の1日の最高有病数は2件であるが、感染流行時の1日最高有病数は1件であった。日常の有病者数が感染流行時よりも多い結果に至る場合は、有病数データがウイルス性だけでなく、細菌性などの疾患による症状のデータも反映しているためと考える。日常の1日最高有病数が感染流行時の有病数を超えているデータが存在すると、ベースラインの判断がわかりにくいため、有病数データの処理方法について今後の課題である。嘔吐の場合には、原因が感染性の有無に関係なく、1件発生すれば、まず感染隔離対策を迅速に行い、必要に応じた検査をタイミングよく実施する必要があると考える。下痢においても、日常の1日の最高有病数は2件であるため、これを超えたら施設内での感染流行の可能性があると判断できる。今回の症候群サーベイランスは、1年分のデータしかないため、ベースラインは感染流行探知の目安にすぎない。より正確な感染流行の探知を行うためには、今後のデータの蓄積が必要であると考える。先行研究では統計学的に過去のデータを定義することで、感染流行を早期に探知することが可能となる結果が判明しているため、A施設でも過去のデータを統計学的に分析できるようになれば、より迅速な対応が可能となることを期待できる。また、スタッフがA施設の感染流行探知をタイムリーに周知できる体制の構築、および入所者の発熱などの症状が発生した場合に、迅速に情報を収集できるための体制の構築が急務となる。
【結語】1. 施設内での感染流行を迅速に探知するための目安が判明した。そのため、施設内での症候群サーベイランスも有用であることを確認できた。
2.施設内での症候群サーベイランスも有用であるが、より精度をあげるためには、さらなるデータの蓄積と統計学的なデータの分析およびデータの処理方法の検討が必要である。
3.施設内スタッフが、感染流行探知をタイムリーに周知できる体制の構築が急務となる。
【方法】1.研究期間 2023年4月1日~2024年5月31日
2.研究対象 上記期間に入所している入所者全員
3.研究方法 症状のカテゴリーを「発熱(ここでは37.0℃を超えるものと定義する)」「呼吸器症状」「嘔吐」「下痢」に分けて、各フロア別に入所者の毎日の有病数を算出しグラフ化した。上記症状のある入所者を要観察者として管理日誌にリストアップして、有病期間を調査した。2023年4月1日から11月30日まではカルテによる後方視的調査を、12月1日から2024年5月31日までは前方視的調査を行った。
【結果】2023年度の3階、4階、5階のフロアごとの各症状別に後方視的に有病数を抽出した。3階での年間の有病数は、発熱80件、呼吸器症状0件、嘔吐15件、下痢10件であった。4階は、発熱106件、呼吸器症状63件、嘔吐8件、下痢1件であった。5階は、発熱41件、呼吸器症状0件、嘔吐1件、下痢0件であった。A施設は7/11から7/23までの期間において、5階で新型コロナウイルス感染のクラスター、7/25から8/13の期間において、4階で呼吸器症状のアウトブレイク(病原体同定できず)、11/4から11/25の期間において、3階と4階でノロウイルスのアウトブレイクを経験した。7/11から7/23までの5階での新型コロナウイルス感染のクラスターの発熱の有病数は31件、図1に示す4階の7/25から8/13までの呼吸器症状のアウトブレイクでは、発熱の有病数56件、呼吸器症状の有病数63件であった。ノロウイルスのアウトブレイクでは、4階の下痢発生を発端に、3階の入所者まで嘔吐、下痢、発熱が波及し、有病数は、4階で嘔吐1件、下痢2件、発熱8件、3階では嘔吐1件、下痢10件、発熱4件であった。全体的にみると、感染流行時の1日の最高有病数は、発熱6件、呼吸器症状8件、嘔吐1件、下痢2件、日常の1日の最高有病数は、発熱2件、呼吸器症状0件、嘔吐2件、下痢2件であった。2024年度5月初旬に、3階での発熱有病数が1日に3件になったため、感染流行を懸念し、発熱者にインフルエンザ・コロナ抗原検査を施行したが陰性であり、医師の診察にて感染流行は否定されたため、標準予防策で対応した事例もあった。
【考察】2023年度の日常の有病数をベースラインと定義すると、発熱に関しては1日の最高有病数が2件であるが、2024年5月にはベースラインを超えた1日の発熱有病数が発生したことで、検査施行の判断に至ることができたことは、検査結果が陰性であっても施設内の感染流行の可能性を予測できたという意味で、症候群サーベイランスは有用であったと考える。また、呼吸器症状については、A施設は日常の1日の最高有病数は0件であるため、当該症状が1件でも発生すれば感染流行を疑い、感染隔離および検査が必要という判断に至ることができる。2023年度の日常の嘔吐の1日の最高有病数は2件であるが、感染流行時の1日最高有病数は1件であった。日常の有病者数が感染流行時よりも多い結果に至る場合は、有病数データがウイルス性だけでなく、細菌性などの疾患による症状のデータも反映しているためと考える。日常の1日最高有病数が感染流行時の有病数を超えているデータが存在すると、ベースラインの判断がわかりにくいため、有病数データの処理方法について今後の課題である。嘔吐の場合には、原因が感染性の有無に関係なく、1件発生すれば、まず感染隔離対策を迅速に行い、必要に応じた検査をタイミングよく実施する必要があると考える。下痢においても、日常の1日の最高有病数は2件であるため、これを超えたら施設内での感染流行の可能性があると判断できる。今回の症候群サーベイランスは、1年分のデータしかないため、ベースラインは感染流行探知の目安にすぎない。より正確な感染流行の探知を行うためには、今後のデータの蓄積が必要であると考える。先行研究では統計学的に過去のデータを定義することで、感染流行を早期に探知することが可能となる結果が判明しているため、A施設でも過去のデータを統計学的に分析できるようになれば、より迅速な対応が可能となることを期待できる。また、スタッフがA施設の感染流行探知をタイムリーに周知できる体制の構築、および入所者の発熱などの症状が発生した場合に、迅速に情報を収集できるための体制の構築が急務となる。
【結語】1. 施設内での感染流行を迅速に探知するための目安が判明した。そのため、施設内での症候群サーベイランスも有用であることを確認できた。
2.施設内での症候群サーベイランスも有用であるが、より精度をあげるためには、さらなるデータの蓄積と統計学的なデータの分析およびデータの処理方法の検討が必要である。
3.施設内スタッフが、感染流行探知をタイムリーに周知できる体制の構築が急務となる。