講演情報

[14-P-O001-06]「高齢者施設での事故対策における一考察」~多職種間連携により事故を最小限に~

*白石 浩一1、藤原 まり乃1、淺見 昌子1、折目 由紀彦1 (1. 東京都 南池袋介護老人保健施設アバンセ)
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事故防止委員会では、インシデントレポートより、時間帯や場所、内容を集計しグループワークの参加型勉強会を実施。さらにはその結果をもとに、改善方法を各部署にて共有し、職員の意識、行動変化について分析結果を報告する。
【はじめに】
当施設は、東京都にある在宅復帰・看取り・リハビリテーションを中心に行っている超強化型の介護老人保健施設である。利用者の男女比率は、男性が26.6%、女性が73.4%。要介護度別の平均は、要支援2が 0.1%、要介護1が 12.3%、要介護2が19.3%、要介護3が26.4%、要介護4が26.5%、要介護5が15.4%。在宅復帰率が58.3%、看取り率が1%。職員は、医師、薬剤師、看護師、介護職員、リハビリテーション職員、支援相談員、介護支援専門員、管理栄養士等様々な職種の職員で構成され、計127名が在籍している。当施設の事故防止委員会にて事故件数を算出した結果、事故の多い時間帯や場所、内容が明らかとなった。同委員会の促進活動を行う事で職員意識や行動変化、事故件数が減少するか否かの検証を行った結果を報告する。

【目的】
多職種間で利用者の情報を共有する。また、職員の様々な視点で意見交換をする事で事故に対する具体的な対策・行動へ繋げる事ができる。

【対象】
職員70名(医師・薬剤師・看護師・介護職員・リハビリテーション職員・支援相談員・介護支援専門員・管理栄養士等)

【方法】
令和5年度のインシデントレポートより、事故の多い時間帯や場所、内容を集計。その結果を元に勉強会の資料を作成。委員会でKYT等のグループワークを行う参加型勉強会を開催。多職種職員間で問題点、原因、対策について様々な視点での意見交換を行った。グループワークの結果を踏まえ、改善方法等各部署で共有し実践。勉強会から2ヵ月後、アンケートにて意識や行動変化について調査・分析を行う。
事故内容:転倒・転落・ずり落ち、内服、内出血、表皮剥離、擦過傷等

【結果】
1.事故発生の原因・分析
1) 椅子座位、もしくは車椅子座位等一定の姿勢で過ごす時間が長く、不良姿勢や血行不良となりやすい。その影響から、倦怠感や各部位の疼痛が出現する為それを回避しようとした際にずり落ちに繋がる。また、一日の中で、午後の時間帯より副交感神経優位となり血圧が降下する。その他、昼食をとる事で血糖値が上昇し、眠気が増す。その結果、脱力し姿勢が崩れる事で滑落に繋がる。
2) 軽食摂取時に、飲水して間もなく尿意を生じる。利用者を職員が誘導し、デイルームが手薄になる為見守りが不十分となり転倒・ずり落ちに繋がる。複数で見守りを行っていると人任せになり易い。
3) 同職種の職員間でのコミュニケーションは、活発であるが多職種間でのコミュニケーションが少なく情報共有が円滑でない場面がみられる。その結果、質問がしづらい状況となり、理解せずに日々の業務に追われてしまう。

2.事故防止に対する実践内容
1) 座り直し・体操・レクリエーション 転倒・ずり落ちが多い時間帯(副交感神経優位となる時間帯)の直前(13:50、15:40)に、確認する時間を設け適宜利用者の座り直しや姿勢修正を行う。看護職員、介護職員、リハビリテーション職員がコミュニケーションを図りながらデイルームにいる全ての利用者の座り直し・ポジショニング見直しを行う。その他、体操やレクリエーションを行う事で覚醒向上を図り転倒・ずり落ち防止に繋げる。
2) 見守り方法の見直し・ラウンド 特に13:50、15:40に、上半身のみではなく、臀部位置・フットレスト確認・修正を徹底する。事故防止委員が部署のラウンドを実施し、注意喚起を行う。
3) ワンポイントレクチャー 月に一度、各部署で検討を要する事項に対し事故防止委員会の職員がワンポイントレクチャーを行う。多職種間のコミュニケーションの場にする事でその後の情報共有の円滑化や事故防止へ繋げる。

勉強会(グループワーク)で事故発生の原因について話し合い、様々な事故対策に繋がった。その後、職員の事故防止に対する意識変化に関してアンケート調査を行った結果、意識が「変わった」が「変わらない」を40%上回った。また、具体的に対策を「行っている」が「行っていない」を38%上回った。事故件数に関しても、昨年対比で67%の減少を認めた(4月・5月前年対比)。

【考察】
同職種間の交流は多く見られるが、多職種間でのコミュニケーションは十分とは言えなかった。今回は、職員間の親睦が深まり、新たな気づきや意識・行動変化のきっかけとなる効果的な勉強会であったと考える。これらの事により、事故件数の軽減に幾分かの影響を及ぼしたのではないかと推測する。

【まとめ】
昨年対比で事故件数が軽減した事は、職員の意欲向上の一要因となった。定着には時間を要するが、今後も引き続き事故防止委員会主催の勉強会を継続し、多職種間連携を強化する事により利用者が安全で安心な療養環境を更に目指していきたい。