講演情報

[15-O-R001-01]老人保健施設における入所時と退所時のQOLを比較

*川田 昂1、米井 美貴1、江角 未佳1、門城 遥星1 (1. 鳥取県 医療法人真誠会介護老人保健施設弓浜ゆうとぴあ)
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介護老人保健施設の入所者において、入所から退所までの間でQOLに変化がみられるかどうか調査を行った。葛谷正文氏によるQOL評価表の作成過程における14項目で評価した。結果入所時と比べて退所時におけるQOLの方が有意に上昇していた。臨んだ場所過ごせている、医師・看護師・療法士を信頼している、トイレに困っていない、の項目が上昇し、環境や職員に慣れたことが考えられた。また楽しみになるなどの項目が低値であった。
【はじめに】近年、健康寿命が長くなってきており、どれだけ長く生きるかということよりどのようにして生きるか?と質の部分を考えるようになってきている。世間ではQOL(Quality Of Life)と呼び「生活の質」と訳される。Quality Of Lifeの「Life」には、「生活」だけでなく「生命」「人生」の意味もあり、主観的な評価を指す用語である。今回老人保健施設の入所者において、入所時から退所時にかけての2~4か月間の間でQOLを調査し比較分析したので報告する。【目的】介護老人保健施設入所者を対象に入所時から退所時にかけてQOLの変化が認められるか評価を行う。【倫理的配慮】今回入所時から退所時までのアンケートを取らせてもらい、研究内容・結果は研究目的以外の使用をしないことを事前に説明し、同意を得、また個人情報等のプライバシーに配慮を行いながら実施した。【方法】1.調査に同意を得られた対象者にQOL評価表を用いて入所時と退所時に調査を行った。調査方法は職員が設問を読み上げ回答を記入した。QOL評価表は葛谷正文氏によるQOL評価表の作成過程における14項目で評価した。2.設問内容は(1)穏やかな気持ちで過ごせている。(2)人として大切に扱われていると感じている。(3)充実した人生だったと感じている。(4)身体の苦痛がなく過ごせている。(5)楽しみになるようなことがある。(6)家族友人との時間を十分に持てている。(7)思い出やこれからのことを話す相手がいる。(8)おいしく食べられるものがある。(9)医師・看護師・療法士を信頼している。(10)臨んだ療養場所で過ごせている。(11)落ち着いた環境で過ごせている。(12)トイレには困ってない。(13)今の状況ならば入院するよりも施設生活を続けたいと思う。(14)介護サービスや看護サービスで満足している。以上の14項目であり回答は5:「そう思う」。4:「まあまあそう思う」。3:「どちらともいえない」。2:「あまり思わない」。1:「そう思わない」の5段階評価で選択してもらった。3.属性として年齢・性別・介護度・栄養リスク・認知症高齢者の日常生活自立度、Barthel Index、HDS-Rも調査した。4.入所時・退所時共に全体平均と項目ごとの平均を求めた。また入所時・退所時の有意差を求めた。【結果】対象者は27名(男性14名女性13名)であった。平均年齢86.3(±7.79)歳。介護度平均2.81(±1.39)。Barthel Index平均56.1(±25.3)。HDS-R平均13.5(±7.34)であった。栄養リスク高4%、中52%、低44%。認知度1は4%、2aは26%、2bはは44%、3aは15%、3bは4%、4は4%であった。各設問の平均値は図を参照とする。入所時・退所時評価ともに平均値3未満の設問は(5)(6)(7)であった。また入所時平均は3.52、退所時平均は3.76であった。全体平均の前後での有意差はP=0,014であり退所時には有意に上昇が認められた。【考察】今回入所時QOL、退所時QOLの2~4か月の期間を評価し、入所時と比べて退所時におけるQOLのほうが有意に上昇していることが分かった。評価結果の中で問(5)「楽しみになるようなことがある」問(6)「家族友人との時間を十分に持てている」問(7)「思い出やこれからのことを話す相手がいる」が入所時・退所時評価において平均3未満であり他の評価に比べて低かった。介護老人保健施設に入所される方の経緯は多種多様であり、理解し入所される方や理解や受容に至る前に入所される方など多岐にわたる。自宅と比べ自由が利きにくい場合や、病院とは生活スタイルが違う為、それらの数値が低下したのだと考える。しかし、問(10)の「臨んだ場所で過ごせている」では問(5)(6)(7)の数値の低下より大きい数値の上昇がみられており、老人保健施設という場所が利用者に受け入れられていると考える。また入所中は他入所者の家族面会の場面に遭遇することもあることから「家族友人との時間を十分に持てている」「思い出やこれからのことを話す相手がいる」などの項目は、個人の寂しさなど助長している可能性はある。楽しみを持つことに関しては抑うつとの関係性も示唆されており、ひとりひとり個人を尊重した心のケアや、楽しみを提供できるような内容の提供を行う必要がある。問(8)の「おいしく食べられるものがある」の回答が5:「そう思う」の方の平均の変化は3.84→3.98、それ以外の人の平均の変化は3→3.38であり、大きな差が生じていた。大谷氏らの研究「高齢者のQOLに果たす食生活の役割」によると食事満足度は主観的QOLとは優位相関があるとされている。今回の食事満足度の高い利用者様はQOLが高く入所中の食事内容の重要性を再認識した。また村田氏らの研究「在宅障害後後期高齢者の家庭内役割とQOLの関連」よりQOLとADLの高い群と低い群の間では有意な相関は認められなかったと述べており、今回の検査結果よりバーセルインデックス85以上が自立群とされており85以上の5名のQOL平均の変化は3.61→3.85。その他22名の平均は3.51→3.74であった。数値差は0.1程度であり、本研究においてもADLの差でQOLの差はみられないということが示唆された。 今後も対象者を増やし、介護老人保健施設での質の良いケア・サービスを行うためにQOLの分析・評価を継続して行っていく必要がある。【謝辞】本調査にあたり,ご協力頂いた弓浜ゆうとぴあ利用者様27名に心から感謝いたします。