講演情報

[15-O-R001-02]在宅強化型に向けて~「また来たい」在宅復帰支援~

*作田 顕子1 (1. 静岡県 介護老人保健施設みずほケアセンター)
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当施設は在宅復帰支援の取り組みを行い、現在は在宅強化型への移行をすすめている。今回取り組みの報告と、事例の振り返りから今後の在宅復帰支援へ役立てようと考えた。コロナ感染症発生やご家族の体調変化、ご本人の在宅サービス利用への抵抗感からサービス調整の難しさ等課題があった事例から、ご本人の希望を尊重し信頼関係を築き「また来たい」と思える関係性の途切れない施設づくりも私たちの役割ではないかと考えた。
【はじめに】
介護老人保健施設の重要な役割の一つとして在宅復帰支援があり、H28年から加算型施設として運営してきたが、体制の整備が行えず在宅強化型への移行が行えなかった。利用者様の体調変化、ご家族の介護の不安、体力の問題等で在宅復帰が困難になるケースもあったが、加算型施設として、入所中から多職種連携を行い在宅復帰支援に注力してきた。今年度改めて在宅復帰支援への取り組みを強化し、体制を整備することで在宅強化型への移行を進めることとなった。
今回、在宅強化型移行に向けて取り組んだ体制整備や業務調整の報告を行うとともに、無事在宅復帰に繋がった支援を振り返り、今後の支援に役立てようと考えた。
【研究目的】
在宅強化型移行に向けた体制整備と業務内容の確認。
事例の振り返りにより今後の在宅復帰支援に役立てる。
【体勢整備・業務調整】
在宅強化型として運営されている老健を見学(R6.5月)
在宅強化型移行に向けた会議の開催(R6.5月より週1回の開催)
各部署で8月移行に向けたスケジュール表の作成
リハビリでの集団訓練をフロアレクとして集団レクへの移行
個別で取り組める訓練の提供
 フロア内一周で100mを浜名湖1週に例えて表示
 自己訓練を提供されている利用者様をリストアップしスタッフが応援できる体制作り
 退所日が決定した段階でより個別な関わりを提供する
在宅復帰者についてのフロアカンファレンスを開催
【事例】
A氏 70代 女性 要介護4
腰椎圧迫骨折にて固定術施行。その後ロッドの折損があったが手術希望なく、保存的に経過観察。腰痛が悪化し両下肢がほぼ完全麻痺状態となった。回復期病棟に入院していたが、御家族の体調問題があり2024年2月当施設に入所される。本人は「家に帰りたい。なんでもできると思う。」と話す一方で在宅でのサービス利用は否定的。担当者会議への参加は拒否。
【結果】
<事例の振り返り>
両下肢の完全麻痺があり日常生活の援助や在宅サービスの検討が必要な状態であった。家族の体調問題や介護者の家族が平日仕事で不在であり、家族の介護負担や安全性を考えると在宅ではオムツの使用を進めることにした。娘様がフルタイムの仕事をしていたため、夜間はオムツ交換の回数が少なくなるよう時間を設定し、大容量のパッドを使用し、漏れやずれへの不安に対応した。
食事時に車椅子への移乗訓練を行ったが、離床拒否され1日のほとんどをベッド上で過ごしていた。A氏と話し合い、昼食時のみ車椅子への移乗訓練を行うこととなった。しかし、3月初め、フロア内でのコロナウイルスの感染があり、職員や時間の確保が難くなりリハビリも中止。介入が出来なくなり、再びベッド上で過ごす時間が増え、踵の褥瘡も発生した。リハビリと協力し踵を除圧するクッションを使用し、褥瘡は治癒した。感染が落ち着いた4月中旬から、訓練がしやすいおやつ時に時間を変更し再び訓練を開始したが、訓練を定着させることが出来なかった。そのため、車椅子のポケットに移乗方法の写真を入れたり、ベッドサイドに援助のスケジュールを掲示することで支援の周知を行った。検温表にスケジュールを記載することで、介護職員、看護師など職種を問わず在宅支援に参加する意識付けを行った。リハビリではマジックハンドを使い装具の着脱訓練を行い、一人で出来る様になり、装具の着脱、移乗は自立レベルになった。
5月、住宅改修や家族の健康問題があり、退所日は決まらなかった。日々コミュニケーションをとっている各担当の職員が会議に集まり「安心できる。」とA氏は拒否なく担当者会議に参加した。居宅ケアマネを招き、家に帰ってからも安心して安全に過ごすためにどのような支援が必要か本人、家族、専門職で考え情報を共有した。A氏は担当者会議後に「ここに泊まりに来て、家族が息抜きできる時間は取ってあげたい。」と話された。
5月22日フロアカンファレンスを開催。
6月15日退所前カンファレンスを行い、退所後平日午後の訪問介護、当施設の週2回の訪問リハビリと定期的なショートステイを利用することが決まった。
在宅サービスが整ったことで、6月29日自宅へ退所となった。
【考察】
在宅強化型への移行を目指すにあたり、当初は在宅強化型を進めるためにはレクの充実や個別ケアなど業務負担が大きくなるのではないか、今の人員的に難しいとの不安の意見が多く聞かれた。在宅強化型として運営されている老健を見学させていただく機会を得たことで、在宅強化型への移行はリハビリの体制の整備は必要であるが、特別なことをするわけではないことに気付かされた。今まで通り在宅復帰支援を行い、今の体制や業務内容の中で提供可能なことを進めていこうとの方向性を職員間で共有し、利用者様のご様子やフロアスタッフの意見を確認しながらすすめている。
今回紹介した事例では感染症の発生による支援の中断や退所日が決まらない、在宅でのサービスの利用の拒否など在宅復帰に向けた様々な課題があった。日々の業務に追われてしまい多職種での情報共有不足や人員不足、支援内容の周知不足などの問題で在宅復帰支援が途切れてしまうことがあった。そのような中でも、本人の「家に帰りたい。」という希望を尊重した支援を継続することで、職員との信頼関係を築き、相談員を中心に在宅ケアマネジャーへの情報提供、連携を迅速に行い、必要な在宅サービスの利用の調整をしていただくことで在宅復帰に繋げることができた。
【終わりに】
在宅強化型への移行を8月に予定している。施設入所中から在宅復帰に向けたするチームアプローチは大切である。さらに在宅機関へ移行しても切れ目のない支援を多職種と行っていき、退所後も在宅生活が円滑に継続できるような在宅復帰支援を積極的に行いたい。
在宅復帰後も「また来たい」と思える関係性の途切れない施設をつくることも私たちの役割だと感じた。