講演情報

[15-O-R001-03]帰るタイミングを逃さない在宅復帰支援会議の見直しを行ったことで見えたこと

*千葉 彩奈1 (1. 宮城県 介護老人保健施設エバーグリーン・ヤギヤマ)
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超強化型老健であるための取り組みとして5年前から在宅復帰支援会議が開始となった。しかし現状、経緯や趣旨を理解し会議に臨む職員は少なく、職員間での意識の違いも感じられるなど多くの課題が見つかった。全職員が本来の在宅復帰支援会議の目的を理解し、在宅復帰のための具体的な支援ができるようになるために会議の見直しを行った。その取り組みについて報告する。
【はじめに】
当施設はユニット型老健である。5年前から超強化型老健として全職種で力を入れて在宅復帰支援に取り組むために、在宅復帰支援会議を発足した。「これができたら自宅に帰れる」「そのためにはどのようなケアやリハビリを行っていく必要があるのか」という可能性に目を向け、専門職が意見を持ち寄り在宅復帰支援をしていくことを目的としていた。しかし現状は、その場での質問会や話し合いが後ろ向きになっているなど、本来の会議の趣旨とは異なる内容になっていた。そのような状況の中で、チームケアを発揮し在宅復帰を実現できた事例があった。その事例を通し会議の在り方を見直し取り組んでいる内容を報告する。
【経過と課題分析】
令和1年8月から在宅復帰支援会議を開始した。各階ごとで3週に1回開催し、各職種で在宅復帰のためにいつまでに何を取り組むのかを具体的に出し合い実施するようにした。各々が在宅復帰への取り組みを意識するようになってきたさなか、令和2年から新型コロナウイルス感染症の影響によって会議を開催することができなくなった。
令和5年から再開するも在宅復帰に向けた利用者様のピックアップが十分に出来ていない、情報共有不足など、一人ひとりの在宅復帰支援への意識・熱量にばらつきが見られた。その為、相談員に利用者様の状況や家族様の意向を質問するような会議となり、各専門職が意見を持ち寄る有意義な話合いができていなかった。在宅復帰支援会議の課題が見え、会議の在り方へ疑問を持ち始めた職員もいる中で、「家に帰りたい」という強い思いを持った利用者様との出会いがあった。
【事例:N様 女性】
自宅でお店を開店する予定だった所、脳梗塞を発症し入院。思うように体が動かず、住居は3階でエレベーターがない環境だった。退院後は自宅での生活を希望されていたが、住宅改修など、自宅の環境を整える必要があったため、1か月の予定で当施設へ入所となった。その間、体調不良により離床時間が減少し、N様からは「家に帰ってもやりたいことができるかな」「自分が帰ることによって家族に迷惑をかけてしまうのではないか」という不安が聞かれた。又、家族様からも「介助ができるか心配で、本当に家に連れて帰ることができるのだろうか…」と不安な声が聞かれた為、ユニット・リハビリ職員・相談員等多職種で話し合い、面会時、家族様へ介護指導をすることにした。N様へは多職種で不安な気持ちを伺い、ショートステイが利用できることや、階段の上り下りには昇降機の使用ができることを提案した。全職員でN様と家族様の気持ちに寄り添いながら、出来る方法を考え何度も話し合いを重ねた。リハビリである程度安定した動作ができるようになり、家族様も介助動作ができるようになったことで自宅退所が決まった。それに加えて、N様のやりたいことを応援したいという思いから、自宅に帰ってからもサポートできることはないかと多職種で話し合い、自宅でもできるようにと関節可動域訓練やポジショニングの動画を作成し、家族様へ直接説明しながらお渡しした。
【事例からの気づきと取り組み】
N様の事例から、あらためて多職種で在宅復帰支援をする必要性が見えた。今までも在宅復帰支援はしていたものの、相談員が調整役となり、電話連絡で家族様の思いを伺いながら状況を細目にお伝えし、面談で多職種が集まって話すという流れになっていた。N様の支援では、普段から全職種が思いを伺い、「何ができるのか」という前向きな視点で、お互いに情報共有をしながらチーム一丸となって課題を解消していった。又、N様の「帰りたい」という思いや解消すべき課題が明確だったため、チームで前向きに取り組むことができた。その一方で、専門職からのアプローチで課題を抽出し解決することで在宅復帰に近づける方がもっといるのではないだろうかと感じた。
そこで、在宅復帰支援会議の在り方を見直すこととした。まず会議の前にその本来の目的や見直しをする理由について資料にまとめ、ユニット職員、リハビリ職員、栄養士、相談員と共有した。生活動作上の課題が何か、その課題をケアやリハビリで解決できれば自宅に帰る事ができるのではないかという観点から利用者様をピックアップし会議に臨むようにした。利用者様・家族様が、住み慣れた自宅での生活を考えることができるよう、会議を通じて全職員が自宅での生活を視野に入れたケアを考え実施できるようになることを最終目標とした。
会議当日、あらためて会議の目的を発信し、各ユニット3~4名ほどの利用者様について話し合いをした。利用者様、家族様の課題等、在宅復帰に向けての課題のみが多く上がったが具体性が不十分で、役割分担がしづらいものだった。そのため、ユニット毎に在宅復帰の可能性がある利用者様を事前にピックアップし、いつまでに誰が何をするという目標シートを作成し取り組み始めた。
【まとめ】
今回、超強化型老健として、在宅復帰は重要な役割の一つだと自分達の取り組みを通して再認識した。各職種において在宅復帰に向けた気づきはあるが、それを共有して課題解決に向けて十分に繋げられていないという事が現状であった。その為、利用者様に対しての支援を検討し、実践していくことへの足掛かりの一つとして今回、目標シートを導入した。目標シートは、現段階では職種毎の目標を記載する形となっている。記載する時期をまだ決め始めた段階であり、利用にはまだまだ課題もあるが、会議が有意義なものになるよう試行錯誤を続けていこうと思っている。その結果、在宅復帰支援に必要なケアの提供・提案を積極的行える職員が増える。そして在宅復帰支援機能の高い超強化型老健として存続し続けていきたい。