講演情報
[15-O-R001-06]ADL全介助者が在宅生活を繰り返し行えている一症例
*山村 隆希1、坂倉 匠1 (1. 愛知県 豊明第二老人保健施設)
ADLが徐々に低下するも,約3年間に渡り在宅生活と入所生活を繰り返し行えている一症例を経験したので報告する.施設での取り組みとして,退所スケジュ-ルの調整,住宅環境の調整,家族への介護指導,機能訓練に加え生活リハビリを実施した.その結果,ADL全介助の高齢者でも,家族の介護負担を軽減できたことで,安全に施設生活と在宅生活を繰り返すことができるようになった.
【はじめに】
介護老人保健施設は高齢者の在宅復帰を目指す施設であり,地域の在宅復帰に対する要望が強くなっている.しかし介護度の高い高齢者の在宅復帰は困難な傾向にある.今回,当施設にて,身体機能が徐々に低下し,現在はADL全般全介助の症例が,家族の協力のもと在宅復帰ができるよう,多職種で支援を行った.その結果,約3年間に渡り在宅生活と入所生活を繰り返し行えているため報告する.
【事例紹介】
本症例は70代後半の女性で,主病名はアルツハイマ-型認知症.既往歴に多発性脳梗塞があり,要介護度は介護4である.入所前は,一軒家に独居で生活しており,転倒を繰り返す状態であった.そのため,近くに住む長女と次女が介護をしていた.X年Y月Z日に自宅で転倒後,体動困難となり,在宅生活が難しくなった.その後,当施設のショ-トステイを利用し,長期入所となった.主介護者は長女と次女であり,家族は在宅復帰を強く希望している.
入所してからの状態は,伝い歩きが可能であり,排泄もトイレで行えていたが,入所期間中にCOVID-19陽性となり,身体機能は徐々低下してしまった.
現在の身体機能は,両下肢に痙性麻痺がありBrunnstrom Stageは両側下肢IIIである.上肢に麻痺症状はない.両股関節・膝関節は屈曲拘縮(右<左)があり,関節可動域は,右股関節伸展-15°,左股関節伸展-30°,右膝関節伸展-70°,左膝関節伸展-75°である.認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)7点で,記憶力や理解力の低下が見られるが,簡単な内容であればコミュニケ-ションは可能である.
座位は立ち直り反応が乏しいため介助が必要である.また,恐怖心から周囲の把持物を強く握ってしまう傾向にある.移乗動作は,両膝の屈曲拘縮と麻痺の影響から下肢の支持性が乏しいため,立位を保てず全介助である.移動は車椅子を使用しているが,自操は困難である.食事は自己摂取可能だが食べこぼしが多く一部介助が必要である.トイレ動作は排泄コントロ-ルが困難であり終日オムツを使用している.入浴動作は洗体・洗髪ともに全介助である.
【取り組んだ内容】
在宅復帰に向けて以下の1)~4)の取り組みを行った.
1)退所のスケジュ-ル調整を実施した.在宅生活では常に介護と見守りが必要なため,家族の介護負担が大きくなる.そのため家族の介護負担を軽減できるよう,退所期間を2週間とした.2週間の退所期間後は再び当施設に入所とした.また退所後と入所前の3日間は在宅で生活し,それ以外の期間はショ-トステイを利用することで,さらに家族の介護負担を軽減できるよう調整した.
2)住環境の調整として福祉用具の導入を提案した.使用した福祉用具は,移乗やオムツ介助が行いやすくなるよう介護ベッドと,屋内用・屋外用の車椅子をレンタルした.屋内用の車椅子は移乗介助が行いやすくなるよう,トランスファ-ボ-ド付きのもの選択した.屋外用の車椅子は,屋内外の段差が移動しやすくなるよう,軽量タイプの車椅子を選択した.
3)家族介護指導を実施した.症例は長期間の入退所を繰り返す中で身体機能が徐々に低下していた.その為ADLの変化に合わせて家族への介護指導を実施した.リハビリ職員からは,移乗動作の介助方法とベッド上でのポジショニングや車椅子上でのシ-ティングを指導した.また家族の希望もあり,自宅で出来るストレッチ等を指導した.介護士からはオムツ交換時の助言や資料提供などを実施した.
4)機能訓練と生活リハビリを実施した.機能訓練では,車椅子乗車を継続することを目標に,下肢の関節可動域練習,筋力強化練習,座位練習,移乗練習に加え,四肢の筋緊張緩和を促すため,ベッド上や車椅子上でのポジショニング・シ-ティングを実施した.生活リハビリでは日中の活動量の向上を目的とし,座位練習や車椅子の自走練習を実施した.
【結果】
在宅生活に向けて,家族の生活リズムに合わせた退所スケジュ-ルの調整や福祉用具の選定,家族への介護指導,機能訓練と生活リハビリを実施したことで,家族の介護負担を軽減することができた.介護負担の軽減により,介護に対する家族のストレスが軽減された.その結果,約3年間に渡り,在宅生活を繰り返し行うことができた.
在宅生活を過ごせたことで,症例は在宅生活中に好きな物を食べることができ,また親戚や近所の方と会話することで表情も明るくなった.また,在宅生活と入所生活を繰り返す中で,家族が感じた不安や悩みを,施設に相談できたことで,家族の精神的な安定にも繋がった.
【まとめ】
症例は身体機能が徐々に低下し,現在はADL全般全介助であるが,家族の協力や,施設の取り組みなどを経て,現在も安全に施設生活と在宅生活を繰り返すことができている.今後の課題としては,現在の取り組みを継続しながら,症例や家族のニ-ズに合わせて対策を検討していく必要があると考える.また,症例の身体状況の変化によって,福祉用具の見直しや介護指導法の改善などを柔軟に取り組んでいきたいと考える.
介護老人保健施設は高齢者の在宅復帰を目指す施設であり,地域の在宅復帰に対する要望が強くなっている.しかし介護度の高い高齢者の在宅復帰は困難な傾向にある.今回,当施設にて,身体機能が徐々に低下し,現在はADL全般全介助の症例が,家族の協力のもと在宅復帰ができるよう,多職種で支援を行った.その結果,約3年間に渡り在宅生活と入所生活を繰り返し行えているため報告する.
【事例紹介】
本症例は70代後半の女性で,主病名はアルツハイマ-型認知症.既往歴に多発性脳梗塞があり,要介護度は介護4である.入所前は,一軒家に独居で生活しており,転倒を繰り返す状態であった.そのため,近くに住む長女と次女が介護をしていた.X年Y月Z日に自宅で転倒後,体動困難となり,在宅生活が難しくなった.その後,当施設のショ-トステイを利用し,長期入所となった.主介護者は長女と次女であり,家族は在宅復帰を強く希望している.
入所してからの状態は,伝い歩きが可能であり,排泄もトイレで行えていたが,入所期間中にCOVID-19陽性となり,身体機能は徐々低下してしまった.
現在の身体機能は,両下肢に痙性麻痺がありBrunnstrom Stageは両側下肢IIIである.上肢に麻痺症状はない.両股関節・膝関節は屈曲拘縮(右<左)があり,関節可動域は,右股関節伸展-15°,左股関節伸展-30°,右膝関節伸展-70°,左膝関節伸展-75°である.認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)7点で,記憶力や理解力の低下が見られるが,簡単な内容であればコミュニケ-ションは可能である.
座位は立ち直り反応が乏しいため介助が必要である.また,恐怖心から周囲の把持物を強く握ってしまう傾向にある.移乗動作は,両膝の屈曲拘縮と麻痺の影響から下肢の支持性が乏しいため,立位を保てず全介助である.移動は車椅子を使用しているが,自操は困難である.食事は自己摂取可能だが食べこぼしが多く一部介助が必要である.トイレ動作は排泄コントロ-ルが困難であり終日オムツを使用している.入浴動作は洗体・洗髪ともに全介助である.
【取り組んだ内容】
在宅復帰に向けて以下の1)~4)の取り組みを行った.
1)退所のスケジュ-ル調整を実施した.在宅生活では常に介護と見守りが必要なため,家族の介護負担が大きくなる.そのため家族の介護負担を軽減できるよう,退所期間を2週間とした.2週間の退所期間後は再び当施設に入所とした.また退所後と入所前の3日間は在宅で生活し,それ以外の期間はショ-トステイを利用することで,さらに家族の介護負担を軽減できるよう調整した.
2)住環境の調整として福祉用具の導入を提案した.使用した福祉用具は,移乗やオムツ介助が行いやすくなるよう介護ベッドと,屋内用・屋外用の車椅子をレンタルした.屋内用の車椅子は移乗介助が行いやすくなるよう,トランスファ-ボ-ド付きのもの選択した.屋外用の車椅子は,屋内外の段差が移動しやすくなるよう,軽量タイプの車椅子を選択した.
3)家族介護指導を実施した.症例は長期間の入退所を繰り返す中で身体機能が徐々に低下していた.その為ADLの変化に合わせて家族への介護指導を実施した.リハビリ職員からは,移乗動作の介助方法とベッド上でのポジショニングや車椅子上でのシ-ティングを指導した.また家族の希望もあり,自宅で出来るストレッチ等を指導した.介護士からはオムツ交換時の助言や資料提供などを実施した.
4)機能訓練と生活リハビリを実施した.機能訓練では,車椅子乗車を継続することを目標に,下肢の関節可動域練習,筋力強化練習,座位練習,移乗練習に加え,四肢の筋緊張緩和を促すため,ベッド上や車椅子上でのポジショニング・シ-ティングを実施した.生活リハビリでは日中の活動量の向上を目的とし,座位練習や車椅子の自走練習を実施した.
【結果】
在宅生活に向けて,家族の生活リズムに合わせた退所スケジュ-ルの調整や福祉用具の選定,家族への介護指導,機能訓練と生活リハビリを実施したことで,家族の介護負担を軽減することができた.介護負担の軽減により,介護に対する家族のストレスが軽減された.その結果,約3年間に渡り,在宅生活を繰り返し行うことができた.
在宅生活を過ごせたことで,症例は在宅生活中に好きな物を食べることができ,また親戚や近所の方と会話することで表情も明るくなった.また,在宅生活と入所生活を繰り返す中で,家族が感じた不安や悩みを,施設に相談できたことで,家族の精神的な安定にも繋がった.
【まとめ】
症例は身体機能が徐々に低下し,現在はADL全般全介助であるが,家族の協力や,施設の取り組みなどを経て,現在も安全に施設生活と在宅生活を繰り返すことができている.今後の課題としては,現在の取り組みを継続しながら,症例や家族のニ-ズに合わせて対策を検討していく必要があると考える.また,症例の身体状況の変化によって,福祉用具の見直しや介護指導法の改善などを柔軟に取り組んでいきたいと考える.