講演情報

[15-O-R001-07]老健入所者の在宅復帰に向けた支援~本人の希望する生活の実現に向けて~

*落合 喜一1、中村 久美子2 (1. 静岡県 介護老人保健施設白脇ケアセンター、2. ケアプランセンター白脇)
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住み慣れた自宅での生活は難しいため「家みたいな施設」を選択し、本人の望む生活を実現する新たな一歩を踏み出した事例を紹介する。本人からの少ない意思表出を周囲がキャッチし、その都度本人に意向の確認と調整を行った。新居で一から生活を構築していく際には、本人の意向の確認と適切な調整、モニタリングを行うことで、施設でありながらも本人の自由と安心を保つことができる生活の実現に近づけることができると分かった。
【はじめに】
住み慣れた自宅での生活は難しいため「家みたいな施設」を選択し、本人の望む生活を実現する新たな一歩を踏み出した事例を紹介する。
【事例】
男性、80歳、要介護1
既往歴:てんかん、代謝性脳症の疑い
現病歴:2型糖尿病、認知症
【支援内容】
●退院前カンファレンスに参加
1.意向
本人「次のところは先日見ましたよ。いいですね。ここ出て他に移るのは知っています、任せます。」
長女「自宅に戻すことは難しいので、私の家の近く、家みたいな施設に引っ越しをして、健康管理が受けられるといいですね」
2.入所中の様子と退所後の注意点
・ 病状:安定している。月1回の血糖測定は問題なく、今後は月1回の受診時に測定を継続していく。
・ 起居動作:柵があれば自分で起き上がることができる。移乗は見守りがあれば安全。本人は物忘れがありナースコールを押せる時と押せない時がある。
・ 移動:フロア内は車椅子で自走可能。筋力・体力の低下により歩行は不安定のため車いす使用が望ましい。
・ 食事:全粥食、副食1口大、汁物・水分に中間トロミ。大変咽やすいため、職員の見守りが必要。早食いで一口量が多いのでパフェスプーンを使用して摂取する。
・ 水分:食前にトロミ茶を準備しておき、毎食後、10時、15時、就寝前に水分補給の声掛けと見守りを行う。
・ 排泄:紙パンツとパットを使用しトイレにて排泄は可能であるが、衣類や便器を汚してしまうことがある。排便はマグミットを服用し、3日目に水溶薬を10滴、4日目に坐薬を使う。(坐薬はデイケア利用時に看護師が対応)排尿は失禁している場合があるためサ高住スタッフが毎朝確認し、適宜交換する。
・ 入浴:車いす浴。衣類の着脱介助と皮膚の状態観察が必要。デイケア利用時に入浴する。
・ 口腔ケア:全介助のためサ高住スタッフが介助する。デイケア利用時はデイケアスタッフが介助。うがいは中止。食後の口腔内残渣が多くしっかりとかき出す必要があるためくるリーナブラシを使用する。
・ 車いす貸与:退所前カンファレンス後より試乗し、使用状況を確認し問題なければ退所後も同機種をレンタルする。
・ その他 :手が寒いと言ってズボンの中に手を入れたまま立ち上がることがあるので注意する。
3.在宅サービスの調整
■ サ高住:生活支援サービスとして薬の管理、食事の見守り、水分補給の準備・促し、口腔ケア、排泄の確認と必要時の介助。
■ 定期受診:法人内の医療機関を受診する。送迎、受診付き添いはサ高住職員が行う。処方された薬は本人と一緒に近隣薬局に受け取りに行く。
■ 訪問介護:掃除、洗濯、飲水の促し、デイケア利用時の持ち物(トロミ剤、紙パンツ、パット、着替え、口腔ケアセット)準備(生活3)。
■ デイケア:入浴、個別リハビリ、坐薬対応、月1回の体重測定。
■ 福祉用具貸与:自走式車椅子(保険給付)特殊寝台、特殊寝台付属品(自費)
●退所後、生活の様子・モニタリング
(入居当日)生活物品が揃っており生活が開始できるか確認した。
本人「いいですよ、ごはんおいしかった」
長女「この日が来たって感じです。不安でいっぱいですが、よろしくお願いします」
(入居5日目)本人と通所リハビリにて面談。
本人「まだわからんね、このままでいいよ」
看護師「計画に沿って援助できていると思います。排泄ケア、口腔ケアも指導通り実施できています」
(入居3週間後の自宅訪問モニタリング)
本人「いいですよ」
長女「私も面会に来やすいからいいですね、自由ですし」
サ高住職員「紙パンツ交換の際に臀部を保湿して皮ムケの悪化を防げています。離床時間の見直しをしました。また娘さんが低反発のマットを準備してくれました。食事に関しては談話室で食事を摂ってもらって咽込みはありますので見守りしています。娘さんも協力的で今のところ問題等ございません」
(入居2か月後の自宅訪問モニタリング)
本人「いいですよ」
長女「今のところ困ったこともなくて、お通じも坐薬してもらって調子いいみたいだし、同じような生活をしてもらえばと思います」
(入居3ヶ月後の自宅訪問モニタリング)
本人「このままでいい」
長女「皆さんに良くしてもらって、ここの暮らしも通所も良いみたいです」
通所「計画に沿って援助できていると思います。排泄ケア、口腔ケアも指導通り実施できています」
サ高住「ご本人の意向を確認しながら対応できています」
貸与「ご自分で自走して移動することができているようです」
【結果】
職員が適宜関わることで本人が安定した生活を送ることができている。入居先を選んだ長女からも「面会の制限がなく自由なところが良い、何より父が皆さんから良くしてもらっていると分かるから安心しています」との声が届いた。
【考察】
退所前の早い段階から居宅ケアマネが介入し、施設スタッフと共に入所中の本人の様子を確認したことで在宅生活へのイメージが掴みやすかった。また家族と同じ目標を共有することで良好な関係の構築が図れた。本人からの少ない意思表出を周囲がキャッチし、その都度本人に意向を確認し調整した。新居で一から生活を構築していく際には、本人の意向の確認と適切な調整、モニタリングを行うことで、施設でありながらも本人の自由と安心を保つことができる生活の実現に近づけることができると分かった。