講演情報
[15-O-R002-02]在宅復帰困難と思われた症例に対するNPの関わり
*佐藤 健誠1、秋吉 裕美1、萱島 涼子1、宇都宮 直子1、高倉 健1 (1. 大分県 社会医療法人関愛会 介護老人保健施設やすらぎ苑)
複数回の脳卒中、認知機能低下によるADLの急激な低下のためリハビリ目的で入所したA氏に対し、身体所見から改めてその原因を鑑別し、適切な治療に繋げることができた結果、症状は改善した。また多職種と協力して家族支援したことで在宅復帰につなげることができた。そこで本症例における診療看護師(以下NP)の関わりを振り返り、在宅復帰につなぐまでの経過を報告する。
【診療看護師とは】日本NP教育大学院協議会が認めるNP教育課程を修了し、本協議会が実施するNP資格認定試験に合格した者で、患者のQOL向上のため、医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができる看護師のこと。日本では診療看護師、海外ではナース‐プラクティショナーと呼ばれる。
【目的】当施設は地域包括ケア病床を有する病院併設型の超強化型介護老人保健施設(以下老健)で、単独老健と比較し医療的な介入がより深く、細かく行えるという特色がある。複数回の脳卒中の既往があり、認知機能低下によるADLの急激な低下のためリハビリ目的で入所したA氏に対し、身体所見から改めてその原因を鑑別し、適切な治療に繋げることができた結果、症状は改善した。また生活習慣にも課題があったが、入所生活の中で改善することができた。介助者である妻に対しては多職種による継続的なかかわりを行った結果、信頼関係を築くことができた。本症例におけるNPの関わりを振り返り、困難と思われた在宅復帰につなげることができた要因について考察する。
【症例】74歳の男性で既往歴にくも膜下出血、髄膜腫手術、脳梗塞が2度あるが職場復帰し就労していた。2022年頃より物忘れが進行し職場でミスが増えたため退職した。車をぶつける事故も度々起こすため運転をしなくなった。外出機会がなくなり自宅ではソファーやベッドの上で過ごし、好みのものだけ摂取し、夜中までテレビを見て朝10時頃覚醒するといった生活リズムだった。徐々に転倒回数が増えデイサービスに通うようになったが、リハビリをしても一向に改善せず、入所前は毎日転倒していた。かかりつけ医には認知症の進行に伴う症状と言われ、妻の不安は増していった。入所時JCSI-2でふらつきが強く、歩けないため車椅子を使用した。身体所見として羽ばたき振戦(±)だった。
【結果】意識レベル低下、羽ばたき振戦などの症状から肝性脳症を疑った。血液検査で高アンモニア血症を認めたため、治療が開始となり高アンモニアの改善とともに意識レベル、認知レベルは改善に向かった。原因はバルプロ酸内服を疑い、漸減・中止した。高アンモニア血症を助長する便秘も併発していたため排便コントロールに努めた。歩行障害も改善し、極軽度麻痺が残る左下肢のバランスを整えるため、左足関節に重錘を装着する程度で安定した歩行が可能になった。妻に対しては入所時より不安と依存が強い方であると感じたため、経過説明をする窓口を一本化して整合性に努め、コロナ渦で面会制限があったため動画で状態の把握をしてもらった。A氏の乱れた生活リズムを容認し、夫の嗜好を優先するこれまでの夫婦関係についてのストレスと今後の介護に対する漠然とした不安を感じていたため、ICの時には娘にも同席してもらい夫婦関係の再構築に協力してもらった。度々出てくる不安に対しては多職種の協力を得て、具体的な解決策を示してもらった。それでも漠然とした不安の解消には至らなかったため、妻の気持ちは受容しつつA氏が自宅に帰るため努力してきたこと、在宅サービスの充実を約束し、二人の娘と十分相談したうえで在宅復帰となった。
【考察】当施設のNP活動として「診療」「看護」「家族や施設とのやり取り」を3本の軸としている。A氏に対しては症状マネジメント及び生活習慣の改善という点で介入した。症状やADL改善についてだけでなく、生活習慣の改善は妻の負担軽減のためにも重要な介入であったと考える。妻に対しては、夫婦関係のアンバランスさの解消と今後の介護に対する不安の解消という点で介入した。入所時から継続して関わることで夫婦関係の課題が見え、これまでの2人の関係を知る娘から妻の気持ちを代弁してもらったことは今後2人が生活するうえで重要であり、必要な時に娘が介入しやすくなったと考えられる。また、継続的なかかわりにより信頼関係が生まれたことで不安の解消には至らなかったが、妻がある程度許容できるまでA氏の状態が改善したこと、退所後のA氏と妻を取り巻くサポート体制を充実させたことで在宅復帰に繋がったと考える。
【おわりに】A氏が在宅復帰に至るまでにはちょうど3か月という時間を要した。病院は地域医療構想の中で機能分化し、限られた入院日数の中でそれぞれにあった医療を提供しなければならない。入院を必要とする状態ではないが、在宅での生活が困難になり施設入所する人も少なくないと思われる。在宅に帰るための中間施設というだけでなく、在宅からの受け皿として利用者を支えるのも老健の役割であると改めて感じた。今後も療養生活を支え、在宅復帰を支援していきたい。
【目的】当施設は地域包括ケア病床を有する病院併設型の超強化型介護老人保健施設(以下老健)で、単独老健と比較し医療的な介入がより深く、細かく行えるという特色がある。複数回の脳卒中の既往があり、認知機能低下によるADLの急激な低下のためリハビリ目的で入所したA氏に対し、身体所見から改めてその原因を鑑別し、適切な治療に繋げることができた結果、症状は改善した。また生活習慣にも課題があったが、入所生活の中で改善することができた。介助者である妻に対しては多職種による継続的なかかわりを行った結果、信頼関係を築くことができた。本症例におけるNPの関わりを振り返り、困難と思われた在宅復帰につなげることができた要因について考察する。
【症例】74歳の男性で既往歴にくも膜下出血、髄膜腫手術、脳梗塞が2度あるが職場復帰し就労していた。2022年頃より物忘れが進行し職場でミスが増えたため退職した。車をぶつける事故も度々起こすため運転をしなくなった。外出機会がなくなり自宅ではソファーやベッドの上で過ごし、好みのものだけ摂取し、夜中までテレビを見て朝10時頃覚醒するといった生活リズムだった。徐々に転倒回数が増えデイサービスに通うようになったが、リハビリをしても一向に改善せず、入所前は毎日転倒していた。かかりつけ医には認知症の進行に伴う症状と言われ、妻の不安は増していった。入所時JCSI-2でふらつきが強く、歩けないため車椅子を使用した。身体所見として羽ばたき振戦(±)だった。
【結果】意識レベル低下、羽ばたき振戦などの症状から肝性脳症を疑った。血液検査で高アンモニア血症を認めたため、治療が開始となり高アンモニアの改善とともに意識レベル、認知レベルは改善に向かった。原因はバルプロ酸内服を疑い、漸減・中止した。高アンモニア血症を助長する便秘も併発していたため排便コントロールに努めた。歩行障害も改善し、極軽度麻痺が残る左下肢のバランスを整えるため、左足関節に重錘を装着する程度で安定した歩行が可能になった。妻に対しては入所時より不安と依存が強い方であると感じたため、経過説明をする窓口を一本化して整合性に努め、コロナ渦で面会制限があったため動画で状態の把握をしてもらった。A氏の乱れた生活リズムを容認し、夫の嗜好を優先するこれまでの夫婦関係についてのストレスと今後の介護に対する漠然とした不安を感じていたため、ICの時には娘にも同席してもらい夫婦関係の再構築に協力してもらった。度々出てくる不安に対しては多職種の協力を得て、具体的な解決策を示してもらった。それでも漠然とした不安の解消には至らなかったため、妻の気持ちは受容しつつA氏が自宅に帰るため努力してきたこと、在宅サービスの充実を約束し、二人の娘と十分相談したうえで在宅復帰となった。
【考察】当施設のNP活動として「診療」「看護」「家族や施設とのやり取り」を3本の軸としている。A氏に対しては症状マネジメント及び生活習慣の改善という点で介入した。症状やADL改善についてだけでなく、生活習慣の改善は妻の負担軽減のためにも重要な介入であったと考える。妻に対しては、夫婦関係のアンバランスさの解消と今後の介護に対する不安の解消という点で介入した。入所時から継続して関わることで夫婦関係の課題が見え、これまでの2人の関係を知る娘から妻の気持ちを代弁してもらったことは今後2人が生活するうえで重要であり、必要な時に娘が介入しやすくなったと考えられる。また、継続的なかかわりにより信頼関係が生まれたことで不安の解消には至らなかったが、妻がある程度許容できるまでA氏の状態が改善したこと、退所後のA氏と妻を取り巻くサポート体制を充実させたことで在宅復帰に繋がったと考える。
【おわりに】A氏が在宅復帰に至るまでにはちょうど3か月という時間を要した。病院は地域医療構想の中で機能分化し、限られた入院日数の中でそれぞれにあった医療を提供しなければならない。入院を必要とする状態ではないが、在宅での生活が困難になり施設入所する人も少なくないと思われる。在宅に帰るための中間施設というだけでなく、在宅からの受け皿として利用者を支えるのも老健の役割であると改めて感じた。今後も療養生活を支え、在宅復帰を支援していきたい。