講演情報

[15-O-R002-04]在宅復帰における家族の思い

*田口 聡慶1、山口 尚斗1 (1. 岐阜県 さわやかリバーサイドビラ)
PDFダウンロードPDFダウンロード
くも膜下出血により右半身麻痺となった52歳女性が、在宅復帰と家族の介護負担、不安の軽減が目的で当施設を利用される。入所時は、何事に対しても拒否的であったが、家族との面談を重ね本人と向き合いながら支援を行った結果、少しずつ心を開かれるようになった。歩行ができるようになる状態までは至らなかったが、ADLの回復具合を見た家族が大変喜ばれ、一時帰宅が可能となった取り組みの報告を行う。
【はじめに】老健の役割は、在宅復帰を希望する要介護者が、可能な限り自立した生活を送ることができるよう、リハビリテーションをメインとする施設である。しかし、主介護者の高齢化や家族介護の負担や不安が大きいなど、在宅復帰に繋がらないケースが多い。今回は、少しでも機能の回復をし在宅へ戻れるように、残存機能を生かした支援やリハビリを行った結果、ADLの向上と一時的にではあるが、在宅への帰宅が可能となったのでここに報告する。                                              
【対象者】A様 52歳 女性 要介護4(既往歴)くも膜下出血・多発性脳梗塞・右片麻痺。(入所理由)など4つの病気により、思うよう会話が出来ないことや本人の気力の低下などにより、在宅では、主にベッド周辺での活動が主体で、排泄はオムツ対応、食事は車椅子に腰かけテーブルで食べていた。その他は、ベッドで横になり過ごされているといった現状であった。主介護者(母親)の膝痛等により介護が困難になってきた為、在宅復帰を目的に2023年10月12日に入所される。                                       
【取り組み内容・期間2023年10月12日から2024年3月31日】リハビリスタッフとのカンファレンス結果、リハビリとしては、関節可動域訓練や筋力訓練、言語聴覚士による言語訓練など、フロアリハビリとしては、トイレの手すりやベッド柵につかまり立位・立位保持への声掛けと介助支援、発語を促すための声掛け・コミュニケーションボードの活用、趣味活動から離床時間を増やす事を目標としケアプランを実施。                                                       
【経過】リハビリ:歩行訓練については、本人より大声を出されるなどの拒否が強く実施できず。立ち上がりや関節の可動域訓練を実施し拘縮予防に努めた。言語訓練は、拒否が強く実施できなかった。しかし、当初、介助無しでは立ち上がる事が出来なかったが、リハビリを通じ1人で立ち上がる事が出来るようになってきた。又、職員が、掛け声「せ~の」などを行うことでスムーズに立ち上がりが出来るようになり、本人が、その言葉を言いながら立ち上がる事が出来るようになった。又、車椅子の自操では、当初、左腕のみで自操されていた為、徐々に右側へ反れる事が見られた。左足で方向を直す指示や足を手に取り動作を確認した事で徐々に慣れ、フロア内通路やベッドサイド・トイレ・食事の席まで自身で移動が出来るようになった。しかし、コミュニケーションボードを使用することについては、激しい拒否が見られため、コミュニケーションは難しいと判断し中止する。本人に発語を促せる様に日常会話の挨拶「おはようございます」など日々の声掛けを出来る限りおこなったところ、「おはよう」「ありがとう」などの発語が出来るようになった。又、職員に何か行ってほしい事があると、眼鏡を拭いて欲しい・爪を切って欲しい等、ジェスチャーで訴える事が出来るようになったが、横になりたいという訴えが強く、趣味ややりたいことなど声掛けを行ったが、拒否があった。家族と相談し、家族がLINEやSNSを見れるように本人端末のiPadを持ってこられた事で、起きて確認したりテレビを観る時間が増えた。                                    
【結果】今回のケースは、ADLの向上が見られた。これらの様子を動画として残し、夫の面会時に報告させて頂く。夫からは「実際にここまで回復するとは思ってもみませんでした。ありがとうございます。」と満足される。主介護者の母親とも相談し、これならと3月24日に一時帰宅する運びとなった。入所前に在宅のポータブルトイレに拒否が見られたが、本人より使用したいと訴えがあり、使用した事についても家族より喜びの報告を受ける。しかし、夫より又、母親が介護負担により体調を崩すのではないかという懸念やトイレまでの動線の幅が狭く、車椅子での移動が困難である事、又、家族が求めるトイレまで歩いて行ける様になってほしいという状態の回復までは望めなかったことから、まだ在宅復帰が難しいのではないかと不安を打ち明けられる結果となった。                                                                   
【まとめ・考察】施設でのリハビリ・生活リハビリを通じ、必ずしも本人や家族が思っているような結果に至らないケースは、多く存在すると考える。今回の研究は、本人の思いが汲み取りにくく、リハビリの声掛けに対し「嫌」などの拒否もあり、歩行が出来るようになり在宅へ復帰するという家族の「在宅復帰像」は達成する事ができなかったが、今後、歩行訓練を少しでも行える環境づくりをし、本人の意欲向上を促し、家族の思いに繋がるように支援していきたい。研究を家族に動画で報告をしたことについて、「分かりやすかった。」との感想もあり、今後、カンファレンスにこのように動画での報告も必要になってくるのではないかと考えられる。