講演情報

[15-O-R002-06]わたしたちはライフプランナー、幸せのかたちとは?

*西條 さくら1 (1. 宮城県 医療保人松田会 介護老人保健施設 エバーグリーン・イズミ)
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利用者の想いを中心とした在宅支援に取り組み、在宅強化型から在宅超強化型へ。介護度や医療依存度に捉われない在宅支援、その10年の変化を報告する。施設類型の指標である在宅復帰率維持の為、家族も含めたチームケアが重要な事に気付き、利用者の人生に寄り添った在宅支援ができた。結果、関わる全ての職種、在宅で支援する様々な事業所とも利用者の想いで繋がり、地域の老健として役割を担うことができた。
当施設は平成27年から在宅復帰強化型、平成30年から在宅復帰超強化型を維持している。当初は自宅に帰れる利用者を中心に在宅復帰超強化型を維持して支援をしていたが、徐々に在宅復帰率を維持するのが困難となる。更に超強化型を目指すためにも、介護度3以上の方や医療行為がある方、ターミナル状態の方など在宅復帰が困難と思われていた利用者へのアプローチを行った。本人の「帰りたい」という想いをもとに、多職種や家族も含めたチームケアで関わった結果、在宅復帰強化型と超強化型を維持してきた10年の変化を報告する。
在宅復帰強化型施設となる以前は利用者本人ではなく、家族の想いを中心に在宅復帰支援をしていることが多かった。また、介護度や医療依存度に関係なく、家族の理解が得られないと在宅復帰が困難であった。しかし、在宅復帰強化型、超強化型施設となり在宅復帰率を維持していくためには、早期からチームで介入し、各職種、在宅サービスそれぞれが利用者の想いをもとに働きかけていく必要があることに気付いた。入所前の判定会議では本人の想いを中心に会議を進め、入所前から在宅を目指すアプローチを行った。入所後は2週間以内に家族面談を実施し、入所後の様子と在宅復帰の課題を明確にした。1~2ヶ月後の面談では課題に対しての進行状況と在宅復帰に向けてサービス内容の具体化を行った。面談時には入所スタッフだけではなく、退所後の生活を見据えて通所、訪問スタッフ、ケアマネージャーも参加したことで、入所スタッフが本人の想いを伝え、家族、在宅サービスのスタッフからは利用者のバックグラウンドを聞くことができ、想いの共有ができた。家族もチームの一員としてチームケアを行ったが、家族は不安を抱えている方が多いため、不安へのアプローチやサービスの提案を行った。入所スタッフでは毎週、各職種の代表者が集まり、課題に対しての進捗状況や在宅復帰に必要なサービスの提案、在宅サービスとどのように介入していくか話し合いの場を設けた。また、入所中だけの関わりではなく、入所前はケアマネージャーと直接顔を合わせて情報共有を行い、退所後は通所リハビリに通ってきた利用者のもとに足を運び、退所後の様子や気持ちを直接聞いた。
その結果、介護度や医療依存に捉われずに在宅支援に繋げることができた。A様の事例ではもともと独居で自立した生活を送っていたが、第11胸椎圧迫骨折を期にほぼ寝たきりの状態となりキーパーソンの義理姉からも介護協力や在宅復帰の理解を得られなかった。しかし、本人は「若い頃から仕事を頑張って自分で家を建てた。自分の家に帰りたい」という想いがあった。B様の事例では誤嚥性肺炎やコロナウイルス罹患を期に経口摂取が困難となりターミナル状態となったが、同居をしていた長女は就労をしていたため、痰吸引や点滴を行っている状態での在宅復帰は困難と思われた。しかし、B様は数年前に自宅で妻を看取っており、自分も最期は自宅で迎えたいという想いがあった。いずれの事例も本人の「帰りたい」という想いはあったが、介護や医療が必要であり、家族の不安も大きかったため在宅復帰が困難と思われた。しかし、家族と何度も話し合いを重ね、本人の「帰りたい」という思いを伝えた。家族の不安に対してもそれぞれの職種がアプローチを行ったことで、介護や医療が必要な状態でも在宅サービスを入れて本人と家族が安心して生活ができ、在宅復帰に繋げることが出来た。A様は現在も在宅サービスを取り入れながら、本人らしい生活を送っている。B様は退所後、数日間で家族やスタッフに見守られながらご永眠された。
在宅復帰強化型施設となった平成27年から在宅復帰率を維持しており、その中で介護度3以上の在宅復帰率は年々増加傾向になっている。また、入所中の看取り数も増加傾向であり、平均で年間21人、令和6年は7月時点で22人となっている。在宅復帰率を維持する一方、看取りケアも行うことで、より地域の人の想いや人生に寄り添える場所となった。在宅復帰を目指すうえで介護度や医療依存度は本人や家族にとって大きな壁となるが、一番の壁は家族がもつ不安である。家族に全てを託すのではなく、家族にも家族の生活があるため、介護や医療が必要な状態であっても、入所、通所、訪問、ケアマネージャーで本人と家族の生活を支え、想いで繋がり合っていくことが、地域のなかの老健の役割である。
本人の家に帰りたい想いとその想いで繋がるチームで支援を行うことが、地域の老健の役割であり、今後も地域のなかで安心できる存在でありたい。