講演情報

[15-O-R003-03]コロナ罹患後の能力低下を経てからの在宅復帰~家族を忘れない~

*小川 知香1、杉本 義宜1 (1. 岐阜県 老人保健施設サントピアみのかも、2. 老人保健施設サントピアみのかも)
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当施設は令和元年より在宅トライプログラムを立ち上げ取り組みを行っていた。コロナ禍に入りご利用者様の多くが在宅復帰困難になっており感染症罹患による能力低下が課題であった。ご利用者様と家で過ごしたいというご家族様の気持ちに寄り添い、負担を軽減する為に課題を出し合いリハビリ等の改善を行った結果安全に在宅復帰する事が出来た。今後はより多くのご本人様、ご家族様の希望を汲んだ深いサービス提供を目指す。
【はじめに】
当施設は重度認知症専門の介護老人保健施設である。

 入所100名(入所:90名 短期入所:10名)の方が利用されている。利用者様の多くが認知症と診断されており、在宅復帰が困難なことが大きな課題だった。施設では少しでも多くの利用者様に住み慣れた家・家族と過ごして頂くため、令和元年9月より在宅トライプログラムチームを発起し、重度認知症と精神疾患の利用者様を在宅へと復帰させる試みを実践した。

 在宅トライプログラムとは年間を通して、入所⇔短期入所(以下SS)⇔通所リハビリテーションを併用することにより無理なく在宅復帰の要件である1ヶ月の在宅生活の継続を可能にしたプログラムとなる。
 入所前訪問の際には、自宅環境やご家族様の方が不安に感じていることの聞き取りを行い、リハビリスタッフも交えて問題解決を図り、施設内での個別リハビリ、生活内での生活リハビリを実施している。
 SSを併用することにより無理なく在宅復帰の要件である1ヶ月の在宅生活の継続を可能にし、この取り組みにより在宅復帰率を高めたことが一因となり当施設は令和5年7月より加算型から在宅強化型に昇格した。しかし在宅トライプログラムの発足から現在までにコロナ禍を経ており、当時は特に利用者様の在宅復帰が困難であった。その中でも感染症に罹患してしまい能力低下したことで在宅生活が困難になったが、在宅復帰を実現した実例を報告する。

【事例紹介】
性別:女性 年齢:67歳 診断名:若年性アルツハイマー型認知症 HDS-R:2点
介護度:要介護3 認知症高齢者の日常生活自立度:IV

 令和5年8月よりSSを利用しており、その時点では独歩にて安定した立位とすり足ではあるが歩行も可能であった。感情失禁に併せ認知力の低下もあり、理解できない状況に陥るとより強く不安や怒りの感情が表出されやすくなっていた。令和6年1月末に新型コロナウィルスに感染し、2週間程自宅にて療養されている。寝たきりで過ごしたため、全身筋力や耐久力の低下が見られ、屋内歩行や起居動作が出来なくなってしまった。ご家族様の希望により歩行状態の安定を図るため令和6年2月初めに当施設へと入所される。入所当時は以前と比べ自立した歩行が難しくなっており、歩行する場合は手引きによる介助を要するようになり長距離の移動はほぼ困難になり、立ち上がり等も見られなくなった。
 その後、施設内にてコロナウィルス陽性者と接触があったため10日間のコロナ感染対応となり、その間の十分なケア・リハビリが行えないまま令和6年3月中頃に退所された。在宅生活を経て、SSを利用された際にご家族様からは立位だけでも大変になってきたとの報告を受けた。

【取り組み】
 当施設では在宅トライプログラム対象者のご家族様に退所後の在宅生活についてアンケートをおこなっている。得られた感想・要望をフィードバックとし個人に合わせたサービスを提供することで、ご本人様・ご家族様の負担軽減を狙っている。今回はアンケート内の「歩行を出来るようにして欲しい」、「ご本人様に家族の事を忘れないで欲しい」の2点の要望に着目して介入する。

(1)歩行の生活リハビリ 《歩行能力の維持・向上》 
 在宅における移動手段は介助による歩行であり、歩行能力の維持・向上をご家族様は最も強く要望していた。その実現のため通常のリハビリとは別にトイレ誘導時、入浴時などに生活リハとして歩行の機会を設けた。

(2)音楽レクリエーション 《ご本人様の記憶の想起・精神安定》
 ご家族様が在宅生活を続けたいと希望する根底には「家族の事を覚えていて欲しい」という願いがあった。そのため、記憶に対する介入を行った。ご本人様は元よりカラオケを好んでいため、音楽による聴覚刺激を介して認知機能の賦活・精神安定を試みた。ご本人様が好きな曲や馴染んだ曲を選んで聴いてもらい、歌って頂くよう促した。

【結果】
 取り組み前は精神状態が不安定で活気や意欲がなく恐怖心もあり立位の維持や歩行が困難な日が多く見られた。安心できるような声掛けを行い、環境を改善することによって職員が両側から支えながらの歩行が可能になった。
 普段の生活の中で安心して過ごして頂けるように、ご本人様の好きな歌を聴いて頂いたり職員と一緒に歌を口ずさんだりして楽しんで頂くことで精神的安定や生活意欲を引き出す事が出来た。
 入所やSSをうまく利用することで、在宅生活を続けられご家族様と一緒に過ごせる時間を持つ事が出来た。

【考察・まとめ】
 多職種協働により、下肢筋力維持や向上を図ることができ早期在宅復帰につなげることが出来た。
 今回は新型コロナウィルス罹患が原因となり能力低下が起きたが、状態の変化自体はコロナ禍による特別な事象ではなく加齢、他疾患の発症、外傷などでも起こり得る。様々な要因で状態が変わる毎に、在宅生活にて求められる課題も変化する。在宅復帰を実現する上ではその課題の的確な把握が不可欠となる。
 当施設では在宅トライプログラムをすることで在宅生活に必要な能力や課題などをこまめに把握することができ実情に合ったサービスを提供する事が出来た。そして、今後もご本人様・ご家族様と連携し課題を抽出・解決を繰り返すことでさらに生活の質を高めることも可能と考える。実体験を元にしたご本人様、ご家族様の活きた意見を取り入れられる事がこの在宅トライプログラムの最大の利点であると考えられ、今後より多くのご本人様・ご家族様の要望・希望を汲んだ深いサービス提供を目指していく。