講演情報
[15-O-R003-05]ターミナル期の在宅復帰支援について家族の揺れに向き合うために
*大竹 香織1、中塚 将哉1、星野 亜佑1、須藤 太樹1、阿部 ひろみ1 (1. 山形県 介護老人保健施設ドミール南陽)
ターミナルケア中の方が「自宅に帰りたい」と強く願い、多職種の関りや家族・居宅サービスの支援を受けて在宅復帰を果たしたケースを振り返り、うまくいった要因と支援相談の今後の課題が明らかになった。課題解決のために支援相談の業務フロー図を作成し、支援相談の質やACPの質の向上につながると考えたため報告する。
【はじめに】
超高齢多死社会となり、当施設においてもターミナルケアの必要性が高まっている。当施設ではまれに自宅での看取りや1日だけでもいいからと在宅復帰を希望された方に在宅復帰支援を行っているが、ターミナル期の在宅復帰支援件数は少なく、支援相談員の入れ替わりもあり支援方法に難しさを感じていた。
今回、ターミナルケア中の方が「自宅に帰りたい」と強く願い、多職種の関りや家族・居宅サービスの支援を受けて在宅復帰を果たしたケースを取り上げ、うまくいった要因と今後の課題について考察したので報告する。
【研究目的】
ターミナル期に「自宅に帰りたい」と希望する利用者に対する支援の可能性を広げ、支援相談の質を向上させるため。今後の自施設でのACPの取り組みに活かすため。
【倫理的配慮】
研究対象者の家族に対し、研究目的、内容、匿名性、途中辞退が可能であることを口頭で説明し、書面にて研究ならびに発表の同意を得た。
【事例紹介】
A氏 94歳 男性 要介護2→要介護4(区分変更後)
血管性認知症でADLは中~全介助。長女と2人暮らし。次女は関西在住。入所前は併設の精神科病院に入院。
【経過】
入所当初から「家に帰りたい」と話していたが、「長く生きすぎた」「死んだ方がいい」と悲観して食事量が減っていた。多職種が人生会議の必要性を感じ、家族との面談を設定。精神科を受診し意欲低下は加齢によるものと診断され、施設医師から長女に対しこのまま食事が摂れなければ残された時間はわずかであることを伝えた。コロナ禍や長女の体調不良で入所してから面会は行なっておらず、電話やオンラインでの対応であった。面談時は直接本人と面会してもらい、本人からは「自宅に帰りたい」と強い希望聞かれ、希望を叶える手段として短期間での在宅復帰も可能であることを長女に提案した。入院前は周辺症状が酷かったため、自宅で看ることへの不安を抱えながらも「次女も帰省して2人で介護をすると決めた」と長女から連絡が入り在宅復帰することとなった。面談から在宅復帰までは約3週間であったが、多職種や居宅サービスチームで連携して自宅に帰ることができた。
退所後訪問した際には穏やかな表情で自室から庭を眺めており、「やっと家に帰って来れました。やっぱり家は良いですね。」と笑顔で話しがあった。一度目の帰宅後、長女は介護の辛さを吐露していたが、本人が「ありがとう。長生きしてごめんな。」と理路整然と話す姿をみてもう一度自宅に連れて帰るかどうか葛藤していた。その後次女の帰省に合わせて二度目の自宅退所を行い、再入所して数日後施設で息を引き取った。長女からは「認知症だった父が本来の姿に戻り、家族3人で濃密な日々を過ごせたことは奇跡のように思います」などの感謝の言葉をいただいたが、在宅医が決まらなかったり、揺れる家族の思いにどう対応すべきか分からなかったりと課題も多くみられた。
【考察】
(1)在宅復帰を可能にした要因
1)多職種連携2)ACP3)医療的ケアの3つが挙げられる。特にACPはタイミングよく開催することができ、医師からの説明や実際に本人の様子をみて、本人の口から「家に帰りたい」と聞いて長女の心が動かされたと思う。
(2)浮かび上がった課題
本人、家族が在宅復帰を希望しても、在宅で看てもらえる医師がいなければ物事が進まないことを実感した。また居宅ケアマネに対して、本人の状況に合わせたサービスや社会資源についての提案ができるとよりスムーズな在宅復帰ができたと考える。施設やサービス事業所としては早めに予定が決まる方が準備しやすいが、家族の葛藤も当然であり、その揺れに向き合えるような準備が必要だと感じた。
(3)支援業務の体系化
大規模施設でターミナル期の在宅復帰も今まで行っていたにも関わらず、都度の対応で相談員間の情報共有や支援の軸となるようなものがなかったため、今回の事例や今までの経験をもとに業務フロー図を作成した。支援相談員として、どの段階でどのような支援が必要か、どのような支援が可能か把握することで、役割が明確になり業務の効率化が期待できる。また、今回の事例をきっかけに、入所時のリスク説明時にACPの項目を追加した。ターミナル期における家族等の葛藤は必然であり、揺れる思いに向き合い、適切な支援ができるように入所時からACPを意識した信頼関係を構築し、感情表出や話しをしやすい関係作りが重要である。最期の迎え方を一緒に話し合ってきたというプロセスの共有が、より満足度の高い看取りに繋がると考える。
【おわりに】
今後もフロー図を活用しながら、ACPのタイミングや頻度、どの段階でどんな支援が可能なのか考え、データを集積してフロー図のアップデートを行っていきたい。
超高齢多死社会となり、当施設においてもターミナルケアの必要性が高まっている。当施設ではまれに自宅での看取りや1日だけでもいいからと在宅復帰を希望された方に在宅復帰支援を行っているが、ターミナル期の在宅復帰支援件数は少なく、支援相談員の入れ替わりもあり支援方法に難しさを感じていた。
今回、ターミナルケア中の方が「自宅に帰りたい」と強く願い、多職種の関りや家族・居宅サービスの支援を受けて在宅復帰を果たしたケースを取り上げ、うまくいった要因と今後の課題について考察したので報告する。
【研究目的】
ターミナル期に「自宅に帰りたい」と希望する利用者に対する支援の可能性を広げ、支援相談の質を向上させるため。今後の自施設でのACPの取り組みに活かすため。
【倫理的配慮】
研究対象者の家族に対し、研究目的、内容、匿名性、途中辞退が可能であることを口頭で説明し、書面にて研究ならびに発表の同意を得た。
【事例紹介】
A氏 94歳 男性 要介護2→要介護4(区分変更後)
血管性認知症でADLは中~全介助。長女と2人暮らし。次女は関西在住。入所前は併設の精神科病院に入院。
【経過】
入所当初から「家に帰りたい」と話していたが、「長く生きすぎた」「死んだ方がいい」と悲観して食事量が減っていた。多職種が人生会議の必要性を感じ、家族との面談を設定。精神科を受診し意欲低下は加齢によるものと診断され、施設医師から長女に対しこのまま食事が摂れなければ残された時間はわずかであることを伝えた。コロナ禍や長女の体調不良で入所してから面会は行なっておらず、電話やオンラインでの対応であった。面談時は直接本人と面会してもらい、本人からは「自宅に帰りたい」と強い希望聞かれ、希望を叶える手段として短期間での在宅復帰も可能であることを長女に提案した。入院前は周辺症状が酷かったため、自宅で看ることへの不安を抱えながらも「次女も帰省して2人で介護をすると決めた」と長女から連絡が入り在宅復帰することとなった。面談から在宅復帰までは約3週間であったが、多職種や居宅サービスチームで連携して自宅に帰ることができた。
退所後訪問した際には穏やかな表情で自室から庭を眺めており、「やっと家に帰って来れました。やっぱり家は良いですね。」と笑顔で話しがあった。一度目の帰宅後、長女は介護の辛さを吐露していたが、本人が「ありがとう。長生きしてごめんな。」と理路整然と話す姿をみてもう一度自宅に連れて帰るかどうか葛藤していた。その後次女の帰省に合わせて二度目の自宅退所を行い、再入所して数日後施設で息を引き取った。長女からは「認知症だった父が本来の姿に戻り、家族3人で濃密な日々を過ごせたことは奇跡のように思います」などの感謝の言葉をいただいたが、在宅医が決まらなかったり、揺れる家族の思いにどう対応すべきか分からなかったりと課題も多くみられた。
【考察】
(1)在宅復帰を可能にした要因
1)多職種連携2)ACP3)医療的ケアの3つが挙げられる。特にACPはタイミングよく開催することができ、医師からの説明や実際に本人の様子をみて、本人の口から「家に帰りたい」と聞いて長女の心が動かされたと思う。
(2)浮かび上がった課題
本人、家族が在宅復帰を希望しても、在宅で看てもらえる医師がいなければ物事が進まないことを実感した。また居宅ケアマネに対して、本人の状況に合わせたサービスや社会資源についての提案ができるとよりスムーズな在宅復帰ができたと考える。施設やサービス事業所としては早めに予定が決まる方が準備しやすいが、家族の葛藤も当然であり、その揺れに向き合えるような準備が必要だと感じた。
(3)支援業務の体系化
大規模施設でターミナル期の在宅復帰も今まで行っていたにも関わらず、都度の対応で相談員間の情報共有や支援の軸となるようなものがなかったため、今回の事例や今までの経験をもとに業務フロー図を作成した。支援相談員として、どの段階でどのような支援が必要か、どのような支援が可能か把握することで、役割が明確になり業務の効率化が期待できる。また、今回の事例をきっかけに、入所時のリスク説明時にACPの項目を追加した。ターミナル期における家族等の葛藤は必然であり、揺れる思いに向き合い、適切な支援ができるように入所時からACPを意識した信頼関係を構築し、感情表出や話しをしやすい関係作りが重要である。最期の迎え方を一緒に話し合ってきたというプロセスの共有が、より満足度の高い看取りに繋がると考える。
【おわりに】
今後もフロー図を活用しながら、ACPのタイミングや頻度、どの段階でどんな支援が可能なのか考え、データを集積してフロー図のアップデートを行っていきたい。