講演情報

[15-O-R004-01]在宅復帰へのアプローチ

*宮原 八重子1 (1. 埼玉県 戸田市立介護老人保健施設)
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在宅復帰が困難になる例として、入所時点での家族の理想と、現状のADLがかけ離れているということが挙げられる。その差を少しでも埋めるために取り入れた「在宅復帰アンケート」と「リハビリ見学」の取り組みについて、実際に在宅復帰した事例を踏まえて紹介する。
1.はじめに
 平成30年4月、当施設は市より指定管理を受け運営を開始した。老健として、地域のニーズに応えるため在宅復帰支援に力を入れてきたが、家族の支援を得られず施設方向に切り替わったり、長期入所になり在宅復帰できなくなったりと課題が多くあった。この課題を解決するために取り入れた取り組みを紹介する。

2.当施設での取り組み
 在宅復帰への取り組みとして、入所時の「在宅復帰アンケート」とリハビリ状況説明である「リハビリ見学」を実施している。アンケートでは家族が求める最低限のADLの聞き取りを行い、2週間後のカンファレンスにて達成の見込みについて検討する。その後、リハビリ見学で現状把握と在宅生活のイメージが出来るよう、ADLの説明と動作の確認を行っている。
 令和6年1月から6月までに、退所者75名中20名が在宅復帰を希望されており、うち8名(40%)が在宅復帰することができた。

3.事例
【1】入所相談時の聞き取り
 <基本情報>
 S様 74歳 女性  要介護3 左片麻痺あり。
 自宅で生活していたが、令和5年12月に転倒され、医療機関に入院。その後、自宅に退院するもADL低下がみられたことから、リハビリ目的にて令和6年3月当施設入所。
 <入所時のADL>
 認知機能は維持できており、受け答え可。
 車椅子使用。移動は全介助、移乗は一部介助。
 排泄は終日オムツ使用。
 食事は常食、常菜。嚥下機能に問題はなく自立摂取可。
【2】在宅復帰アンケート
 ご家族が求める最低限のADLは以下のとおりである。
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 移動:伝い歩き。
 排泄:日中夜間トイレ自立。
 食事:本人に適した形態で可。
 入浴:介護サービス事業所で対応。
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 主介護者は長男だが、日中は不在。食事の準備はできるが、温める、食べるまでは本人で行う必要がある。また昨年転倒した際、長男が帰宅するまでそのままの状態となっていたことから、転倒した時は自身で移動をし、家族に連絡が出来るようになることが希望。
【3】入所時訪問及びカンファレンスの内容・課題
 ・自宅内、段差があり、車椅子での移動は難しいと考えられ、杖歩行の獲得には立位時のバランス、後方重心の改善が必要と判断。
 ・リハビリでは立位バランス、後方重心にならないような意識付けと歩行訓練が必要。
【4】リハビリ見学の実施
 杖を使用した歩行状態を長男、長女に見学してもらう。現状の課題として、依然後方重心になっているが、本人は重心の意識は獲得できている。見学実施中、日中に転倒した際、自力での体勢の修正と立ち上がり練習の希望があったため、リハビリのプログラムに組み込むこととした。
 <本人の思い>
 家に帰りたい。
 <家族の思い>
 長男:日中、一人で過ごすことも多いため、自分の事が出来るだけできるようになってほしい。
 長女:転倒したときに、立てなくても良いので、お尻で移動し家族に連絡が出来るようになってほしい。
【5】在宅復帰後の支援方法についての検討
 介護サービス利用の検討時に相談した居宅介護支援事業所があると家族から聞き、その事業所に連絡したところ、担当してくれることとなる。また、入所時は要介護1であり、現状のADLを考えると区分変更の必要性があると判断、変更申請をかける。在宅での本人・家族の思いを考慮しつつ、家族も交えて在宅復帰の際に利用できるサービスや生活方法について話し合いを重ねた。
【6】退所前訪問
 自宅に本人同行のもと訪問し、その際、転倒した場合の体勢の修正と、立ち上がりまでの動作を自宅内で実際に確認してもらう。専門職と意見交換を行い、具体的なサービス利用について検討。その結果、福祉用具、通所サービス等の利用の確認を行い、6月退所が決定した。

4.まとめ
 令和5年5月より新型コロナウイルス感染症も5類となったが、病院・老健での面会は制限を余儀なくされていることから、家族は本人の状態を把握できないまま、在宅復帰を諦めてしまうことや、現状とかけ離れたリハビリの成果を求めるケースがみられていた。そのため、入所時の「在宅復帰アンケート」と入所後の「リハビリ見学」を導入し、理想(想像)と現実のすり合わせを行う事によって、在宅復帰者を維持することができたと考えられる。
 家族としても、「在宅復帰アンケート」を記入することにより、どこまでなら介護の協力ができるかを考えるきっかけとなり、また「リハビリ見学」で現状をみることで、在宅生活を具体的に想定することができたものと思われる。
 今後も一人でも多く在宅復帰ができるよう、また家族の介護への不安を和らげられるよう、支援していきたい。