講演情報

[15-O-R004-06]アコールは第二の我が家です!在宅復帰支援のポイント

*出來 真由美1 (1. 福岡県 介護老人保健施設宗像アコール)
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担当したA氏は、今回令和6年6月10日に7回目の在宅復帰を果たした。疾患や身体機能の低下、また医療処置が必要となったA氏が、繰り返し在宅復帰ができたのはなぜか?家族とともにケースを振り返り、在宅復帰支援のポイントを確認したのでここに報告する。
・ケース紹介  
A氏 92才  女性  要介護5  独居
日常生活自立度 C2 3 
既往歴:脳出血後遺症、脳血管性認知症
認知症状の進行や筋力低下を認め、食事以外のADLは介助を要し、独居での在宅生活は困難であった。在宅復帰に消極的な家族だったが、本人の「いつ帰るの?」という意向に対して、家族間で検討し「最後にもう一度、昔みたいにみんなで家で過ごしたい」と在宅意向へ変更となった。
入所~5か月後1回目の在宅復帰となった。
在宅復帰を繰り返す中、心身機能は緩やかに低下し、バルーン留置や点滴など医療ケアが必要となった。また、嚥下機能は低下し経口摂取での栄養管理が難しくなっているが、R6年6月には7回目の在宅復帰を果たした。

・繰り返し在宅復帰できたのはなぜか?
インタビュー形式で家族と共に振り返りを行ったので紹介する。
(1) 在宅復帰への家族の思い
半分は母のための在宅復帰、残り半分は私たちのために家に連れて帰らせてもらっているという思いです。デイやショートから帰ってくると、私たちの顔を見て「ただいま」といいます、ここが家だとわかっていないかもしれないですが、元気だったころの母を思い出すようで嬉しいです。
(2) 家での過ごし方や楽しみ
もともと母を中心に家族が集まる機会が多くありました。みんなで話をして何気ないことで笑って過ごせることが楽しいです。
※施設として、介護負担軽減の為ADLや身体面を優先した支援を考えていたが、本人家族がどのように家で過ごしたいかが、より重要であると気付かされた。
(3) アコールの役割
入所やSS中の母のことをこまめに伝えてくれるので、不安な気持ちが解消されます。迷惑をかけていないか、体調はどうか等いつも気にかけているので、一言大丈夫ですと言ってもらえることで気持ちが軽くなります。在宅復帰のタイミングも、母だけでなく私たちの体の事等気にかけながら調整してくれるので頑張れています。
※支援相談員として、入所中はもちろん退所しても、すぐに連絡が取れ、どんな些細なことでも話せる相談支援が必要であることを再確認した。
(4) 介護指導
おむつ介助は早い段階でできるようになりました。車いすの移乗は段取りが難しく、今も手伝ってもらいながらなんとか行えている状態です。
(5) 医療処置への不安の解消
バルーン留置等医療処置が必要になっても、状態に合わせて指導をしてくれるので不安や戸惑うことなく家に連れて帰ることができています。
(6) チームケア
在宅に帰ってからも、かかりつけ医やケアマネジャーをはじめ、何かあればすぐに駆け付けてくれて、アドバイスや指示をしてくれるので安心して在宅生活が続けられています。
※施設としては、医療処置が必要となり在宅復帰は難しいと考えたが、精神面や身体面の負担が増えても、
介護指導や情報共有により家族や各事業所の協力や理解を得ることができれば、在宅復帰の阻害要因にはならないと気付かされた。
インタビューの最後には、これからもアコールと自宅の行き来を続けてきたいです。いい状態も悪い状態も近くで関わることができるので、安心につながります。アコールは母や私たちにとって、第二の我が家ですと話をされた。

・在宅復帰支援のポイント
家族とケースを振り返り、見えてきた在宅復帰支援のポイント
(1)目的に合わせた在宅復帰支援
単に自宅に帰るのではなく、自宅でどのように過ごしたいかが重要である。本人・家族がどのように過ごしたいかを確認し、その目的に合わせて在宅復帰支援を検討していく。
(2)在宅生活を支える介護者の支援
在宅介護では介護者の支援が必要なケースが多い。本人の変化だけではなく、介護者である家族のライフサイクルや体調の変化に合わせた支援の検討を行っていく。
(3)本人・家族を中心としたチームケアの構築
A氏の場合、本人の状態が変わっても、在宅事業所と連携を取り、事業所を変更することなく在宅復帰が行えたため、本人・家族の不安を払拭することができた。在宅復帰において家族や事業所の理解や協力は不可欠であり、在宅復帰後も事業所との関係性を維持することが必要である。
(4)切れ目のない支援
入所中だけではなく、退所後も途切れることなく、在宅チームの一員として本人家族に伴走し続けることが重要である。

・老健の役割
老健施設では、生活機能の維持・向上を目指し総合的な援助や家族や地域と協力し、在宅復帰支援を行う、また在宅支援の一環として看取りの役割を担っている。A氏の場合も今回7回目の在宅復帰時、かかりつけ医より拘縮の進行や耐久性の低下、また嚥下機能の低下など、老化の進行に伴い心身機能は緩やかに低下していくと説明があり、在宅での看取りも想定した在宅復帰支援の予定である。

・まとめ
ケースを振り返り、A氏の場合介護負担や精神面においては、施設の予測より介護者の負担は少なく、前向きに捉えている等プラス面が多いことが分かった。改めて在宅の限界を私たち支援者側が決めつけてはいけないと考えさせられた。
また在宅生活を支える家族や事業所の協力や理解を得ていくことも重要である。
老健の役割は、在宅復帰と共に在宅生活の継続を支援する「在宅チーム」の一員であると再認識できた。退所をしたら終結ではなく、在宅チームの一員として、家族・事業所と連携を図り、「第二の我が家」と本人や家族に思っていただけるような支援を続けていきたい。