講演情報
[15-O-R005-02]社会活動への参加や他者交流が独居高齢者に与える影響
*木下 優美1、廣瀬 雅也1、稲葉 洋介2、青柳 翔太2 (1. 静岡県 介護老人保健施設エーデルワイス、2. 学校法人十全青翔学園静岡医療科学専門大学校)
当施設に通う独居高齢者にとって,社会活動への参加や他者との交流がどのような影響を与えるのか明らかにするため研究を行った.日常生活への満足度やADL動作能力向上,介護負担軽減に影響している可能性が示唆されたため報告する.アンケートと評価を行った結果,社会参加や他者交流により満足度が増加し,FIMや介護度,自立度で有意差を認めた.独居高齢者を地域に促すため作業療法士の特性を活かすことが重要であると考える.
【はじめに】
高齢社会白書1)によると65歳以上のひとり暮らしの者は増加傾向にあり,1980年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%,女性11.2%であったが,2025年には男性16.8%,女性23.2%となっている.2040年には男性20.8%,女性24.5%まで増加する見込みである.高齢者が健康に独居生活を送るには,生活に関係する隣人・友人などあらゆる人とのネットワークが大切であり,他者との関係性がしっかり結ばれていることや,人と社会とのつながりが重要である2)と報告されている.また内閣府による調査で,社会活動(健康・スポーツ・地域行事等)への参加の有無別に現在の健康状態についてみると,社会活動に参加した人は,健康状態が「良い」と回答した割合が高くなっている.健康状態が「良い」と回答した人ほど生きがいを感じる程度は高くなっており,健康状態と生きがいは非常に強い相関関係が見られると報告されている.
【目的】
当施設のデイケアに通う独居高齢者にとって,社会活動への参加や他者との交流がどのような影響を与えているのか明らかにすることである.
【対象・方法】
1.期間:令和6年1月31日~令和6年4月30日
2.対象者:デイケア利用中の80歳から96歳までの男性3名と75歳から100歳までの女性8名
3.方法:
基本属性として性別,年齢,介護度,障害高齢者の日常生活自立度(以下寝たきり度),認知症高齢者の日常生活自立度(以下自立度)を調査した.また,バランス機能はTUG,ADLはFIMを用いて評価した.現在の社会活動への参加状況や他者との交流・日常生活への満足度を把握するためアンケートを作成し,本人に回答していただいた.アンケート内容は「日常生活への満足度(0全く満足していない~10かなり満足している)」「参加している社会活動の数」「定期的な社会活動の有無」「友人との関わりの有無」とした.統計解析は性別,年齢,介護度,寝たきり度,自立度,日常生活への満足度,TUG,FIM,現在参加している社会活動の合計数について,Spearmanの順位相関係数を用いた.また定期的な社会活動への参加群と非参加群,友人との関わりについても有・無を2群に分けてそれぞれ,Mann-WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%とした.倫理的配慮として倫理委員会の審査で承認を得て実施した.(承認番号R6-2号)また研究参加者には,研究の目的や方法に関して説明し,書面・口頭で同意を得た.
【結果】
基本属性は女性8名(72.7%),男性3名(27.3%),年齢85.8±8.1歳.要支援1:5名,要支援2:3名,要介護1:1名,要介護2:1名,要介護3:1名.寝たきり度J1:3名,J2:4名,A1:3名,A2:1名.自立度I:8名,IIa:2名,IIb:1名.TUG:14.1±4.5秒,FIM:111.1±16.4点,日常生活への満足度7.1±1.4点,現在参加している社会活動の合計数3.4±2.1であった.Spearmanの順位相関係数を用いて,日常生活への満足度と正の相関を認めた項目は,FIM(r=0.75,p<0.05),参加している社会活動の合計数(r=0.98,p<0.05)であり,負の相関を認めた項目は介護度(r=-0.54,p<0.05),寝たきり度(r=-0.67,p<0.05),自立度(r=-0.73,p<0.05)であった.またFIMと社会活動の合計数(r=0.74,p<0.05)では正の相関,FIMとTUG(r=-0.65,p<0.05)では負の相関を認めた.社会活動の合計数とTUG(r=-0.29,p=0.385)では有意差は認められなかった.
現在,定期的な社会参加は6名(デイケアは除く),非参加は5名であった.その群間差を満足度でみると,参加群は8.2±0.9点,非参加群は5.8±0.7点であり,p<0.05と有意な差を認めた.また友人との関わり有が5名,関わり無が6名であり,満足度でみると関わり有は8.2±1.0点,関わり無は6.2±1.1点であり,P<0.05と有意な差を認めた.
【考察】
研究参加者11名のうち,6名がデイケア以外の社会活動に参加しており,現在も継続して他者交流が可能な状態であった.地域高齢者がサロンや自治体活動等の社会活動に参加するきっかけとして,退職後の自身の体調不良や心身機能の低下,生活上の能力低下から健康に意識が向くことが影響している3)と報告されている.当施設に通う独居高齢者も退職をきっかけに社会活動に興味を持ち,参加を決意した者がほとんどであった.
本研究の結果から社会活動への参加や他者との交流が当施設のデイケアに通う独居高齢者にとって,日常生活への満足度やADL動作能力の向上,介護負担の軽減に影響していることが明らかになった.しかしその一方で,社会活動への参加や他者との交流が少なく,日常生活への満足度やADL動作能力の低下,介護負担の増加を認めている独居高齢者が存在していることも明らかとなった.社会活動に参加していない独居高齢者5名のうち3名は男性であり,特に男性の独居高齢者に地域社会との交流を促すことが重要になってくる.男性独居高齢者の社会的孤立の支援には,高齢者個人への支援に終始するのではなく高齢者の家族,地域住民を含めた社会づくりが必須である4)と報告されている.独居高齢者がデイケア利用を通して仲良くなった他利用者と同じ社会活動への参加を促すことや,地域で行われている社会活動を把握してその人にあったものを紹介すること,作業療法士が地域に出て自治体や老人クラブ・サロンの運営側と関わり,環境調整を行うこと等の支援が作業療法士として今後求められ,課題になると考えられる.当施設では今後,地域の高齢者を社会活動参加へと促すため作業療法士主催で,活動の場を作る.その際自治体と協力して集客し,男性高齢者も好む活動を行い,独居高齢者が地域と繋がるきっかけを作っていくことを目標とする.
今回の研究限界として,予備研究であり研究参加者が11名と少ないことが挙げられる.今後は当施設のみでなく,同地区の独居高齢者を対象に調査を行う必要がある.
高齢社会白書1)によると65歳以上のひとり暮らしの者は増加傾向にあり,1980年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%,女性11.2%であったが,2025年には男性16.8%,女性23.2%となっている.2040年には男性20.8%,女性24.5%まで増加する見込みである.高齢者が健康に独居生活を送るには,生活に関係する隣人・友人などあらゆる人とのネットワークが大切であり,他者との関係性がしっかり結ばれていることや,人と社会とのつながりが重要である2)と報告されている.また内閣府による調査で,社会活動(健康・スポーツ・地域行事等)への参加の有無別に現在の健康状態についてみると,社会活動に参加した人は,健康状態が「良い」と回答した割合が高くなっている.健康状態が「良い」と回答した人ほど生きがいを感じる程度は高くなっており,健康状態と生きがいは非常に強い相関関係が見られると報告されている.
【目的】
当施設のデイケアに通う独居高齢者にとって,社会活動への参加や他者との交流がどのような影響を与えているのか明らかにすることである.
【対象・方法】
1.期間:令和6年1月31日~令和6年4月30日
2.対象者:デイケア利用中の80歳から96歳までの男性3名と75歳から100歳までの女性8名
3.方法:
基本属性として性別,年齢,介護度,障害高齢者の日常生活自立度(以下寝たきり度),認知症高齢者の日常生活自立度(以下自立度)を調査した.また,バランス機能はTUG,ADLはFIMを用いて評価した.現在の社会活動への参加状況や他者との交流・日常生活への満足度を把握するためアンケートを作成し,本人に回答していただいた.アンケート内容は「日常生活への満足度(0全く満足していない~10かなり満足している)」「参加している社会活動の数」「定期的な社会活動の有無」「友人との関わりの有無」とした.統計解析は性別,年齢,介護度,寝たきり度,自立度,日常生活への満足度,TUG,FIM,現在参加している社会活動の合計数について,Spearmanの順位相関係数を用いた.また定期的な社会活動への参加群と非参加群,友人との関わりについても有・無を2群に分けてそれぞれ,Mann-WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%とした.倫理的配慮として倫理委員会の審査で承認を得て実施した.(承認番号R6-2号)また研究参加者には,研究の目的や方法に関して説明し,書面・口頭で同意を得た.
【結果】
基本属性は女性8名(72.7%),男性3名(27.3%),年齢85.8±8.1歳.要支援1:5名,要支援2:3名,要介護1:1名,要介護2:1名,要介護3:1名.寝たきり度J1:3名,J2:4名,A1:3名,A2:1名.自立度I:8名,IIa:2名,IIb:1名.TUG:14.1±4.5秒,FIM:111.1±16.4点,日常生活への満足度7.1±1.4点,現在参加している社会活動の合計数3.4±2.1であった.Spearmanの順位相関係数を用いて,日常生活への満足度と正の相関を認めた項目は,FIM(r=0.75,p<0.05),参加している社会活動の合計数(r=0.98,p<0.05)であり,負の相関を認めた項目は介護度(r=-0.54,p<0.05),寝たきり度(r=-0.67,p<0.05),自立度(r=-0.73,p<0.05)であった.またFIMと社会活動の合計数(r=0.74,p<0.05)では正の相関,FIMとTUG(r=-0.65,p<0.05)では負の相関を認めた.社会活動の合計数とTUG(r=-0.29,p=0.385)では有意差は認められなかった.
現在,定期的な社会参加は6名(デイケアは除く),非参加は5名であった.その群間差を満足度でみると,参加群は8.2±0.9点,非参加群は5.8±0.7点であり,p<0.05と有意な差を認めた.また友人との関わり有が5名,関わり無が6名であり,満足度でみると関わり有は8.2±1.0点,関わり無は6.2±1.1点であり,P<0.05と有意な差を認めた.
【考察】
研究参加者11名のうち,6名がデイケア以外の社会活動に参加しており,現在も継続して他者交流が可能な状態であった.地域高齢者がサロンや自治体活動等の社会活動に参加するきっかけとして,退職後の自身の体調不良や心身機能の低下,生活上の能力低下から健康に意識が向くことが影響している3)と報告されている.当施設に通う独居高齢者も退職をきっかけに社会活動に興味を持ち,参加を決意した者がほとんどであった.
本研究の結果から社会活動への参加や他者との交流が当施設のデイケアに通う独居高齢者にとって,日常生活への満足度やADL動作能力の向上,介護負担の軽減に影響していることが明らかになった.しかしその一方で,社会活動への参加や他者との交流が少なく,日常生活への満足度やADL動作能力の低下,介護負担の増加を認めている独居高齢者が存在していることも明らかとなった.社会活動に参加していない独居高齢者5名のうち3名は男性であり,特に男性の独居高齢者に地域社会との交流を促すことが重要になってくる.男性独居高齢者の社会的孤立の支援には,高齢者個人への支援に終始するのではなく高齢者の家族,地域住民を含めた社会づくりが必須である4)と報告されている.独居高齢者がデイケア利用を通して仲良くなった他利用者と同じ社会活動への参加を促すことや,地域で行われている社会活動を把握してその人にあったものを紹介すること,作業療法士が地域に出て自治体や老人クラブ・サロンの運営側と関わり,環境調整を行うこと等の支援が作業療法士として今後求められ,課題になると考えられる.当施設では今後,地域の高齢者を社会活動参加へと促すため作業療法士主催で,活動の場を作る.その際自治体と協力して集客し,男性高齢者も好む活動を行い,独居高齢者が地域と繋がるきっかけを作っていくことを目標とする.
今回の研究限界として,予備研究であり研究参加者が11名と少ないことが挙げられる.今後は当施設のみでなく,同地区の独居高齢者を対象に調査を行う必要がある.