講演情報

[15-O-R005-04]介護予防は「つながる」まちづくり

*藤本 公子1、小川 美和1、大川 智博1、横山 里恵1 (1. 広島県 こぶしの里)
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高齢化率49.1%と過疎高齢化が進む当地域の老健で、要介護認定非該当の人でも自費で利用できる通いのサービスを立ち上げた。通所リハビリテーションの定員の空きを利用し、介護保険サービスとインフォーマルサービスを一体化した。結果として介護保険の入り口となり、介護予防通所リハビリテーションの収益増加にも繋がった。専門多職種の関わりや地域企業の協力により高い相乗効果が生まれている。
【はじめに】
中国山地のほぼ中央に位置し、高齢化率49.1%の過疎地の老健で、要介護認定非該当の人でも自費で利用できる通いのサービス(以下「サロン」という。)を立ち上げた。思いやりを持ってみんなの笑顔が咲き誇ることを願い『サロン「咲」(えみ)』と名付け、令和3年10月にスタートした。
過疎化が進行している当地域においてフレイル予防や集いの場のひとつとなった。更に、通所利用者が少なくなる中で、通所リハビリテーション(以下「通所リハ」という。)定員の空きを利用し、通所一体型のインフォーマルサービスとして提供することにより、今後、要支援、要介護へ移行する可能性のある人が来所することになった。施設経営においても利用者獲得の一角を担うこととなった。
【方法】
当事業を開始するに当たり、介護保険サービスとインフォーマルサービスを同じ空間で一体的に行えるのか行政に確認をとった。自治振興区等を訪問し当事業について説明して協力体制を構築した。食事、アクティビティ、体操、物療など介護予防通所リハビリテーション(以下「介護予防通所」という。)と同じプログラムにすることで、今後通所リハを利用することとなった際にもなじみやすい仕組みとした。サロン利用の成果を見える化するために、半年ごとに身体機能評価と認知機能評価を実施し状態の変化を追えるようにした。料金は気軽に利用してもらうために、食事代とガソリン代などの必要経費程度の利用料とした。地域のコミュニティの中心となる方に利用してもらうことで口伝えに地域に広がっていった。
【経過と効果】
(サロン利用者)
当初は6人のスタートだったが、多いときで35名の方が利用されるようになった。サロン利用者は通所リハ利用者と同様に、医療や介護の専門職と関わる事ができ、知識を得る場、相談できる場を持てるようになった。介護保険サービスについての相談も容易になり、利用のハードルも下がった。サロン開始後10名の方が介護保険サービスへ繋がったが、なじみのある関係性が途切れることなく介護予防通所や通所リハに移行できた。介護支援専門員にいつでも相談できる環境にあることも大きなメリットになっている。利用者の意見から働く場の提供も開始した。「ちょこバイト」という名称で、利用中の隙間時間でできる仕事を提供し、対価を得られる仕組みづくりを行った。
(施設・介護予防利用者)
サロン開始前の介護予防通所の課題として、アクティビティのマンネリ化があったが、プログラムにテコ入れをすることで、多職種が関わるようになった。流行を取り入れた手作業やゲーム等も増え、「なんだか今までと違う」と感じてもらえるようになった。サロン利用者が一緒に活動することで、アクティビティの補助や話し相手にもなり、既存の利用者に刺激や活力を与える効果もあった。外出支援や移動販売車による定期販売も開始し、これらの取り組みは既存の利用者の利用回数の増加と休みがちな利用者の利用再開にも繋がった。
経営面では介護予防通所の収益はサロン開始前と前年度を比較し、利用者数36%増、利用回数70%増、総収入36%増の結果となった。
(地域)サロン利用者の70代3名、80代15名、90代4名、うち女性21名、男性1名へ行ったアンケート設問の「これからサロンでやってみたいことは?」との問いに対して、社会活動、世代間交流、勉強や習い事をしたいとアクティブな意見が多数あった。
施設としても目標である『地域と繋がる福祉(まちづくり)』を視野に入れた取り組みを展開したい思いがあるなか、新たな試みが動き出した。地域の化粧品店と協力し、プロによるメイクアップ教室を開催し、新聞取材も受けた。世代を超えた交流として、保育所へ絵本の読聞かせに出かけ園児と交流を開始した。高校生の指導による桧の玉(笑夢(えむ)玉)を磨く取り組みも開始した。
【考察】
地域の高齢者の中には独居の人も多く、今後の生活に不安を抱えている人が多い。先々で介護保険サービスを使いたいと思った時、元気な段階でサロンを使うことで介護保険の具体的なイメージを持つことができ、自己選択ができるようになる。併せて、介護保険に関わる専門職種との繋がりがあることで、今後もこの地域で生活していくための準備ができる。
元気なサロン利用者を受け入れることは、スタッフのサービスの質に対する意識向上のきっかけにもなった。また、サロンを受け入れることで通所リハのプログラムのテコ入れもでき、経営の改善にも影響した。既存の利用者にとってはサロン利用者と一緒に活動することが刺激になるとともに、外出や世代間交流は次の行動への意欲を高めるきっかけにもなった。
協力いただく企業にとっては福祉へ関わるきっかけとなり、協力体制の申し出や活動の提案、紹介により、老健の役割である地域貢献の幅を拡げている。サロン咲は、利用者、施設、地元の企業の3者にとってwinwinとなる存在になりはじめている。当地域では、男性や前期高齢者のフレイル予防が不十分な現状がある。今後、それらの方々をターゲットにした取り組みを、地域ぐるみで展開していき、更なる老健機能の強化を目指したい。