講演情報
[15-O-R006-02]地域高齢者に対する療法士の関わりA町における介護予防運動の効果検証
*川端 照和1 (1. 福井県 特定医療法人千寿会 介護老人保健施設アルマ千寿)
当施設の地域貢献活動として、2022年から2024年において、療法士が施設周囲のA町の高齢者に対し、介護予防運動を実施した。療法士の介入により、専門的知識に基づいた介護予防運動の提供が可能となり、高齢者のモチベーションが向上し、地域活動への参加が継続したことで、身体機能の維持に繋がった。介護予防の推進には、高齢者を地域で支える体制の整備と、医療専門職の積極的な関与が必要不可欠であると経験した。
【はじめに】
近年、地域リハビリテーション活動支援事業や保健事業と介護予防の一体的実施の事業などを通して、療法士が地域で活動する機会が増えてきている(永井,2023)。当施設周囲のA町において、地域包括支援センター及び民生委員が地域高齢者の介護予防活動について模索していたことと、地域貢献活動を担う介護老人保健施設としての役割が相互一致した。そこで2015年より自主開催型デイホームと地域高齢者の集いの場であるよろず茶屋が立ち上げられ、支援者側の一員として当施設の療法士と看護師が介入することとなった。今回、我々が介入した2022年から2024年の2年間において、A町の地域高齢者の身体機能が維持され、介護予防に繋がった為、報告する。
【施設地域紹介】
当施設は、福井県の中心に位置しており、施設の置かれているB地区(8町)は、人口3657人、65歳以上の人口1367人、高齢化率は37.38%と高齢化が進んでいる地区である。その中のA町はB地区の中で2番目に人口が多く、後期高齢者の独居率は約15%という地域背景である。
【目的】
本報告は、A町の過去2年間の地域活動において、療法士が介入してきた介護予防運動の効果検証を目的とする。尚、本報告に関し、対象者及び関係者への同意を得ている。
【対象と期間】
A町において、地域包括支援センター職員と民生委員の見解により、今後要介護状態になることが予測された65歳以上の高齢者10名(女性10名、平均年齢81.0±3.5歳)を対象とした。介入期間は、2022年4月から2024年3月までの2年間とした。
【方法】
A町の65歳以上の高齢者を対象とした地域活動内容として、よろず茶屋、折り紙教室、輪投げ会、自主開催型デイホームが毎月2回開催され、また独居者を対象とした、昼食を100円で提供する「味噌汁の会」が二カ月に一度開催されている。これらの活動の中で、毎月のよろず茶屋、自主開催型デイホーム各2回において療法士が介護予防運動を実施した。介護予防運動の内容は、スクワット10回3セット、つま先上げ10回3セット、踵上げ10回3セット、支持ありでの片足立ち60秒左右3セット、ストレッチングを中心に構成された約60分のプログラムとした。効果判定として介入前後に、体力測定7項目(握力、TUG、片脚立位、椅子からの立ち上がり、柔軟性、5m普通歩行速度、5m最大歩行速度)を実施し、評価結果をウィルコクソン符号順位検定にて比較検討した。統計ソフトはEZRを使用し、有意水準5%とした。また、介入後に民生委員、福祉委員、対象者に対し、療法士の関わりについてのアンケートを実施し、支援者側と対象者双方の主観的意見を評価した。
【経過及び結果】
介入前後の体力測定の結果は、7項目全てにおいて有意差は認められなかった。年度末に実施している民生委員、福祉委員、対象者への年間活動に関するアンケートでは、(1)介護予防として療法士の介入は効果があるか(ある100%)、(2)参加者(自身)の身体機能面は維持されているか(されている100%)、(3)地域活動に満足しているか(満足している100%)となり、対象者の満足度が高い結果となった。その他支援者側より、「地域活動開始当初は、どのような支援をしてよいのか不安であったが、療法士さん、看護師さんの専門的な関わりや健康を維持している高齢者を見ていると、介護予防の重要性が分かった。」との意見があり、対象者だけでなく支援者の意識も高まってきていることが明らかとなった。また、地域活動の変化として、介入当初は、毎月2回のよろず茶屋、自主開催型デイホームのみであったが、さらに活動を盛り上げたいという地域の思いから、支援者として自治会副会長が加わり、2023年に新たに、折り紙教室、輪投げ会、味噌汁の会が立ち上げられた。支援者の人的体制が整備されたことで、地域活動内容が拡大した。
【考察】
体力測定の結果より、A町の対象者10名が後期高齢者であるにも関わらず、身体機能が維持されていたことは、非常に優良な結果であったと言える。これは、地域で暮らす高齢者を対象とした運動教室の有効性について報告している先行研究(滝本ら,2009; 安村,2006)と同様の結果であった。また、対象者及び支援者へのアンケート結果より、療法士に対する満足度が高いとされたことは、療法士の長期的な関わりにより、信頼関係が構築された為であると考える。それにより、対象者のモチベーションが向上し、継続した地域活動への参加が促進され、身体機能維持という結果に繋がったのではないかと考える。つまり、地域高齢者を対象とした運動教室を効果的に実施するには、活動内容だけでなく、療法士の関わり方が重要ではないかと考える。
今回の療法士の介入は、A町にとっては、介護予防事業に携わる専門職の人的確保やエビデンスに基づく介護予防運動が継続でき、当施設にとっては、地域高齢者を地域の中で支援する地域包括ケアシステムでの役割を全うでき、双方に大きな利点をもたらすことができたと考える。
【おわりに】
今回のA町の地域活動への療法士の介入は、地域高齢者の介護予防に有効的であった。このような地域づくりを推進する為には、高齢者を地域で支える体制の整備と、医療専門職の積極的な関与が必要不可欠であると経験した。
近年、地域リハビリテーション活動支援事業や保健事業と介護予防の一体的実施の事業などを通して、療法士が地域で活動する機会が増えてきている(永井,2023)。当施設周囲のA町において、地域包括支援センター及び民生委員が地域高齢者の介護予防活動について模索していたことと、地域貢献活動を担う介護老人保健施設としての役割が相互一致した。そこで2015年より自主開催型デイホームと地域高齢者の集いの場であるよろず茶屋が立ち上げられ、支援者側の一員として当施設の療法士と看護師が介入することとなった。今回、我々が介入した2022年から2024年の2年間において、A町の地域高齢者の身体機能が維持され、介護予防に繋がった為、報告する。
【施設地域紹介】
当施設は、福井県の中心に位置しており、施設の置かれているB地区(8町)は、人口3657人、65歳以上の人口1367人、高齢化率は37.38%と高齢化が進んでいる地区である。その中のA町はB地区の中で2番目に人口が多く、後期高齢者の独居率は約15%という地域背景である。
【目的】
本報告は、A町の過去2年間の地域活動において、療法士が介入してきた介護予防運動の効果検証を目的とする。尚、本報告に関し、対象者及び関係者への同意を得ている。
【対象と期間】
A町において、地域包括支援センター職員と民生委員の見解により、今後要介護状態になることが予測された65歳以上の高齢者10名(女性10名、平均年齢81.0±3.5歳)を対象とした。介入期間は、2022年4月から2024年3月までの2年間とした。
【方法】
A町の65歳以上の高齢者を対象とした地域活動内容として、よろず茶屋、折り紙教室、輪投げ会、自主開催型デイホームが毎月2回開催され、また独居者を対象とした、昼食を100円で提供する「味噌汁の会」が二カ月に一度開催されている。これらの活動の中で、毎月のよろず茶屋、自主開催型デイホーム各2回において療法士が介護予防運動を実施した。介護予防運動の内容は、スクワット10回3セット、つま先上げ10回3セット、踵上げ10回3セット、支持ありでの片足立ち60秒左右3セット、ストレッチングを中心に構成された約60分のプログラムとした。効果判定として介入前後に、体力測定7項目(握力、TUG、片脚立位、椅子からの立ち上がり、柔軟性、5m普通歩行速度、5m最大歩行速度)を実施し、評価結果をウィルコクソン符号順位検定にて比較検討した。統計ソフトはEZRを使用し、有意水準5%とした。また、介入後に民生委員、福祉委員、対象者に対し、療法士の関わりについてのアンケートを実施し、支援者側と対象者双方の主観的意見を評価した。
【経過及び結果】
介入前後の体力測定の結果は、7項目全てにおいて有意差は認められなかった。年度末に実施している民生委員、福祉委員、対象者への年間活動に関するアンケートでは、(1)介護予防として療法士の介入は効果があるか(ある100%)、(2)参加者(自身)の身体機能面は維持されているか(されている100%)、(3)地域活動に満足しているか(満足している100%)となり、対象者の満足度が高い結果となった。その他支援者側より、「地域活動開始当初は、どのような支援をしてよいのか不安であったが、療法士さん、看護師さんの専門的な関わりや健康を維持している高齢者を見ていると、介護予防の重要性が分かった。」との意見があり、対象者だけでなく支援者の意識も高まってきていることが明らかとなった。また、地域活動の変化として、介入当初は、毎月2回のよろず茶屋、自主開催型デイホームのみであったが、さらに活動を盛り上げたいという地域の思いから、支援者として自治会副会長が加わり、2023年に新たに、折り紙教室、輪投げ会、味噌汁の会が立ち上げられた。支援者の人的体制が整備されたことで、地域活動内容が拡大した。
【考察】
体力測定の結果より、A町の対象者10名が後期高齢者であるにも関わらず、身体機能が維持されていたことは、非常に優良な結果であったと言える。これは、地域で暮らす高齢者を対象とした運動教室の有効性について報告している先行研究(滝本ら,2009; 安村,2006)と同様の結果であった。また、対象者及び支援者へのアンケート結果より、療法士に対する満足度が高いとされたことは、療法士の長期的な関わりにより、信頼関係が構築された為であると考える。それにより、対象者のモチベーションが向上し、継続した地域活動への参加が促進され、身体機能維持という結果に繋がったのではないかと考える。つまり、地域高齢者を対象とした運動教室を効果的に実施するには、活動内容だけでなく、療法士の関わり方が重要ではないかと考える。
今回の療法士の介入は、A町にとっては、介護予防事業に携わる専門職の人的確保やエビデンスに基づく介護予防運動が継続でき、当施設にとっては、地域高齢者を地域の中で支援する地域包括ケアシステムでの役割を全うでき、双方に大きな利点をもたらすことができたと考える。
【おわりに】
今回のA町の地域活動への療法士の介入は、地域高齢者の介護予防に有効的であった。このような地域づくりを推進する為には、高齢者を地域で支える体制の整備と、医療専門職の積極的な関与が必要不可欠であると経験した。