講演情報

[15-O-R006-05]料理で心も体もいきいきと料理活動の継続により学んだこと

*小栗 今日子1、秋山 温1、石川 奈津実1、近藤 千尋1 (1. 愛知県 老人保健施設かずえの郷)
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老健管理栄養士の役割が多様化している中、多職種と連携し、食を媒介としたリハビリを展開する事で、利用者は積極性が向上し、いきいきとした姿をみせた。その実績の中で認知症カフェにおける料理活動を開始。地域高齢者への適切な食についての啓発を含めた料理活動を継続することで、高齢者の潜在能力と自発性の向上、健康への再認を目指した。今回、活動による効果や今後の我々の責務について明確化しつつあるため報告する。
【はじめに】
 地域包括ケアがうたわれる中、老健管理栄養士に期待されるものも多様化してきている。当施設は平成7年に開設以来、複数選択・レストランメニューなど、生活の質を上げ、リハビリに直結するような食に対する取り組みに精一杯、努めてきた。その中で、施設内での料理やおやつ作りを媒介にしたイベント・レクリエーションを多職種と連携しながら実施すると、ご利用者の積極性は向上し、自然と穏やかな雰囲気が流れ、いきいきとした笑顔があふれる瞬間を幾度となく体感できた。その活動を継続しながら、平成30年より、当法人が開催する認知症カフェにおいて料理活動を開始。今回、活動による効果や今後の我々の責務について明確化しつつあるため報告する。
【活動目的】
 地域高齢者を対象とした適切な食についての啓発を含めた継続的な料理活動の実施により、高齢者の潜在能力と自発性及び社会との繋がりの回復を図る。その中で介護予防への効果を期待し、各々の生活の張り、役割の再認へ結びつけ、生活の質の向上へつなげる。
【活動期間】平成30年から現在
【取り組み内容及び結果】
1、 認知症カフェの概要:名称(にこにこカフェ)、運営機関(同法人地域包括支援センター、介護老人保健施設、グループホームでの共催)、開催頻度(月1回)、参加者数(毎月25~30名)、参加者分類(認知症高齢者本人、家族、介護者、自治区区長、民生委員など)、内容(認知症予防に関する情報提供、脳トレ、健康体操、俳句作成、音楽活動、手工芸、料理活動など)定期的に参加者へ内容に対する意向を確認し取り入れている。
2、 料理活動の進め方:にこにこカフェ2か月に1回のペースで実施。「食で認知症予防」と題し、認知症予防や生活習慣病予防に効果がある食材やメニューに関する情報をシリーズ化して提供。その後、シリーズに沿った手軽に取り組めるメニューの調理を体験できるように企画し実施。料理完成後、試食。食に関する活動は一連で40分程度とする。
3、料理活動で留意する点:1)高齢者の自尊心を守るよう配慮する。2)可能な限り参加者が協力して行えるよう支援する。3)苦手なこと、消極的なことを強く勧めない。4)取り組みやすいように下準備をする。5)参加者が後で振り返り易い内容とする。6)感染予防対策を施した中で調理できるよう作業手順について工夫する。
4、料理活動の効果:にこにこカフェでの料理活動は開始当初から好評であった。グループ単位での活動とし、初めは互いに譲りがちであった、回を重ねるにつれて、積極的に取り組み、助け合う姿も見られるようになった。再現しやすいメニューを提案していることから、自宅で作りたいという意見や実際に試みた感想を伝える参加者もあった。毎回楽しみに、にこにこカフェへ訪れる参加者の中には、料理活動の際、当初は不安げな表情であったが、回を重ね体験するにつれ、自信を持って立ち振る舞うように変化していく様が明らかに感じ取られた。また、にこにこカフェをきっかけに、管理栄養士へ地域サロンでの食生活に関するセミナーの展開依頼を受けることも増え、地域高齢者の在宅での食意識を高めるためのアプローチや管理栄養士の役割を啓発できる機会ともなっている。
5、料理活動に対するアンケートの実施:にこにこカフェで料理活動を実施する回への参加者へ簡易的なアンケートを施行。回答者の95%が70歳以上で、約60%が5回以上参加実積のある群であった。アンケートから、カフェでの料理活動を楽しいと感じると95%が答え、料理活動を難しいと思うかの問いには84%がいいえとした。また、カフェに参加後、自宅での食事について、調理や食事の準備、買い物などで関わることが増えたと20%が答えた。カフェで紹介した食材を取り入れたなど、食事に対する意識に変化があったと21%がし、料理活動でのメニューを自宅で作ったことがあると21%が回答した。まだまだ成果は、僅少ではあるが確実に体験した内容を生活に活かしつつあることが理解できる。
【考察】
 料理は、高齢者にとって生活の中で繰り返した馴染みの活動で、段取りを考え手先を使い調理することは、脳の働きを活発にすると明らかにされている。料理は幾つもの段階手順があり、何よりも五感を刺激する唯一の活動だ。そして、家族など大切な誰かの為に料理することは、感情を育て伝え、互いに達成感を味わうことができる意味ある尊い行為となる。料理への想いは、家族や友人との思い出、特定の料理に対する愛着、健康や栄養への関心など、さまざまな要素に影響される。我々が、料理活動を実践する中でも、料理に対する人それぞれの想いを垣間見ることができる。昔、家族の為に調理したことを口にし、自分自身の食材の知識を語り、昔自ら栽培したと懐かしむ人もいる。料理の空間が作り出すリラックスした柔らかい空気の中でこそ、自らの体験を回想し温かい気持ちになれるという、料理には不思議な力があると実感する。今回実施したアンケートから、カフェでの料理活動の経験が、参加者自らが料理に対する想いを蘇らせる糸口になると感じ取れ、今後の我々の活動方針により地域参加者が健康に良い食事を自分で理解し、実践できるよう変化させることができると痛感した。
【結語】
 食とは、健康維持やエネルギー補給に必須のものではあるが、背景となるものはあまりに大きい。我々の実施する料理活動も生活に及ぼす急激な変化は見込まれないものの、自ら作って食べる活動の継続は、各自の社会性・役割認識感・自信の回復に大きく関与し、健康な体は、自らが作ると気づくきっかけになると自負している。そして、その変化は、高齢者が地域で心も体もいきいきと輝いた生活を営む際、貴重な要素となり得ると切に思う。今後もそれぞれの生活を彩り豊かにできるような、食を通しての取り組みに尽力していきたい。