講演情報

[15-O-Q002-02]福祉用具の活用度と職員の腰痛発生率は逆相関にある職員のQOL向上を目指して

*平山 友彦1 (1. 三重県 介護老人保健施設あのう)
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高齢者施設で勤務する私たち職員の職業病と言われている腰痛問題について、積極的に福祉用具を導入し取り組みを行った結果、職員の腰痛発生率について減少結果が得られた。福祉用具活用前と活用後に分けて調査し、腰痛に関する診断書の提出数や労働災害申請数で比較した。福祉用具等の活用促進において職員の身体負担軽減に努めた結果、【福祉用具活用度】と【腰痛発生率】に逆相関が認められたので報告した。
【目的】
 介護の仕事をしていると腰痛は職業病だとよく耳にする。昔ながらの介護技法ではそうであったかもしれないが、現代においては福祉用具や福祉機器が発展しており、それらを積極的に活用することで職員の負担軽減を図ることができ、腰痛発生率が低下するであろうと考えた。移乗用の福祉用具等を本格活用してから3年間が経過し、活用前後で腰痛発生率や労働災害申請数に差が現れてきたので報告する。
【方法】
 「えらい・きつい」のイメージが強い介護現場の払拭と腰痛予防を目指し、令和2年9月法人内の各施設に「スライディングボードとスライディングシート」を導入し、身体に優しい、抱え込まない負担のない介護に取り組み始めた。しかし、今までのように福祉用具を使用することに手間や時間がかかることに対し抵抗がある職員もおり、積極的な活用がされないまま昔ながらの抱え込み介護から脱却できずにいたため、令和3年1月から法人内の各施設において、介護主任や理学療法士が中心となって職員に使用方法や有効性の研修を行い、同時にいつでも職員が自己研鑽できるように介助方法の動画を作成し、全職員に視聴してもらうようにした。
 次にこれらの福祉用具を活用するには、ひじ掛けが跳ね上げ可能な車椅子が必要となるので追加購入を計画した。なお、これらの購入には費用がかかるので、各施設の現場の実態に合わせて、毎年設置数を段階的に増やしている状況である。
 また同時に、職員の精神的負担や業務負担の軽減対策として、ベッドに見守り支援システム「眠りSCAN」を設置し、iPadで利用者様の状態が一目で確認できるようにして定期巡回数の見直しを行った。iPadによる記録のIT化もすすめ、全館Wi-Fi環境を整備して記録に係る時間の短縮に取り組んだ。
 さらに、排泄用品として、委員会等で吸収量の良い高機能パッド等を検証し、品質を見直すことで1日のオムツ定期交換回数を平均6回から4回に削減した。また他に、介護助手(高齢者雇用)を雇用し、直接介護以外の周辺業務を担ってもらえるよう育成に取り組み、エリア毎に1名ずつ配置して業務分担を行い、各部署では始業前の腰痛予防体操に取り組んだ。
 これら多種多様な方面から職員の業務負担軽減に努め、抱え込まない介護(滑らす介護)を実践し、本格的に取り組みを開始した令和3年度の前後で、法人全職員800人(内、介護職員420人)の腰痛診断書提出数及び腰痛に関する労働災害数を比較し変化を調べた。
【結果】
 介護施設における労働災害の発生率は全産業平均と比較して約1.6倍となっており、労働災害が発生しやすい職場となっている。その中でも腰痛等の身体部位の負傷が多いため、早期また継続的な取り組みが必要である。今回、福祉用具や福祉機器を積極的に活用していくことで令和3年度の前と後で比較し、全職員(800人)の腰痛診断書提出数は年平均6.1件から5.6件へと8%減、介護職員(420人)については年平均4.4件から2件へと55%減となった。労働災害数は、以前から介護職以外の職種からは発生がなかったが、介護職員については年平均0.5件から直近3年間ゼロとなり、移乗介助を実施することが多い介護職員については特に有意な結果となった。
 なお、腰痛診断書の提出については、業務以外で発生した腰痛も含まれているため、業務上で発生した腰痛とは限らないものもあるが、労働災害が発生しなかったことで、福祉用具活用度と腰痛発生率は逆相関にあることが認められると考える。
 これら多種多様な取り組みにより、職員からは腰への負担が軽くなり、以前より業務負担量が軽減されたと好評を得ている。
 今後はインカム等の機器も取り入れ、さらなる業務の効率化を目指し、職員が安心して働くことができる職場づくりを進めていく。
【考察】
 様々な福祉用具や福祉機器を活用し最新の介護サービスを行うことで、職員自身が身体の健康を維持することができ、生活の質(QOL)が高まる。その結果、長く介護の仕事を続けることができ離職率が低下する。さらに、専門性を高めた介護サービスを提供することで職員自身が専門職として成長することができ、最終的には介護の仕事の地位向上に繋がるのではないであろうか。
 また、最新の介護を世間に広く知ってもらうことにより「介護の仕事はえらい・きつい」というイメージを払拭し、仕事の魅力を発信し続けることで、介護施設で働く仲間が増えていくと考えている。