講演情報

[15-O-Q002-03]入所者満足度アンケートで見えてきた強みと課題

*川原 侑子1 (1. 長崎県 介護老人保健施設恵仁荘)
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入所者の満足度アンケートを実施した結果、食事に関して満足度が高く、職員とのコミュニケーションや対応の仕方にやや不満がある傾向を認め、全体的には約9割のご利用者が当施設を満足している結果が得られた。令和6年度の介護報酬改定で新規の加算として上げられた、「生産性向上推進体制の整備」に向けて、業務改善のヒントが認められたため、より良いサービス提供に向けての改革に繋げていきたいと考える。
【はじめに】
現在、当施設は超強化型老健施設として、年間約100名の在宅復帰を目標に取り組んでいる。第34回全国老人保健施設大会において、当施設のリハビリの在り方を模索した結果、従来のリハビリ室でのリハビリから、療養棟という生活の場でのリハビリを併用することで退所後の生活を見据えた生活動作の向上だけでなく、多職種間(看護・介護・リハビリ)のコミュニケーション量が増大したことを報告した。
その後、新型コロナウイルス感染症も5類へ移行し、人との接触が緩和されていく中で、当施設内でも、作業療法士の集団による製作活動の開始、もちつきやコンサート等の行事も徐々に再開していった。
そこで、現在、当施設が提供しているサービスに対して、入所者の満足度を確認するアンケートを実施した。ここで見えてきた当施設の強みや課題を整理し、今後の展望を考察したので報告する。
【対象と方法】
<対象>
期間は、令和5年1月1日~令和5年12月31日までの一年間。
対象は、期間中に退所された91名のうち、重度認知症で意思疎通困難な方、回答拒否があった方を除く73名。内訳は、年齢72~97歳、平均年齢86.47歳、性別は女性54名、男性19名、平均介護度2.3、入所期間は1か月未満(27日)~1年3か月、平均入所期間は約3.5か月であった。
<方法>
退所日が決まった入所者に対し、先行研究を参考に恵仁荘独自で作成した満足度アンケートを直接口頭にて聴取した。アンケートとしては以下の内容を実施した。
[提供している活動について] 1.活動の周知、2.やりたい活動、3.余暇時間の過ごし方
[職員との関係について] 4.職員の親切さ、5.職員の言葉遣いや礼儀、6.職員への信頼
[コミュニケーションについて] 7.職員に気軽に話せたか、8.職員はすぐ聞いてくれたか、9.職員はすぐに対応してくれたか、10.他入所者との関わり
[リハビリについて] 11.リハビリの時間、12.リハビリの効果
[食事について] 13.食事の量と時間、14.食事のおいしさ、15.食事は楽しみ
[スタッフの対応について] 16.平日の職員の対応、17.夜間や休日の職員の対応
[施設の環境について] 18.部屋の環境、19.施設内きれい
[総評] 20.全体として良い施設か
上記の20項目を「とても思う」「やや思う」「どちらとも言えない」「あまり思わない」「ほとんど思わない」の5つの選択肢で回答を得た。聴取者は1名と限定し、聞き方に差異が出ないように配慮した。
【結果】
満足度の高かった大項目は[職員との関係について][リハビリについて][食事について][施設の環境について]であった。特に、13.食事の量と時間、19.施設内きれいの項目では92%以上の方が「とても満足している」と回答していた。また、やや思う~とても思うの「満足」に多かった項目は、4.職員の親切さ、5.言葉遣いや礼儀、6.職員への信頼、11.リハビリの時間、12.リハビリの効果、14.食事のおいしさ、18.部屋の環境、20.全体として良い施設かであった。
反対に、あまり思わない~ほとんど思わないの「不満」傾向にあったのは、1.活動の周知、2.やりたい活動、10.他入所者との関わりであった。
【考察】
満足度が高かった項目のうち、特に食事に関しては、量や時間を筆頭に満足度が高い結果となり、入所者からは「食べるのが楽しみ」「ここのご飯はおいしい」「だしがよく効いている」という声を何度も聞いた。リハビリに関しては、16.4%がリハビリの時間に対して物足りなさを感じていた。理由としては、その半数以上が週6日の短期集中リハビリが週3日の個別リハビリへ移行したために、特に物足りなさを感じやすい状況であったと考えられる。この満足度を受け、今後は、週3日の個別リハビリ移行後も、療養棟やベッドサイドでの自主練習などに繋げる工夫や諸活動の提供などを積極的に行ない、活動性の向上に向けた取り組みの提案ができればと考える。
不満傾向があった提供活動の周知に関しては、8月以降に満足度が上がってきており、室内掲示やフロア内放送、当日職員からの声掛けなどで周知の効果が出てきていると考えられる。また、新型コロナ5類移行に伴い、行事や諸活動も増えてきているため、今後も満足度は維持できると思われる。
また、満足度は高かったものの、職員との関係において、職員へ気軽に話しかけやすさや対応の仕方など、「職員によって違う」との声も聞かれたため、職種に限らず統一した対応が十分図れていないと感じた。特に、全体的な評価を不満とした方は、職員とのコミュニケーションや対応の仕方にも不満がある傾向にあったため、職員から積極的にコミュニケーションを図り真摯に対応していくことが必要と思われる。ただ、回答者の92%の方が、全体として当施設を満足していただいており、特に、施設内の掃除が行き届いている点をたくさんの方から直接言葉としてお褒めいただいた。
今後は、直接ケアをする側はケアの質を改善できるところは改善していきながら、直接入所者と関わる機会が少ない職種(栄養、調理、清掃など)であっても、施設全体の満足度を高める存在として自覚することで、施設全体で入所者の安心安全な生活を支援するチームとして協働していきたいと思う。
【今後の課題】
令和6年度の介護報酬改定で、生産性向上推進体制の整備に向けた加算が新設された。その中には、環境整備やサービスレベルの底上げ、均質化に向けた内容も含まれている。また、入所者向けのQOLの変化についての調査も算定要件に入っており、今回図らずも先駆的に実施したアンケート結果からも、業務の改善に向けてのヒントが多く認められた。今後は、委員会を中心に課題を抽出し、より良いサービス提供に向けての改革を行っていきたいと考える。