講演情報

[15-O-Q002-05]業務改善とICT機器導入意欲のある職員が年齢に関係なく働き続けられるために

*堤 優樹1、石原 定江1、木村 崇1、千原 瞳1、立川 康介1、林 信孝1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設西美濃さくら苑)
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介護業界は介護人員不足という問題を抱えており、職員の高年齢化も進んでいる。苑では10年前からタスクシフトや介護技術の安定化等、様々な業務改善を行っている。5年前の年初には施設長より「人とAIの共助・ケアの科学化」を目指すと方針が打ち出され、企画委員会が発足、様々なICT機器の導入・運用を行っている。これらは国の生産性向上の施策にも適合し、年齢関係なく働き続けられる環境に繋がると考え、実践をしている。
はじめに
当苑は岐阜県の西南に位置する介護老人保健施設で入所定員150名、通所定員50名の超強化型施設である。
 近年、国は介護人員不足の対応として、業務改善はもとより、業務効率化を掲げICT導入による改善を推し進め、苑では10年前から入所者のADL(質)の変化により業務を見直す必要にかられ、業務改善を実施してきた。
 そして、5年前の1月、苑の広報誌「はなざかり通信」で職員・地域住民に対する年頭の挨拶で「人とAIの共助・ケアの科学化を目指す」と施設長から発信があり「目標」として掲げ、国の政策の実施に向け「IT企画委員会」を立ち上げた。しかし、委員のICTに関する知識不足があり、まずは先進的な施設に見学に行き、説明を受け見て感じ協議した結果、まずケア記録の電子化・インカムの導入で効率化を開始した。今回、ICT導入前に実践すべきと考えた業務改善とICTの導入で、効率化した内容と今後目指す、全居室への見守りセンサーの導入とケア記録を音声AIに対応することで、今の人員でケアスキルを維持し、誰もが特に意欲のある高齢職員が年齢に関係なく働き続けられるためにと考え、実践してきた過程をここに報告する。

目的 意欲のある高齢職員が年齢に関係なく働き続けられる職場環境

方法・実践
ICT化にはシステム導入だけでなく、それに伴うルールや教育、知識・介護技術が必要と考え、前段階として実施してきた業務改善の中で繋がりの強いものについて次の通り示す。
1.介護助手の導入(タスクシフトの開始)
 10年前からの介護職の数と年代別推移は、現在比で全体で8名減少、年齢別では60歳以上が4人から10人に増え、20代は25名から7名に減少した。苑では離職率が10%前後と介護業界の平均14%台(2022年度)よりも低い値で推移したことで高齢化を示した。そこで10年前から介護助手の導入により介護周辺業務で資格を必要としない各種清掃・シーツ交換・搬送業務を依頼し、介護職の直接介護以外の資格を必要としない周辺業務の移管を始めた。当初2人が移管業務に従事し、現在13名が従事している。配置は各棟2名、デイ1名、トイレ担当1名・1階フロア担当に2名配置している。現在介護職は直接介護以外は実施していない。介護助手担当いるので、問題解決に結びつき、導入した事で専門職として介護業務に専念でき、有休取得率も上がり、平成29年度岐阜県ワークライフバランスエクセレント企業に認定された。

2.介護技術の安定化・向上
 機器と向かい合い業務を推進するためには、利用者中心の技術向上、安定化が必要と感じ、ケアマネ・アセッサー・認知症リーダー・認知症実務者の育成を実施し、「利用者中心」を目標に技術の安定化・向上を目指し取り組んでいる。
 ケアマネは苑全体で13名おり、専任・併任が混在しているが、デイケア3名、各棟2名以上と各部署にケアマネが併任で配置されている。
 ケアマネは支援のスペシャリストとして、介護計画書の作成と担当する棟での計画したケアをスタッフと共に実践しているので、必要時スタッフ指導が行え、スキルの安定化・向上に繋がっている。また月1回会議を行い、担当している棟の問題点を持ち寄り情報交換、時に研修で事例を持ち出し協議しながら目標を達成している。
 介護技術の評価者「アセッサー」は現在8名育成でき、平成25年に開始し段位レベル2~4を10名育成、アセッサーは毎年各担当の棟から1名のレベル2~4を育成し、育成されたレベル4はアセッサー取得のために能力アップを図り、評価者「アセッサー」へと循環を作りスキル維持に貢献している。
 認知症リーダーの資格は、認知症介護実践者研修を終え1年以上の実務を経ての受講で、当苑には9名いる。苑には認知症専門棟があるが、専門棟に留まらず全棟に認知度III以上の利用者がいるため、認知症リーダーを配置している。認知症リーダーは苑の認知症の教育として「華道・茶道・書道・脳トレ・塗り絵」等を曜日替わりで実施し、3か月1回会議にて個別事例を取り上げ職員に対応方法の指導・助言をしている。利用者の状態に合わせ、散歩も取り入れている。

3.記録の標準化
 まず記録を考えた時、介護計画書の作成、実施記録が中心になる。そこで問題点別に個別性をプラスする事で介護計画書となる「基準」が必要と考え、2010年にケアマネ会議で基準介護計画書を作成し、当初は39種類のニーズだったが、5回の改訂を繰り返し、現在は12項目に分類し127種類ニーズにとなっている。これを「(基準)施設サービス計画書」とし、個別性を織り込み、手早く計画を立て、家族説明・実践へと進めている。また業務移管として計画書類のPC入力も事務専門職を置くことで業務改善を図った。
 (平成29年度・岐阜県人材育成事業者認定制度にて「グレードI」に認定。)

4.ICT機器・ロボットの導入
ここではすべてを紹介できないが、ICT化の歩みとして、次のICT機器・ロボットを導入し、業務改善と省力化に努めてきた。
 1)スタッフの身体保全…腰部サポートロボット、アシストスーツ
 2)記録の効率化と均一化…電子化とマニュアル作成
 3)情報共有の迅速化…インカム導入
 4)夜間巡視の一部廃止…パソコンやスマホと連動する「見守りセンサー」
考察・まとめ
 ICT機器については、ここ5年間で段階的に進めており、アンケート調査からも分かるように、「インカム」、「ケア記録の電子化」、「見守りセンサー」が導入効果を実感している。一方で現在と10年前と比較して、職員の人員数に大きな変化はないが、高齢化は明らかであり、今後も改善は見込めない。ここから今施設が導き出した答えは、「意欲があれば年齢に関係なく働き続けられる職場をつくること」であり、そのためにICT化を加速させ、更なる時短効率化と職員の負担軽減を図ることである。今注目しているのは「音声AIによるハンズフリー記録の導入」と「見守りセンサーの全居室への拡大」であり実現に向け計画を進めている。そしてこれらが達せられると、昨今の国の生産性向上に関する施策にも適合し、「生産性向上体制加算I」を取得することができ老健として、高齢者施設としてよい循環を生み出せると考えている。