講演情報

[15-O-Q002-07]施設における新型コロナ感染症対策クラスターが及ぼす施設経営への影響

*勇地 克彦1、新久 理恵1、廣崎 由香里1、沖 修一1 (1. 広島県 老人保健施設べにまんさくの里、2. 老人保健施設べにまんさくの里)
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当施設では2022年、2024年の2回新型コロナウィルスによるクラスターを経験した。2回のクラスターが当施設の経営に与えた影響を検討した。検討項目は、入退所者数、ベッド稼働率、在宅復帰率、ベッド回転率、施設収益の低下率、訪問件数であった。その結果、初回クラスターでは施設収益の低下率は18%であったが、2回目のクラスターでは、0.02%の増加であった。2回目のクラスターをどのように乗り切ったか、当施設の取組を報告する。
【はじめに】
当施設では2022年と2024年の2回新型コロナウィルスによるクラスターを経験した。この2回のクラスターが当施設の経営に与えた影響を検討したので報告する。なお、当施設は100床、通所40名/日であり、現時点での職員数は非常勤を加えて104名の超強化型施設である。
【方法】
2回のクラスターの期間の1.入退所者数、2.ベッド稼働率、3.在宅復帰率、4.ベッド回転率、5.クラスター発生中の施設収益の月平均の低下率、6.訪問件数をそれぞれのクラスター発生前の2ヶ月間と比較検討した。
【結果】
(1)クラスター発生が2022年は8月9日から9月12日までの期間1(135日間)、および2024年は4月8日から6月27日までの期間2(281日間)であった。
(2)期間1では利用者は65名、スタッフ27名の感染であった。期間2では利用者49名、スタッフ8名の感染であった。
(3)期間1では、入所者へのリハビリテーション休止に加え通所リハビリテーションを休止した。しかし、期間2では、感染のフロア以外の入所、通所を通常通り継続した。
(4)期間1の入所者は10名、期間2では21名であった。
(5)期間1の退所者は25名、期間2では24名であった。
(6)期間1のベッド稼働率は82.7%、期間2では95.9%であった。
(7)期間1の在宅復帰率は9.0%、期間2では10.4%であった。
(8)期間1のベッド回転率は45.9%、期間2では60.9%であった。
(9)期間1の施設収益の低下率は18%、期間2では0.02%の増加であった。
(10)期間1の訪問件数は5件、期間2では8件であった。
結果をまとめると、期間1ではクラスターが施設収益に大きな影響を及ぼしたが、期間2では介護保険改訂などが有り、施設収益には全く影響しなかった。
【考察】
今回検討した内容は、クラスターの期間は期間2の方が長かったにもかかわらず、感染者の発生数、ベッド稼働率、在宅復帰率、ベッド回転率、施設収益の低下率の何れも期間2で改善が見られた。これらについて考察を加える。
(1)感染対策の改善:
1.職員及び入所者に対する感染対策を十分行い、日頃からマスク、手洗いを徹底した。
2.感染マニュアルを見直した。
3.関連病院からICT看護師による感染対策の指導を受けた。
4.感染カンファレンスを毎日行い、情報共有を行った。
5.各フロア間での人流を制限し、フロアを跨いだ職員の行き来をなくした。
6.リハビリテーションスタッフをフロアで固定、感染対策を取りリハビリを実施した。
7.フロアでの入所者が集まって行う体操、レクレーションを中止した。
8.フロアホールでの食事を中止し、全利用者を居室へ変更し、入所者間の接触を避けた。
9.手洗い・マスクに加え、ゾーニングとガウンテクニックを徹底した。
10.入所者への積極的にワクチン接種。又、職員全員がワクチン接種を受けていた。
11.入所者、退所者、職員に、新型コロナ抗原検査、場合によっては抗体検査を行った。
12.期間1では感染者が全フロアに広がったが、期間2では感染者がフロア毎に止まった。
期間2ではフロアごとに、時機を異にしてクラスターが発生した。
13.職員がコロナ対応に習熟した。
14.通所リハビリテーションを継続した。
(2)各比較項目の改善
1.期間1では重傷者が多く、医療機関への転院が多かった。期間2では新型コロナウィルス感染による医療機関への転院はなかった。入所者の殆どがワクチン接種済みであったこと、また重症化が少なかったことが要因と考えられた。
2.期間1では入退所者の制限と通所の中止を行った。しかし、期間2では入退所制限は感染のフロアのみとし、入所者自身が感染していなければ、感染者のいないフロアでは入退所、通所を通常通り稼働させた。これらの措置の結果、クラスター中も入所者が極端に減少することなく、稼働率、回転率、施設収益の維持につながった。
3.期間1では入所者へのリハビリテーション休止に加え通所のリハビリテーションも休止した。期間2ではリハビリテーションの制限はクラスター発生のフロアのみとし、感染者のいないフロア、通所などでは通常通りリハビリテーションを継続した。
4.期間2では、行政からの補助はなかったものの軽症者が多かったことから、高価格の薬剤を使用する必要がなかった。
以上の結果から、期間1の収益は、クラスター発生前と比較して18%低下し施設収益への影響は大きかったが、期間2では介護保険改訂などが有り、クラスター下でも施設収益は0.02%ではあるが微増となった。期間2ではクラスターによる施設収益への影響は見られなかった。
【結論】
コロナクラスター化で健全経営を維持するためには、下記の点が重要であると考えられる。
1.入所者、職員ともワクチンの摂取を受け、発症しても軽症化させる。
2.フロアで人流制限を行い、フロアを隔離する。
3.入所希望者本人が罹患していなければ入所を制限しない。
4.入退所制限は感染フロアのみとする。
5.入所、通所リハビリテーションなどのサービスは可能な限り継続する。