講演情報

[15-O-R007-01]老健入所を利用した日帰り白内障手術

*田村 拓登1 (1. 東京都 介護老人保健施設 あかしあの里)
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あかしあの里では、白内障手術のサポートを組み込んだ入所サービスを実施している。高齢者のQOLを阻害する要因として、環境面や心身面での機能低下など様々なものが考えられる中、当施設では80歳以上で100%の有病率とされる『白内障』に着目し、令和4年から現在までに11ケースの受け入れを実施してきた。今回の発表では、受け入れ開始に至る経緯や目的、利用者・家族の負担がいかに軽減されたかについて事例報告を行う。
はじめに
 高齢化が進む現在において、高齢者のQOLを阻害する要因として環境面や心身面での機能低下など、様々なものが考えられる。その中で、80歳以上で100%の有病率とされる白内障について、介護老人保健施設あかしあの里(以下、当施設)では新たな入所形態として白内障の手術を行うための入所サービスを企画した。令和4年から当該サービスを開始し、現在までに11症例を実施した。今回、サービス開始の経緯や目的、事例を以下に報告する。

 「老健入所を利用した日帰り白内障手術(以下、白内障手術入所)」を始めたきっかけ
 令和3年まで、当施設は老健の施設区分としては加算型に該当しており、今後在宅復帰強化型施設を目指していくにあたり、移行を検討する委員会を立ち上げた。委員会メンバーは老健に携わる全職種から編成した。在宅復帰率の向上を目指す中で、委員会メンバーより自身の親の白内障の手術の際、手術前後の受診等に関する仕事の調整の困難さについての意見が上がった。そこで、当法人内の眼科クリニックと連携して、病院受診に掛かる家族の負担を軽減するサービスの提案があり、提案を基に令和4年より新たな入所形態として「白内障手術入所」を開始した。

 当該入所の流れ
 眼科クリニックに白内障手術入所のポスターを掲載、それを見た家族などから当施設の相談員へと入所の相談が行われる。入所希望があれば、クリニックの看護師と利用者(利用者家族)間で手術日が決定される。その後、手術日から逆算して当施設への入所日を設定し、入所となる。入所中は、手術日と術後経過観察に必要な受診のためのクリニックへの送迎(計6回)及び術前後の点眼薬の管理を行う。約一か月間の入所後、自宅へと退所となる。入所中は看護師らによる点眼薬の管理・サポート(自立支援を含む)を行いながら、他の利用者と同様のサービス(介護、看護、リハビリ)を受けることができる。

 入所事例A様
 両目の見えづらさを主訴にX病院に通院していた。白内障の診断を受け、そのままX病院で手術を行う予定であったが、点眼や複数回の通院が身体的・環境的に困難であり手術を諦めていたところ、担当ケアマネジャー(以下、CM)がクリニックのポスターを見つけ、本人へと連絡。クリニックでの加療を本人が希望したため、当施設に白内障手術入所した。
 入所事例B様
 転倒後大腿骨頸部骨折にて当施設から在宅復帰をした氏が、その後同法人の訪問リハビリサービスを受けていた際、白内障症状が強くなってきた旨を療法士に相談。療法士より担当CMへと白内障手術入所について伝えたのち、本人に提案した。独居であり、協力家族が居らず受診が困難であったため、眼科クリニックの医師が氏の自宅へと往診を行い、手術適応と判断したため、ご本人の同意を得た上で当施設に白内障手術入所した。

 結果
 現在までに11名の白内障手術入所を行い、全員が経過良好にて在宅復帰をしている。相談員による退所後状況確認時(退所後1か月)では本人や家族から「歩行能力が上がった」「元気になって帰ってきた」等の喜びや感謝の声が聞かれた。A様は入所時、バランス力の低下があり移動形態は歩行器を使用していた。白内障手術と入所中のリハビリテーションにより機能向上がみられ、在宅復帰後は杖歩行自立レベルでデイサービスを休みなく利用している。B様は術前屋外の僅かな段差も恐怖心から介助無しでは困難であったが、術後は視界良好となり、近隣のコンビニエンスストアやスーパーまでの買い物動作を自立レベルで行えている。

 考察
 白内障の発症は年齢と相関関係にあり、高齢者の有病率は100%に達する。白内障は手術により著明な視力の改善がみられるため、高齢者のQOL向上に大きく寄与するが、病院への物理的なアクセスの問題や、術前後の点眼薬の管理などの点において高齢者が1人で対応することが困難なケースが多くみられる。白内障手術入所により、重点的に管理が必要な術前後の点眼薬管理が可能になる点や、施設職員が受診に同行する事で家族の負担を大きく軽減することが可能である。介護区分がある高齢者は、何らかの身体機能や精神機能の低下が認められるが、日帰り白内障手術は術後の運動制限も少ないため、リハビリテーションを並行して進めることで機能面の向上が期待できることも、利用者満足度の向上に繋がっていると考えられる。施設としては在宅復帰者が見込めることや、約1か月という短期間であるため回転率が向上し、メリハリのあるサービスを提供できることが利点の一つであるが、利用者、家族の満足度が非常に高い点も大きな利点となっている。施設職員による病院受診の送迎は人的・時間的負担となるが、受診や手術の際の待ち時間が最小となるよう、クリニックと連携して細かく時間の調整を行っている。

 おわりに
 在宅復帰率の向上を目指して始めた本事業であったが、本人・家族、CMからの反応も良く、介護老人保健施設として地域貢献が行えていることが実感でき、施設スタッフとして働き甲斐を感じられる。今後も老健あかしあの里のサービスの一つとして白内障手術入所のサービスを継続して行い、西多摩地域に必要な施設としてのサービス向上に努めていきたい。