講演情報
[15-O-R008-01]老健が介護予防事業に取り組む効果について
*谷口 明生1 (1. 京都府 介護老人保健施設おおやけの里)
【背景・目的】当施設が介護予防事業に取り組んでいることから老健が介護予防に取り組むことで互いにどのような効果が表れるかを検討する。【取り組み】1.施設のスペースを教室会場にする。2.地域団体への支援の際に介護保険説明会を実施する。3.介護保険が必要な方となる参加者へ早期に窓口案内をする。【考察】介護予防に老健の専門職が介入することは内容の専門化、地域啓発に効果的であるが、安定的な実施の仕組み構築が必要。
【はじめに】
当施設では京都市事業である「地域介護予防推進センター」を受託運営しており、区内において介護予防活動に取り組んでいる。このセンターでは介護認定を受けていない地域高齢者を対象に介護予防教室の開催や地域団体に対する啓発的指導を主として活動している。地域生活を支える仕組みとして、地域包括ケアシステムがあり、老健本来の役割としては「介護」と「医療」を担い、その連携機能が強みであると言える。しかし「生活支援・介護予防」にアプローチすることは難しく、一方で担い手として挙げられる地域団体やNPO等は専門的な支援機能が弱く、継続性においては大きな不安定さがある。ここで当施設が老健機能と介護予防機能を有していることで、本来、老健施設が介入することができない地域生活への専門的アプローチを実施することができると考えられる。本研究では、介護老人保健施設が介護予防事業に取り組むことで相互にどのような効果が生まれうるか示唆するものとして、これまでの取り組みを報告する。
【取り組み・工夫】
(1)介護予防事業の取り組みとして、「介護予防教室の開催」があり、教室の開催は主に講師・会場・プログラム内容の3要素で構成されている。当施設では、施設内のスペースをコミュニティスペースとして地域向けに開放している。介護予防教室をこのスペースで開催することで、地域住民が介護施設に触れる機会を作ることができると考えられる。参加者からは「介護老人保健施設はどんな施設か」と質問されることがあり、入所施設の中では比較的知名度が低い老健の機能を説明する場として機能し、介護保険制度についての啓発活動にもつながった。また一方で老健側においては、通所リハビリテーションの利用者等が地域住民と交流する機会にもなり、通常のデイケアでは難しい地域高齢者とのコミュニケーション活動を提供することができた。講師・プログラム内容についても理学療法士・作業療法士等が施設に配置されているため、専門的な知識を基盤としたプログラム内容の作成に取り組んだ上、介護士等の高齢者の対応技術に長けた講師が担当することができた。
(2)介護予防事業の取り組みに「地域団体への支援」があり、主に老人クラブや公園体操等の住民主体の地域団体へ出張指導を行っている。基本的には体操指導や介護予防に関する啓発講座を実施するが、老健の支援相談員である社会福祉士が啓発講座を担当する取り組みを行った。これは体操指導で介入している地域団体から「介護保険制度のことを知りたい」という声があり、そこから団体に対して介護保険制度の説明会を実施するに至った。地域住民の中には「自分は利用することがないから介護保険については知らなくてもいい」という元気高齢者が一定数おり、その方々が本来の介護保険説明に参加することは少ない。しかし体操指導と組み合わせる形で説明会を実施することで、元気層にもアプローチすることが出来るだけでなく、その方々が周囲の状態を見守ることが可能となり、支援介入が早くなることが期待される。ケースとして、地域支援の中には住民主体グループを立ち上げる活動を行うことがあるが、集合住宅の集会所を利用してグループ立ち上げを実施した際、介護予防事業による体操指導実施後に、老健の活動としての説明会開催を継続的に組み合わせることで、住民同士の見守りネットワークの強化につながった。老健からその集合住宅に在宅復帰する際にネットワークを活かした見守り依頼をすることができるなど普段の利用者支援にもつなげられる環境を作った。
(3)介護予防事業に参加する利用者は、基本的に介護認定をまだ受けていない高齢者であり、どれだけ介護認定者の割合を減らしていくかが事業の目的となる。しかし、状態悪化・怪我等で認定が必要になるケースは一定数発生する。その際、まずは地域包括支援センター等へ相談することが望ましいが、その前提知識がなければ相談窓口がどこになるのかもわからない状態が起こりうる。介護予防教室に参加している場合においては、老健職員が運営しているという認識が参加者側にあるため、介護認定を検討しているという相談を受けることがある。これにより、教室時の様子や関わりなどから、参加者のパーソナリティの把握や関係性を構築した状態で相談窓口、あるいは居宅介護支援センターへ案内することが出来た。本来老健では不可能な早期介入の方法として介護予防機能と連動することが可能だと考えられる。
【考察】
当施設の取り組みから介護老人保健施設はリハビリテーションの提供のため多くの専門職を配置していることが特徴的であり、介護予防機能と連携することで、介護予防の専門的アプローチが弱いという点を補うことが出来ると考えられる。そして一方で業務範囲を超えてしまうため困難となる老健による地域への介入が可能になり、互いの強み・弱みを活かし、補い合う組み合わせだとわかる。取り組みから改めてわかった点として、介護施設が介護予防の領域に介入することは、地域住民が介護保険を利用する際の案内が円滑になるという点であり、早期介入が可能になるということがある。まだ実践に至ってはいないが、老健のリハビリ機能を最大限に活かすためには早期介入が必要であり、入所に至るまでの連動という点も今後の展開として考えていきたい。ただ、当施設の取り組みにおいては介護予防活動を市の事業として実施しているため、活動予算、信頼性等の安定要素が揃っているからこその実践であることは度外視できない。そのため、老健が介護予防活動に取り組むための安定的な仕組みの構築が課題となる。
当施設では京都市事業である「地域介護予防推進センター」を受託運営しており、区内において介護予防活動に取り組んでいる。このセンターでは介護認定を受けていない地域高齢者を対象に介護予防教室の開催や地域団体に対する啓発的指導を主として活動している。地域生活を支える仕組みとして、地域包括ケアシステムがあり、老健本来の役割としては「介護」と「医療」を担い、その連携機能が強みであると言える。しかし「生活支援・介護予防」にアプローチすることは難しく、一方で担い手として挙げられる地域団体やNPO等は専門的な支援機能が弱く、継続性においては大きな不安定さがある。ここで当施設が老健機能と介護予防機能を有していることで、本来、老健施設が介入することができない地域生活への専門的アプローチを実施することができると考えられる。本研究では、介護老人保健施設が介護予防事業に取り組むことで相互にどのような効果が生まれうるか示唆するものとして、これまでの取り組みを報告する。
【取り組み・工夫】
(1)介護予防事業の取り組みとして、「介護予防教室の開催」があり、教室の開催は主に講師・会場・プログラム内容の3要素で構成されている。当施設では、施設内のスペースをコミュニティスペースとして地域向けに開放している。介護予防教室をこのスペースで開催することで、地域住民が介護施設に触れる機会を作ることができると考えられる。参加者からは「介護老人保健施設はどんな施設か」と質問されることがあり、入所施設の中では比較的知名度が低い老健の機能を説明する場として機能し、介護保険制度についての啓発活動にもつながった。また一方で老健側においては、通所リハビリテーションの利用者等が地域住民と交流する機会にもなり、通常のデイケアでは難しい地域高齢者とのコミュニケーション活動を提供することができた。講師・プログラム内容についても理学療法士・作業療法士等が施設に配置されているため、専門的な知識を基盤としたプログラム内容の作成に取り組んだ上、介護士等の高齢者の対応技術に長けた講師が担当することができた。
(2)介護予防事業の取り組みに「地域団体への支援」があり、主に老人クラブや公園体操等の住民主体の地域団体へ出張指導を行っている。基本的には体操指導や介護予防に関する啓発講座を実施するが、老健の支援相談員である社会福祉士が啓発講座を担当する取り組みを行った。これは体操指導で介入している地域団体から「介護保険制度のことを知りたい」という声があり、そこから団体に対して介護保険制度の説明会を実施するに至った。地域住民の中には「自分は利用することがないから介護保険については知らなくてもいい」という元気高齢者が一定数おり、その方々が本来の介護保険説明に参加することは少ない。しかし体操指導と組み合わせる形で説明会を実施することで、元気層にもアプローチすることが出来るだけでなく、その方々が周囲の状態を見守ることが可能となり、支援介入が早くなることが期待される。ケースとして、地域支援の中には住民主体グループを立ち上げる活動を行うことがあるが、集合住宅の集会所を利用してグループ立ち上げを実施した際、介護予防事業による体操指導実施後に、老健の活動としての説明会開催を継続的に組み合わせることで、住民同士の見守りネットワークの強化につながった。老健からその集合住宅に在宅復帰する際にネットワークを活かした見守り依頼をすることができるなど普段の利用者支援にもつなげられる環境を作った。
(3)介護予防事業に参加する利用者は、基本的に介護認定をまだ受けていない高齢者であり、どれだけ介護認定者の割合を減らしていくかが事業の目的となる。しかし、状態悪化・怪我等で認定が必要になるケースは一定数発生する。その際、まずは地域包括支援センター等へ相談することが望ましいが、その前提知識がなければ相談窓口がどこになるのかもわからない状態が起こりうる。介護予防教室に参加している場合においては、老健職員が運営しているという認識が参加者側にあるため、介護認定を検討しているという相談を受けることがある。これにより、教室時の様子や関わりなどから、参加者のパーソナリティの把握や関係性を構築した状態で相談窓口、あるいは居宅介護支援センターへ案内することが出来た。本来老健では不可能な早期介入の方法として介護予防機能と連動することが可能だと考えられる。
【考察】
当施設の取り組みから介護老人保健施設はリハビリテーションの提供のため多くの専門職を配置していることが特徴的であり、介護予防機能と連携することで、介護予防の専門的アプローチが弱いという点を補うことが出来ると考えられる。そして一方で業務範囲を超えてしまうため困難となる老健による地域への介入が可能になり、互いの強み・弱みを活かし、補い合う組み合わせだとわかる。取り組みから改めてわかった点として、介護施設が介護予防の領域に介入することは、地域住民が介護保険を利用する際の案内が円滑になるという点であり、早期介入が可能になるということがある。まだ実践に至ってはいないが、老健のリハビリ機能を最大限に活かすためには早期介入が必要であり、入所に至るまでの連動という点も今後の展開として考えていきたい。ただ、当施設の取り組みにおいては介護予防活動を市の事業として実施しているため、活動予算、信頼性等の安定要素が揃っているからこその実践であることは度外視できない。そのため、老健が介護予防活動に取り組むための安定的な仕組みの構築が課題となる。