講演情報
[15-O-R008-02]老健としての介護予防の取り組み
*小野 瑞季1、中島 ゆかり1、小野寺 大吾1 (1. 東京都 介護老人保健施設 武蔵野徳洲苑)
老健の人的資源を生かし、介護予防事業である短期集中予防サービスに取り組んだ結果を報告する。33名に対して、セラピストによる運動指導や生活への助言を非接触的に行い、運動テストと終了後の活動・参加について評価した。機能面や活動・参加は改善が認められたが、「役割がある」と感じている方は減少していた。精神面への支援に対する工夫の必要性を感じられたが、新たな地域貢献の可能性を感じられた。
【はじめに】
住み慣れた地域で「自分らしい暮らし」を人生の最後まで続けるために地域包括ケアシステムが構築されており、老健ではこのシステムの一端として介護の分野を担っている。しかし介護に携わる者として、日々予防に対する必要性が高まっている事を痛感している。そこで当苑では老健としての地域貢献の一環と予防への関わりとして、セラピストをはじめ多職種が在籍している強みを生かし、西東京市の介護予防事業である短期集中予防サービス(以下通所C)に参画した為、結果を報告する。
【目的】
通所Cの主旨は生活行為に支障のある高齢者が対象で、保健・医療・介護の専門職が短期集中的に関わり、社会参加や地域での役割を持った自分らしい生活の(再)獲得を実現する事となっている。
東京都でも数年前からモデル事業として各区市町村が取り組み始めており、当苑が籍を置く西東京市では「もう一度、元の暮らしを取り戻す」を目指し、市や包括、各事業所や生活支援コーディネーターといった多職種が本事業を通して介護予防に取り組んでいる。
今までは老健として介護予防事業に携わることや、本事業の要である非接触的アプローチ中心によるセルフマネジメント力向上を目的とした関わり方は経験が少なかった。その為、本事業に対して効果的に取り組めていたかどうか数値を検証した。
【対象】
対象は当苑を利用された2023年4月から2024年3月まで、地域包括支援センターの選出した事業対象者および要支援者の女性23名・男性10名の計33名(平均年齢80.8±5.6歳)とした。対象者は移動能力の低下が認められる方や、当施設から遠方に居住されている方が多く、送迎を利用しなかった方は1名のみだった。また、本事業の選出条件として進行性疾患や認知症を患っている方は対象外となっている。
【介入方法】
前述した「もう一度、元の暮らしを取り戻す」を目指し、健康に過ごすための運動・栄養指導、困りごとや興味のある活動への助言、といった内容の面談をセラピストや管理栄養士が実施した。利用者には通所C用の手帳を渡して、自身で日々の運動や活動の記録をしつつ参照することでセルフマネジメント力を高められるよう活用してもらった。また面談以外では体操や自主トレーニングなど自身で行え、かつ利用終了後も取り組める運動も行ってもらった。
上記内容の取り組みを週1回、1時間半を計12回(約3ヵ月間)行った。
【評価方法】
上記対象者33名を対象に、利用開始時と3ヵ月後の利用終了時に握力・30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)・5m歩行・Timed Up and Go test(以下TUG)の4項目を測定した。
本来の事業目的としては本人が望んだ活動や参加が行えているか、また持続できているかがポイントとなる。今回の報告では当施設として直接関われる3ヵ月の期間における変化に着目して評価を行った。また西東京市と地域包括支援センターの協力の元、24週後に介護給付サービスの利用有無と地域資源の使用者数、周囲環境での役割の有無を調べ、本サービス提供終了後の生活の変化について検証した。
【結果】
3ヵ月間の介入前後の平均を比較したところ、握力は大きな変化が認められず22.1±7.2kgから22.0±7.3kgとなり、有意な差が認められなかった。他の項目は有意な差が認められ、CS-30の回数は11.0±3.4回から13.0±3.1回、5m歩行は普通歩行速度が5.8±2.0秒から5.3±1.1秒で最大歩行速度が4.3±1.2秒から3.9±0.9秒、TUGが10.7±3.6秒から9.1±2.3秒と改善が認められた。
24週後の介護給付サービスの利用有無については、78.8%が介護サービスを利用せずに生活することができていた。またサークルやサロンなどの活動に参加している方は開始時には53.1%であったのに対し終了後24週時点では71.9%と増加していた。しかし、家庭や地域での役割が「ない、ほとんどない」と回答された方が開始時の36.4%から終了後24週の54.5%と、役割がないと感じる方が増えていることが分かった。
【考察】
多職種によるセルフマネジメント力向上を目的とした面談や運動指導といった介入方法だったが、事業対象者や要支援者など身体機能に不安を抱える方の約8割が、24週後も介護給付サービスを使用せずに身体機能を維持できていることから、今回の介入方法の有用性が判明した。
しかしながら本取組で活動・参加が増えたにも関わらず、家庭や地域での役割を感じることができない人の割合が増えていることが課題となった。
能力は向上している為、実際に行えていることや役割を改めて承認することによって自己肯定感を高め、利用者本人の気持ちを前向きにしていく手伝いをすることが重要であると考えた。
【おわりに】
老健の人的資源を生かし、西東京市の介護予防事業である通所Cに取り組んだ。利用者33名に対してセラピストによる運動指導や生活への助言を面談中心で実施し、運動テストと終了後の活動・参加について評価したところ、運動機能面や活動・参加は改善が認められた。老健として多職種連携のもと、介護予防事業で成果を出せたことは地域包括ケアシステムへの貢献度合いをより一層高められたため非常に有意義であったと考える。
その一方で修了後に家庭や地域で「役割がある」と感じている方は減少していたため、今回の結果の反省をもとに、より貢献できるよう取り組み続けていきたい。
住み慣れた地域で「自分らしい暮らし」を人生の最後まで続けるために地域包括ケアシステムが構築されており、老健ではこのシステムの一端として介護の分野を担っている。しかし介護に携わる者として、日々予防に対する必要性が高まっている事を痛感している。そこで当苑では老健としての地域貢献の一環と予防への関わりとして、セラピストをはじめ多職種が在籍している強みを生かし、西東京市の介護予防事業である短期集中予防サービス(以下通所C)に参画した為、結果を報告する。
【目的】
通所Cの主旨は生活行為に支障のある高齢者が対象で、保健・医療・介護の専門職が短期集中的に関わり、社会参加や地域での役割を持った自分らしい生活の(再)獲得を実現する事となっている。
東京都でも数年前からモデル事業として各区市町村が取り組み始めており、当苑が籍を置く西東京市では「もう一度、元の暮らしを取り戻す」を目指し、市や包括、各事業所や生活支援コーディネーターといった多職種が本事業を通して介護予防に取り組んでいる。
今までは老健として介護予防事業に携わることや、本事業の要である非接触的アプローチ中心によるセルフマネジメント力向上を目的とした関わり方は経験が少なかった。その為、本事業に対して効果的に取り組めていたかどうか数値を検証した。
【対象】
対象は当苑を利用された2023年4月から2024年3月まで、地域包括支援センターの選出した事業対象者および要支援者の女性23名・男性10名の計33名(平均年齢80.8±5.6歳)とした。対象者は移動能力の低下が認められる方や、当施設から遠方に居住されている方が多く、送迎を利用しなかった方は1名のみだった。また、本事業の選出条件として進行性疾患や認知症を患っている方は対象外となっている。
【介入方法】
前述した「もう一度、元の暮らしを取り戻す」を目指し、健康に過ごすための運動・栄養指導、困りごとや興味のある活動への助言、といった内容の面談をセラピストや管理栄養士が実施した。利用者には通所C用の手帳を渡して、自身で日々の運動や活動の記録をしつつ参照することでセルフマネジメント力を高められるよう活用してもらった。また面談以外では体操や自主トレーニングなど自身で行え、かつ利用終了後も取り組める運動も行ってもらった。
上記内容の取り組みを週1回、1時間半を計12回(約3ヵ月間)行った。
【評価方法】
上記対象者33名を対象に、利用開始時と3ヵ月後の利用終了時に握力・30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)・5m歩行・Timed Up and Go test(以下TUG)の4項目を測定した。
本来の事業目的としては本人が望んだ活動や参加が行えているか、また持続できているかがポイントとなる。今回の報告では当施設として直接関われる3ヵ月の期間における変化に着目して評価を行った。また西東京市と地域包括支援センターの協力の元、24週後に介護給付サービスの利用有無と地域資源の使用者数、周囲環境での役割の有無を調べ、本サービス提供終了後の生活の変化について検証した。
【結果】
3ヵ月間の介入前後の平均を比較したところ、握力は大きな変化が認められず22.1±7.2kgから22.0±7.3kgとなり、有意な差が認められなかった。他の項目は有意な差が認められ、CS-30の回数は11.0±3.4回から13.0±3.1回、5m歩行は普通歩行速度が5.8±2.0秒から5.3±1.1秒で最大歩行速度が4.3±1.2秒から3.9±0.9秒、TUGが10.7±3.6秒から9.1±2.3秒と改善が認められた。
24週後の介護給付サービスの利用有無については、78.8%が介護サービスを利用せずに生活することができていた。またサークルやサロンなどの活動に参加している方は開始時には53.1%であったのに対し終了後24週時点では71.9%と増加していた。しかし、家庭や地域での役割が「ない、ほとんどない」と回答された方が開始時の36.4%から終了後24週の54.5%と、役割がないと感じる方が増えていることが分かった。
【考察】
多職種によるセルフマネジメント力向上を目的とした面談や運動指導といった介入方法だったが、事業対象者や要支援者など身体機能に不安を抱える方の約8割が、24週後も介護給付サービスを使用せずに身体機能を維持できていることから、今回の介入方法の有用性が判明した。
しかしながら本取組で活動・参加が増えたにも関わらず、家庭や地域での役割を感じることができない人の割合が増えていることが課題となった。
能力は向上している為、実際に行えていることや役割を改めて承認することによって自己肯定感を高め、利用者本人の気持ちを前向きにしていく手伝いをすることが重要であると考えた。
【おわりに】
老健の人的資源を生かし、西東京市の介護予防事業である通所Cに取り組んだ。利用者33名に対してセラピストによる運動指導や生活への助言を面談中心で実施し、運動テストと終了後の活動・参加について評価したところ、運動機能面や活動・参加は改善が認められた。老健として多職種連携のもと、介護予防事業で成果を出せたことは地域包括ケアシステムへの貢献度合いをより一層高められたため非常に有意義であったと考える。
その一方で修了後に家庭や地域で「役割がある」と感じている方は減少していたため、今回の結果の反省をもとに、より貢献できるよう取り組み続けていきたい。