講演情報

[15-O-R008-04]本人の思いに寄り添った看取りケアを目指して~多職種、地域連携の必要性~

*宮崎 裕太1、海野 友美1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設高齢者ケアセンターのぞみ)
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老健では、リハビリを行いながら在宅復帰を目指しいているが、食事・水分摂取が進まなくなり、治療の継続も希望されず、終末期を迎えるケースも少なくない。家族は慣れたところで最期を迎えさせてあげたい。本人は家に帰りたいと願うが、現状在宅での最期は中々叶えられない現状がある。多職種と地域連携しながら、本人・家族の思いを調整し悔いのない最期が迎えられるような援助体制を整えていく必要性が見えてきた。
[はじめに]
近年は、病院での看取りから、施設・自宅での看取りが増えている。その中で、2023年の研究において、老健施設では、高齢者のエンド・オブ・ライフにふさわしいケアが提供される場所であることが示された。当施設でも、急性期治療を終えリハビリの段階となり、在宅生活を目標に入所される。リハビリの進行にて在宅生活に戻られる方がいる一方、体調を崩され、施設での最期を希望される方が増えている現状がある。
調査期間中、施設全体で82名の看取りに対し、当フロアでは41名(50%)の利用者様を看取った。 最期は自宅に帰ることを希望したが家族の受け入れ態勢が整わず、最期まで施設で過ごされた方もいた。今回在宅へ戻り最期を迎えることの出来た例があり、更に今後の包括的体制の構築を目指していく必要性が見えてきたのでここに報告する。
【方法】
過去の看取りケアの実績を調査し、事例を検討した。
調査期間 2019年4月1日~2023年3月31
調査内容
1) 期間に亡くなられた利用者 
2) 同意書を頂いた利用者家族 
3) 同意書を頂くことが出来なかった利用者の家族
4) 在宅生活を望まれていた利用者
5) 在宅生活を望まれた家族
6) その他 (急変)
事例1 75才より腎臓病・ネフローゼ症候群の治療を開始し、症状悪化・改善を繰り返し、入退院を繰り返していた。「私が望む医療・ケア」を確認した。 
・体が辛いからもう治療はしたくない 
・好きなものを食べさせて (パンが食べたい、塩おにぎりが食べたい) 
・家に帰りたい 等訴えられていた。
最期「家に帰りたいと」話息を引き取った。
家族:本人の思いを叶えるために連れて帰ってあげたいが、自分ひとりであり介護に対する不安がある。「どうしたら良いか、分からない」状態が悪くなったら本人の意思に反してまでも救急車を呼んでしまうと思う。等声が聞かれた。自分も体調がすぐれないし、仕事もしている、仕事を辞めて介護する事も考えたが、自分の生活もあるので、どうしたら良いかわからない。
事例2 腰椎圧迫骨折・高血圧、ショートステイ・入所生活を繰り返されていた。
今回家族の体調不良に伴い入所となった。元々食事にムラも見られていた。ひ孫の誕生日まで頑張ろうと励ましながら、体力温存に努めた。次第に食事摂取が困難となり、突然熱を出した。本人の家に帰りたいとの希望は最後までもっていた。
状態的に厳しくなり、娘さんへ老衰状態であることを話し、連れて帰るとの意思を確認。相談員を通して、ケアマネへ相談。医療・介護体制を確認、環境が整うまで、施設での看取りとしてのケアに入った。数日後調整が付き在宅に戻られる。在宅に戻り2日後眠るように息を引き取った。娘さんも悔いのない最期を迎えさせてあげられたことの満足感で表情も穏やかだったとの報告をケアマネより受ける。
【結果・考察】
看取り体制を整え始めたころは、状態変化のあった利用者家族に対して、病状の説明のみであり、何を希望されるのか、その都度説明し対応していた。面会も積極的ではなく、状態変化時連絡をすることで、面会されている状態であった。2021年診療報酬改定により、看取り算定加算が追加になったため、施設でも、看取りの説明、同意書を作成しケアに当たっている。入所された利用者様に対し「私が望む医療・ケア」という簡単な書面に記載していただいている中で3.6%の利用者様に聞き取りが出来ている状況である。その中に常に介護が必要になった時介護を受ける場所として「施設」を選んでいる利用者は3.3%、最期を過ごす場所として、「自宅」を選んだ利用者が4.4%である。また、最期まで施設で過ごしたいと答えられた利用者は、5%。
生活の場は施設でも最後は自宅で過ごしたいと希望される利用者様がいる。自宅を希望しても、家族に迷惑をかけてしまうのが申し訳ないと、施設で最期まで過ごしたいと希望される方も少なくない。看取りのICと同意書を50.6%交わしている中で家族の意見とし、出来る事なら最後は家で看取りたいと希望される家族もいる。事例1に対しては家族、本人の帰りたい気持ちに対して、家族の不安が強く、個室での家族との時間、在宅にいるような雰囲気を作り対応した。しかし最期の時「家に帰りたい」と話し、息を引き取ったことを考えると、在宅に帰りたいとの気持ちは最期まで持っていたことが分かった。事例2に対しては元々在宅で訪問診療・看護・介護が介入しており在宅に帰る調整は付けやすい状態にあった。ケアマネを通し調整、タイミングを見て帰宅が可能となった例と言える。
【結論】
本人を取り巻く看護・介護サービスの提供環境が整えられず、自宅での看取りを断念されてしまっている。意識のある段階で本人の意思確認をする。我々相談員が、フロアのスタッフとの連携を図りながら、家族の意思確認を行う。早い段階から地域を含めた多職種とのカンファレンスの設定、利用者様個々の状態と予後・予測を共有しきめ細やかな対応を行うために検討を重ねる。そしていざという時に備えることで、「家族の希望や意思を確認する事での合意形成」、「本人の不安を取り除くための精神的ケア」、「家族への精神的ケア」を行い、本人の思いを尊重し、家族の負担も少なく最期を迎えることが出来るのではないかと考える。今後は、施設で取り組んでいる「私の望む医療・ケア」確認し、出来るだけ希望に添えられるよう早い段階から、確認・調整を密に行うことで、地域包括との連携が必要である。