講演情報
[15-O-R008-05]老健利用者の成年後見制度の活用について夫婦2人での生活を続けたい
*会原 裕子1、永山 亜実1、島田 洋大1、安齋 優花里1 (1. 福島県 介護老人保健施設小名浜ときわ苑)
少子高齢化が進み、家族形態が変化していく中で、当苑の利用相談の傾向として、単独・老夫婦世帯、家族関係が希薄であるケースが増加してきている。このようなケースは、今後の様々な契約・手続き、財産の管理等、老健の脇を超えた支援が必要となることが懸念される。今回、成年後見制度を活用したケースの援助について報告する。
【はじめに】現在、日本では少子高齢化が進み、特に地方ではそれが顕著にみられ、いわき市も同様の現状に置かれている。家族形態が多様化していく中、当苑の利用相談の傾向として、単独・老夫婦世帯、家族関係が希薄であるケースが増加してきている。このようなケースは、今後の契約・手続き、財産の管理など、老健の枠を超えた支援が必要となることが懸念される。今回、夫婦で成年後見制度を活用したケースの援助について報告する。【ケース概略】氏名:夫 A様(87歳)、妻 K様(87歳)※後見人選任時 現病名:夫 前立腺肥大症、糖尿病、高血圧症 要介護3 妻 糖尿病、高血圧症、うっ血性心不全 要介護1家族関係:挙子なし 夫 兄弟なし、親族との関わりなし 妻 妹がいるが10年以上音信なし収入:夫婦それぞれ10~11万円/月 年金収入あり利用期間:夫 令和5年8月9日~令和6年5月7日 妻 令和5年8月12日~令和6年5月7日入所時は、身元引受人を夫婦それぞれとした。【援助経過】夫:入所時のHDS‐R 13点であるが、短期記憶の保持は可能。妻の認知機能低下や、自身の入院、入所中の妻の生活を心配し、涙する姿が観られていた。妻:入所時のHDS‐R 16点であるが、短期記憶の保持が困難であり、夫が入院中に面会の予約をするも来院がなく、面会自体を忘れてしまっている状態であった。夫婦の今後の希望は「夫婦2人での生活を続けていきたい」ということであった。リハビリも順調に進み、夫の身体機能の向上も見られていたが、思うように動けていないとの思いが強く、精神的に不安定となっていった。妻は、ADLは概ね自立しているが、時折一過性の意識消失が観られた。これは在宅中から観られていた症状であったことが分かった。自宅は東日本大震災の影響で床がかなり傾いた状態であった。自宅までは近隣住民の敷地を通らなければならず、関係不良の影響から土手を通らなければ外出できない状態であった。これらのことから、在宅復帰は困難な状況であると予想された。また、入所の際、自宅に数百円のタンス貯金があり、銀行の預貯金を合わせると、数千万円の財産があることも分かった。今後、財産や空き家の管理も必要となることから、地域包括支援センター、権利擁護・成年後見センターと相談。夫婦への説明を行い、同意を得、他施設入所を視野に入れながら、成年後見制度の申立をすることとなった。【本市の状況】いわき市の令和5年度の高齢者数は98,616人であり、高齢化率は32.1%である。高齢者世帯は年々増加し、令和5年10月現在で48,536世帯。うち単独世帯は3,724世帯であり、高齢者世帯の60%以上を占めている。要介護認定者数は緩やかに増加。後期高齢者の認定率は85%以上で推移しており、令和5年度の要介護認定者数は14,158人となっている。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、5人に1人が認知症になると見込まれている。このような中、公的な手続きの困難さや認知機能の低下などから法的な支援が必要となるケースの増加が予想される。いわき市では、令和3~5年の3年間、成年後見市長申立の件数の目標を40名としたが、平均で28名にとどまっており、成年後見制度の理解は十分でないことがわかる。【取り組み】当苑では紛失やトラブルを防止するため、所持金は3,000円までと制限を設けている。夫は、自由に金銭を使うことができないことに不満を訴え、その思いは徐々に強くなっていった。また、この年に発生した台風の影響で自宅に被害が出ていないか、今後の自宅の管理などについて不安を漏らすようになった。このような状況を改善するためにも、成年後見制度の活用を検討していくこととなった。申立をするにあたり、夫婦それぞれの同意が必要であり、地域包括支援センター、権利擁護・成年後見センターの職員に同席を依頼し、説明を行った。夫は入所前の入院先である系列病院に診断書を依頼。妻は当苑医師が診断書を作成することとし、申立を権利擁護・成年後見センターから紹介を受けた司法書士に依頼した。担当ケアマネは、日常・社会生活の状況や認知機能について記載する本人情報シートの作成を行った。申立と同時に受け入れ可能な施設を探し始める。夫婦同時に他施設へ転居することは困難と思われたが、グループ内のサービス付き高齢者向け住宅で夫婦部屋に空きが出たとの情報があり、夫婦に入居の意向を確認。居宅ケアマネとして当施設入所前の担当ケアマネに相談。快く転居後の担当を引き受けていただいた。夫婦それぞれを身元保証人として入居申し込みを行い、令和6年5月7日に転居の運びとなった。また、同日に申立を行った司法書士を夫婦の後見人とする審判が下り、身上監護の契約を結ぶこととなった。【結果】サービス付き高齢者向け住宅での生活は、後見人の金銭管理を受けながら、定期的に来る訪問販売などを利用し、買い物を楽しむことができている。また、一貫して希望されていた「夫婦2人での生活」も継続できている。最近は、訪問のサービスを受けながら、リハビリに励んでいるとのことであった。【おわりに】今後、高齢者の単独世帯や認知症高齢者の増加が見込まれ、公的な援助は不可欠となっていく。今回は、行政やグループ内施設など関係機関との連携が円滑に行えたことで、制度の活用や転居をスムーズに行うことができた。しかし、制度の理解の困難さや自身の置かれている状況が認識できないことなどから、制度の活用に至らないケースもあると思われる。このような状況にある方々が、犯罪に巻き込まれることなく、自身の権利を行使できるよう、国の成年後見制度の理解の促しや、制度に関する周知や研修などの取り組みが充実したものになることが望まれる。また、支援する側も制度の理解の促進が必要である。