講演情報

[15-O-R009-01]リハビリ専門職同士による医療介護連携の必要性独立型老健と協力医療機関の顔の見える関係づくり

*増田 和弘1 (1. 岐阜県 さわやかリバーサイドビラ)
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医療と介護のシームレスなリハビリを実施することを目的として、独立型老健と協力医療機関のリハビリ専門職同士が相互に施設を訪問してリハビリ状況の把握や意見交換を行ったので報告する。その結果、老健リハビリ専門職は医療機関でのリハビリを踏まえた視点での支援が行えるようになり、協力医療機関のリハビリ専門職は老健の役割や老健のリハビリについての理解を深めることができ、顔の見える関係がつくられ始めた。
【はじめに】
地域包括ケアシステム推進のため医療介護連携の強化が進められており、令和6年度介護報酬改定では老健と協力医療機関との連携体制の強化、顔の見える関係づくりが求められた。リハビリテーション(以下、リハビリ)においても通所・訪問リハビリでは医療機関からのリハビリ計画書の入手が義務付けられた。これは医療と介護のリハビリ連携を一層強化しなくてはならないことを示しており、医療と介護のシームレスなリハビリが求められている。しかし、先行研究では医療保険のリハビリから介護保険のリハビリへ移行する際、連携が十分にとれていないことが明らかになっている。当施設は独立型老健であり、当施設の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ専門職(以下、リハ職)と医療機関のリハ職との連携はリハビリサマリーによる連携のみで、当施設においても連携が十分とは言えない状態であった。このことから、医療と介護のシームレスなリハビリを実施することを目的とし、当施設と協力医療機関のリハ職同士の顔の見える関係づくりに取り組んだ。
【方法】
まず始めに当施設のリハ職が協力医療機関を訪問し、リハビリ室の環境見学や使用している補装具、協力医療機関でのリハビリの課題等の意見交換を行った。その後、協力医療機関のリハ職が当施設へ来訪し、老健の役割や当施設の特徴について説明を行い、実際の施設環境と入所者の生活を見学してもらった。当施設からは全リハ職6名が協力医療機関を訪問し、協力医療機関リハ職は代表者4名が来訪した。来訪した4名に対しては見学後に老健の役割、当施設の生活環境、当施設の入所者の暮らし、当施設のリハビリの計4項目の理解度についてアンケートに協力してもらった。
【結果】
協力医療機関への訪問では在宅生活を想定して介護保険での貸与を考慮した歩行補助具を選択していることや、リハビリ室の環境上屋外歩行訓練が困難となっている課題が分かった。このことから、当施設でも協力医療機関で使用しているものと同一の歩行補助具を使用し、在宅復帰後も同じ歩行補助具を使用できるよう居宅のケアマネジャーと連携することにより入所者の戸惑いもなく、在宅復帰へ向けて一貫したリハビリが行えるようになった。また、屋外歩行についても入院中に環境的理由で実施できていないということが分かったことで、特に在宅復帰を目指す入所者では積極的に取り組むようになった。さらに入所時に提供されるリハビリサマリーの疑問点については必要に応じて協力医療機関へ電話で問い合わせることができるようになった。協力医療機関から当施設への来訪では実際に当施設の環境や入所者の生活を見ることで、老健の役割、当施設の生活環境、当施設入所者の暮らし、当施設のリハビリの4項目全てで理解を深めることができた。また、協力医療機関側から今後もリハ職同士が顔を合わせて情報共有する場を作りたいとの意見が挙がり、さらなる連携強化のため、入所の際に必要時は入院中のリハビリ計画書が提供されることとなった。
【考察】
シームレスなリハビリには連携が重要であり、その連携の姿として現実の人間関係を前提としたコミュニケーションを行うことで相互理解を深めることができると言われている。当施設ではこれまで入所の際に医療機関からリハビリサマリーを受け取ることで医療機関でのリハビリを把握しリハビリを実施してきた。しかし、医療機関からのサマリーには老健で必要とされる生活の視点での情報が不足していることや、医療機関でしか分からない医学的なリスクの情報が不足していることもあった。これは受け手である老健というところが医療機関のリハ職に十分に理解されていないためであると考えられる。この背景には理学療法士及び作業療法士については令和2年度より養成課程において通所リハビリまたは訪問リハビリに関する実習を行うことが義務付けられたが、これまでは介護保険領域の実習を経ず医療機関へ就職することも多かったことが挙げられる。現在でも医療機関で働くリハ職の中には介護保険の知識はあっても実際の介護保険領域のリハビリが十分に理解できておらず、老健がどういうところで、そこで暮らす入所者の生活もイメージすることができないリハ職も少なくないということがある。さらに当施設には医療機関での勤務経験のないリハ職もおり、一層相互理解が不十分な状態であった。今まで協力医療機関であってもお互いのリハ職は全く面識がなかったが、今回、当施設から協力医療機関へ声掛けを行ったことで顔の見える関係がつくられ始めた。このことがこれまでのリハビリサマリーのような書面を送るだけの一方向の繋がりから、電話で問い合わせるといった双方向のコミュニケーションがとれるようになってきた要因であると考えられる。医療介護連携においては書面での一方向の繋がりではなく、双方向のコミュニケーションが連携を強化する上で重要なことであると考える。また、協力医療機関から入所の際にリハビリ計画書が提供されるようになったことでよりリハビリの詳細が分かるようなったが、医療機関と老健のADL評価法が異なることから入所者のADL能力の変化が捉えにくいといった課題も明らかとなった。
【結論】
リハ職同士の医療介護連携は顔の見える関係をつくることで、一方向の情報提供から双方向のコミュニケーションが生まれる。このことによって医療と介護の垣根を越えた専門的なアドバイスや教育といったことが可能となり、医療と介護の相互にリハビリの質が向上することが期待される。これらのことからも、今後も医療と介護のリハ職同士の顔の見える関係を前提とした連携を強化することでシームレスなリハビリを実施していく必要がある。