講演情報

[15-O-R009-04]新規利用者獲得にむけた相談室の取組み 第1報~ 営業と広報担当専任者の配置 ~

*川田 麻津子1、大塚 彰太1、美原 恵里1 (1. 群馬県 介護老人保健施設アルボース)
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介護老人保健施設の安定運営のためには新規利用者獲得は重要な課題である。そこで、施設の認知度向上と経営基盤の拡大を目的として相談室に営業および広報の専任者を配置した。専任者の業務は、地域の居宅や病院との連携(訪問、定期的な情報提供)、ソーシャルネットワークを活用した広報活動の強化とした。その結果、介護関係者と「顔の見える関係」が構築され、一般住民にとっては「施設の垣根を低くする」ことに繋がった。
[はじめに]介護老人保健施設(老健)には質の高い介護が求められる一方、安定した施設運営を継続していくためには適切な収益の確保が求められ1)、新規利用者獲得への対応が重要である。昨今、介護業界に企業の参入が増加してきており、地域の入所定員が増えたことにより顧客確保の競争が激化していることは2)、施設運営に大きな影響を与えている。このような状況下、施設の認知度向上と顧客基盤の拡大が求められ、この課題解決のために相談室が果たすべき役割は大きい。しかし、支援相談員はインテーク・家族との入退所調整・居宅介護支援事業所(居宅)や病院連携室との情報共有・利用者の在宅生活支援・担当者会議など、煩雑で多岐にわたる業務により多忙を極めている。そこで、相談室に新規利用者獲得を目的として営業および広報の専任者を配置した。今回、営業および広報の専任者としての業務の実際と今後の展望につき報告する。
[相談室の人員]これまで相談室には、室長1名、施設ケアマネジャー2名、事務2名、そして支援相談員を通所リハビリテーション、一般療養棟、認知症専門棟、ユニット棟の担当者としてそれぞれ1名が配置されていた。令和6年度から認知症専門棟、ユニット棟の担当を兼任者とし、支援相談員1名を営業と広報の専任者として配置転換した。
[専任者の業務の実際]当施設の認知度向上と顧客基盤拡大にむけた取組みを紹介する。
・問い合わせ専用スマートフォン購入、専用ダイヤル設置
・専任者専用デザイン名刺作成
・地域の居宅、病院連携室へ空床情報ファックス送信(1/週)
・地域の居宅、病院連携室への訪問(1/週)
・ソーシャルネットワークの活用(Facebook、公式LINE、Instagramなど)
[専任者の業務に関する考察]当施設は平成30年度介護報酬改定以降、継続して超強化型老健の基準を満たしている病院併設型の老健である。これまで当施設は、積極的に新規利用者獲得をする意識には欠けていたように思われる。新規利用者の増加は顧客基盤の拡大と相関すると思われるが、これまでの業務を踏襲しているに過ぎず積極的に顧客基盤の拡大を目指した活動を展開することはなかった。また、COVID-19流行期に減少した新規入所相談が回復傾向である一方、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの長期入所施設を希望する家族が増加していること、また、介護報酬改定による利用者の負担増加がさらなる利用抑制を発生させていることなどから、当施設においても通常90%台後半の稼働率であったのが90%近くまで落ち込むようになった。このような状況に対応し、新規利用者獲得のため施設の認知度向上と顧客基盤の拡大を目的に、相談室に営業と広報の専任者を配置した。専任者にとって喫緊の課題は、施設をとりまく環境を把握、今後の利用者の動向を分析、対応策を検討、そしてその対策を実践することであった。
専任者として配置された支援相談員の強みは介護現場に勤務していた時に得た知識と経験であり、家族と利用者のどちらにも寄り添った視点を持っていることである。だからこそ、居宅、病院連携室から新規利用相談があった場合、より具体的に利用者や家族の希望に沿った提案に繋がる。専用スマートフォンの設置、空床状況の定期的情報提供、そして実際に地域の居宅、病院連携室に訪問したことにより、当施設の認知度向上と顧客基盤拡大に繋がっているという手応えがあった。実際に訪問した居宅、病院連携室のスタッフからは「レスポンスが早くなった」「支援相談員とは親しくなりたい」「提案内容が豊富で助かる」「電話だけでなく直接話して解決したい」などの意見をいただいている。 
DXが推進されている現在、介護の世界も例外ではない。利用者をサポートする家族や介護者はすでにITリテラシーを身に着けていると想定される。そのためITに疎いと思われる高齢者が利用者である老健においてもインターネットを活用した広報活動は極めて重要になると思われる。実際、当施設のFacebookをチェックして、直接相談室に連絡してくる住民も少なくない。連絡をしてきた要因として「施設を選んで迷っているとき当施設のFacebookが目にとまった」「施設の様子が分かるのは安心できる」という意見をいただいた。すなわち、このようなソーシャルネットワークの活用は、介護業界に携わる人たちだけでなく、広く一般住民に対する施設の認知度向上に結び付くと思われる。これまでのFacebookのコンテンツは、施設からの面会時間などのお知らせ、日々の施設の様子がメインであったが、今後、利用者とその家族の声を紹介するなど、この施設を利用してみたいという気持ちを喚起させるような内容を掲載したいと考えている。また、一般住民にも対面での活動が重要と考えており、住民参加型の講演会、ボランティア養成のための介護教室の開催などを検討している。現場のケアを熟知した専任者が、一方的ではない対面を重視した営業活動により信頼関係を構築し、当施設が質の高いケアを行っていることを外部に認識づける活動を目指している。
[まとめ]当施設では令和6年度より新規利用者獲得業務と広報業務を兼務する専任者を配置した。専任者の業務は、介護関係者に対しては頻繁な訪問とファックスによる情報提供を行い「顔の見える関係」の構築に重点を置き、また、一般住民に対してソーシャルネットワークを活用し施設の様子について情報発信することで「施設の垣根を低くする」ことに注力し、施設の認知度向上と顧客基盤の拡大を目指した。

参考文献
1)独立行政法人福祉医療機構:2022年度介護老人保健施設の経営状況について 2024
2)令和6年版高齢社会白書:第2節高齢期の暮らしの動向 2健康・福祉 P8 内閣府