講演情報
[15-O-R009-06]在宅復帰支援パスの導入と今後の展望について
*福谷 真妃子1、内藤 智子1、竹内 志織1 (1. 福井県 介護老人保健施設ひかりケアホーム)
速やかな退所支援を行うため、在宅サービスに拒否のある症例に在宅復帰支援パスを用いて退所支援を行った。多職種とパスを用いてカンファレンスを開催した結果、各職員が取り組みの効果や課題の達成度などを意識することができ、入所から3ヶ月で退所することができた。今後の展望として、パスにより多職種で在宅復帰を支援する意識づけができた。各職員が主体的に在宅復帰支援に携わることが非常に重要である。
【はじめに】
当施設は令和2年12月から超強化型として運営をしており、在宅復帰・在宅療養支援機能指標において88点(令和6年6月時点)を達成している。うち、在宅復帰率は72.0%である。これまでの在宅復帰支援は支援相談員とリハビリスタッフが中心となって行ってきたが、昨年、全職種が主体的に在宅復帰支援に携わることができるツールとして在宅復帰支援パスを作成した。今回、在宅サービスの利用に拒否のある症例に対し在宅復帰支援パスを用いて退所支援を行なった結果、速やかな調整ができたので紹介する。また、パス導入により見えてきた今後の展望も合わせて報告する。
【症例紹介】
基本情報:70歳代、要介護2、独居
経緯:X年Y月自宅で転倒。右肩打撲により右上肢挙上困難となり、経過観察のためA病院入院。リハビリテーション継続目的にY+3ヶ月後当施設入所。
初期評価:HDS-R 22点、FIM102点(運動:73点、認知:29点)、TUG14.9秒、ROM右肩屈曲0°、 MMT下肢3-4レベル。施設内移動はT字杖歩行見守りにて可。食事は箸を使用し自立レベル。入浴は右肩の可動域制限により洗体・洗髪に一部介助を要す。
家屋情報:玄関に段差があり手すりはない。2階で洗濯もの干しを行っていた。床に物が多く、カーペットがつぎはぎになっており、引っかかりそうな部分が多い。
本人希望「早く帰りたい。以前のようにすれば帰れる。」
家族希望「また転ぶのではないか。食事の栄養面が心配。サービスを利用しちゃんと食事をとってほしい。」
【介入と経過】
自宅での転倒歴・生活環境・バランス検査から現状では転倒リスクが高いと思われ、在宅復帰を想定した場合、身体機能の向上と生活環境調整が必要と考えた。また、独居であることと家族希望を踏まえ、入浴と食事の準備に在宅サービスを利用する必要があると思われた。多職種と協働し、在宅復帰連携パスを用いて以下のように取り組んだ。
入所時スタッフカンファレンス(入所2週間):本人・家族の希望や家屋状況などを多職種で共有。リハビリは筋力増強運動や歩行練習を中心に実施していき、介護士は洗濯もの干しやレンジの使用を日常生活に取り入れた。看護師は内服カレンダーの使用練習を行っていくこととなった。各職種が同時に在宅生活を想定した取り組みを開始。
入所時家族カンファレンス(入所1ヶ月):入所後の取り組みや現状を報告。排泄の失敗への不安を家族より聴取したため、パット管理についての支援を追加。
ここで、入所時のスタッフカンファレンスと家族カンファレンスを通して、独居生活に戻るために解決すべき課題を、(1)転倒リスクの軽減、(2)日常生活動作能力の向上、(3)在宅サービスの導入、(4)生活環境調整と考え、その課題をスタッフ間で共有した。
退所前スタッフカンファレンス(退所1ヶ月前):(1)・(2)の課題が解決されたことを多職種間で確認。(3)は一部拒否が残っていた。
退所前家族カンファレンス・訪問(退所2週間前):(3)について、それまでは主にリハビリスタッフが関わっていたが、改めて多職種で説得を行い、サービス利用に理解を得るこことができた。(4)については家具の配置替えに拒否があったため、本人の思いをなるべく尊重し、外玄関・ベッド横にのみ手すりを導入することとなった。また、退所後安全な在宅生活を送れるよう『在宅生活チェックリスト』と『おすすめの環境調整』を作成した。
心身機能面の最終評価はHDS-R25点、FIM111点(運動:82点、認知:29点)、TUG11.3秒、ROM右肩屈曲0°、MMT下肢4-5レベルであった。バランス検査などから、入所時よりも転倒リスクが軽減したと考えられた。最終的に入所から約3ヶ月で退所を迎えることができた。
【考察】
入所当初は、在宅サービス利用と生活環境調整に拒否があることや独居であることなどから在宅復帰に難渋すると想定されたが、解決すべき課題を明確にし、早期から多職種が専門性を活かした介入を行った結果、予定した退所時期に退所することができた。在宅復帰支援パスを用いて定期的にカンファレンスを開催することができたことで、各職員が取り組みの効果や課題の達成度などを意識することができ、速やかな退所調整に繋がったと考える。今後の展望として、あくまでもパスはよりよい在宅復帰を支援するためのツールであり、パスを使用すること自体が目的ではない。これまでは支援相談員やリハビリスタッフからの情報・意見発信が多かった。しかし、パス導入後は他職種から家屋調査の同行の提案や、在宅復帰のための支援内容の相談を持ちかけられる場面が増えた。パスを導入することで、これまでは中心となって動いていなかったスタッフにも在宅復帰を支援するという意識づけができていると感じる。在宅復帰を担う施設として、速やかな退所を支援するだけでなく、各職員が専門性を活かして主体的に在宅復帰支援に携わることが非常に重要である。今後もそのためにパスの使用などを通して、施設全体で在宅復帰を支援していきたい。
当施設は令和2年12月から超強化型として運営をしており、在宅復帰・在宅療養支援機能指標において88点(令和6年6月時点)を達成している。うち、在宅復帰率は72.0%である。これまでの在宅復帰支援は支援相談員とリハビリスタッフが中心となって行ってきたが、昨年、全職種が主体的に在宅復帰支援に携わることができるツールとして在宅復帰支援パスを作成した。今回、在宅サービスの利用に拒否のある症例に対し在宅復帰支援パスを用いて退所支援を行なった結果、速やかな調整ができたので紹介する。また、パス導入により見えてきた今後の展望も合わせて報告する。
【症例紹介】
基本情報:70歳代、要介護2、独居
経緯:X年Y月自宅で転倒。右肩打撲により右上肢挙上困難となり、経過観察のためA病院入院。リハビリテーション継続目的にY+3ヶ月後当施設入所。
初期評価:HDS-R 22点、FIM102点(運動:73点、認知:29点)、TUG14.9秒、ROM右肩屈曲0°、 MMT下肢3-4レベル。施設内移動はT字杖歩行見守りにて可。食事は箸を使用し自立レベル。入浴は右肩の可動域制限により洗体・洗髪に一部介助を要す。
家屋情報:玄関に段差があり手すりはない。2階で洗濯もの干しを行っていた。床に物が多く、カーペットがつぎはぎになっており、引っかかりそうな部分が多い。
本人希望「早く帰りたい。以前のようにすれば帰れる。」
家族希望「また転ぶのではないか。食事の栄養面が心配。サービスを利用しちゃんと食事をとってほしい。」
【介入と経過】
自宅での転倒歴・生活環境・バランス検査から現状では転倒リスクが高いと思われ、在宅復帰を想定した場合、身体機能の向上と生活環境調整が必要と考えた。また、独居であることと家族希望を踏まえ、入浴と食事の準備に在宅サービスを利用する必要があると思われた。多職種と協働し、在宅復帰連携パスを用いて以下のように取り組んだ。
入所時スタッフカンファレンス(入所2週間):本人・家族の希望や家屋状況などを多職種で共有。リハビリは筋力増強運動や歩行練習を中心に実施していき、介護士は洗濯もの干しやレンジの使用を日常生活に取り入れた。看護師は内服カレンダーの使用練習を行っていくこととなった。各職種が同時に在宅生活を想定した取り組みを開始。
入所時家族カンファレンス(入所1ヶ月):入所後の取り組みや現状を報告。排泄の失敗への不安を家族より聴取したため、パット管理についての支援を追加。
ここで、入所時のスタッフカンファレンスと家族カンファレンスを通して、独居生活に戻るために解決すべき課題を、(1)転倒リスクの軽減、(2)日常生活動作能力の向上、(3)在宅サービスの導入、(4)生活環境調整と考え、その課題をスタッフ間で共有した。
退所前スタッフカンファレンス(退所1ヶ月前):(1)・(2)の課題が解決されたことを多職種間で確認。(3)は一部拒否が残っていた。
退所前家族カンファレンス・訪問(退所2週間前):(3)について、それまでは主にリハビリスタッフが関わっていたが、改めて多職種で説得を行い、サービス利用に理解を得るこことができた。(4)については家具の配置替えに拒否があったため、本人の思いをなるべく尊重し、外玄関・ベッド横にのみ手すりを導入することとなった。また、退所後安全な在宅生活を送れるよう『在宅生活チェックリスト』と『おすすめの環境調整』を作成した。
心身機能面の最終評価はHDS-R25点、FIM111点(運動:82点、認知:29点)、TUG11.3秒、ROM右肩屈曲0°、MMT下肢4-5レベルであった。バランス検査などから、入所時よりも転倒リスクが軽減したと考えられた。最終的に入所から約3ヶ月で退所を迎えることができた。
【考察】
入所当初は、在宅サービス利用と生活環境調整に拒否があることや独居であることなどから在宅復帰に難渋すると想定されたが、解決すべき課題を明確にし、早期から多職種が専門性を活かした介入を行った結果、予定した退所時期に退所することができた。在宅復帰支援パスを用いて定期的にカンファレンスを開催することができたことで、各職員が取り組みの効果や課題の達成度などを意識することができ、速やかな退所調整に繋がったと考える。今後の展望として、あくまでもパスはよりよい在宅復帰を支援するためのツールであり、パスを使用すること自体が目的ではない。これまでは支援相談員やリハビリスタッフからの情報・意見発信が多かった。しかし、パス導入後は他職種から家屋調査の同行の提案や、在宅復帰のための支援内容の相談を持ちかけられる場面が増えた。パスを導入することで、これまでは中心となって動いていなかったスタッフにも在宅復帰を支援するという意識づけができていると感じる。在宅復帰を担う施設として、速やかな退所を支援するだけでなく、各職員が専門性を活かして主体的に在宅復帰支援に携わることが非常に重要である。今後もそのためにパスの使用などを通して、施設全体で在宅復帰を支援していきたい。