講演情報

[15-O-P105-02]入所前訪問の多職種参画推進の試みを通して

*大谷 喜洋1、井田 直樹1 (1. 滋賀県 介護老人保健施設 ヴォーリズ老健センター)
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新規入所者の入所前訪問を実施する事で事前に情報を把握し入所当日の受け入れ業務短縮によるケア時間の確保が示唆されたので報告する。実施内容は相談員のみが事前情報を収集するのではなく療法士、介護士共に入所前訪問を実施した。結果、入所後に職員も早期にADL等を共有でき利用者の対応が円滑に行えた。一方、入所前訪問を可能にする為には訪問日を業務として組み入れること等業務内容の見直しを行う必要があると考えられた。
1.目的
 介護老人保健施設は病院(医療)から在宅(介護)に帰る為の中間施設という機能を持つ。介護報酬の中に、在宅療養支援強化を目的として「入所前後訪問指導加算」も設立され、当施設も取得し退所後支援に繋げている。以前は相談員の訪問しか出来ていない現状であったが、現場スタッフも含めた新規入所者の入所前訪問を実施することで、事前に情報を把握でき入所当日の受け入れ業務時間の短縮によるケア時間の確保につながる。それにより施設と在宅の双方で切れ目のない在宅療養をイメージした個別的サービス提供が入所時よりスムーズに実践可能となると考え、入所前訪問に取り組んだ。

2.方法
1) 訪問実施時間の業務調整(リハビリ、CW)
2) 介護サービス計画書の入所前作成(CW)
3) 入所当日の受け入れ業務の時間短縮が実現できたか実施者にヒアリング実施(リハビリ、CW)
対象者:新規入所者
訪問日:入所日までに実施(相談員の契約日に同行訪問実施)
訪問者:リハビリ療法士、ケアワーカー(管理者、スタッフ)、相談員
訪問実施期間:R4年4月1日~12月1日

3.結果
 ●訪問実績 令和4年4月~12月の新規入所者数40名中、入所前訪問を行えたのは7名実施できた(訪問率17.5%)。
 1)リハビリ
 ・担当スタッフが訪問に行く時間を確保するために前日、翌日での人数調整、他スタッフとの人数調整を行ったが調整がつかない時があった。
・訪問日が入所直近に決まりスケジュールの調整が困難で参加できない時があった。
・訪問に参加したスタッフの聞き取りから、入所利用者の身体能力、ADL能力が分かっている分、当日の評価の短縮になった。在宅での環境が詳細にわかり老健での環境整備が行いやすかった。在宅に復帰された際の具体的な住宅環境がイメージできやすかった等の意見が聞かれた。
・訪問後記録書類作成の時間を要した。
ケアワーカー
・職員が現場から一人抜けることで現場の通常業務の負担が増えた。
・「介護サービス計画書」を入所前訪問後に作成することで、入所後現場の職員もいち早くADL等を共有でき利用者の対応が円滑に行えた。
・相談員と一緒に同行して利用者宅に訪問したが、相談員は契約も兼ねて訪問しているため、訪問所要時間が長くなり現場への負担が大きくなった。利用者のADL等を調査する訪問時間は30分程度であった。
・訪問当日の「介護サービス計画書」の作成が通常業務が優先され、業務時間内に終えることが難しく時間外(平均時間30分)での作成となった。

4.考察
今回の取り組みでは、訪問率は17,5%と低い状況ではあるが、聞き取り調査の中で、利用者の安心な対応のため入所前訪問は有用であるという意見が多く聞かれ、各職種での業務改善と連携により新規入所者全症例の入所前訪問が望ましいと考えた。これまで、入所前訪問を担っていたCWは現場業務に従事していない管理職であり、現場要員のマイナスは無く直接的負担はなかった。今回スタッフが訪問した事で現場レベルの業務負担が浮き彫りとなった。介護、リハ職において、どのスタッフも入所前訪問を可能にする為には訪問予定日を訪問業務として業務分担表に組み入れること、他フロアからの応援などの要員調整と業務内容の見直しを1日、1週間単位で行う必要性があると考える。また、入所当日の時間の短縮化という点では、訪問スタッフが身体状況を具体的に把握して身体評価やADL評価を行い、事前に「介護サービス計画書」が作成された結果として利用者の安心・安全なケア実践ができた。そのことは、継続的療養支援の観点からもサービスの質向上に繋がったと考える。
5.展望
今後の課題は、「訪問率の増加」、「訪問後の書類作成にかかる残業改善」の2点である。取り組み継続に向けて組織全体での業務整理(記録や書類作成の時間)、効果・効率性のある入所前訪問マニュアルの整備、職員の理解となる育成が必要である。
今回の活動を基盤として、入所前訪問は療養支援の一端であるという目的をしっかり理解し、定例業務として取り組めるようハード・ソフト面の整備に着手しいていきたい。