講演情報
[15-O-P106-02]ノーリフティングケアを推進するために必要だったことご利用者様にも介助者にも安全・安心なケアを目指して
*天野 祐輔1、西岡 健太1 (1. 千葉県 館山ケアセンター夢くらぶ)
当施設では離床やトイレ、入浴等の介助の多くを人力で行っていた。5年前にノーリフティングケアの一環として床走行式リフトを導入したが現場で定着が難しかった。そんな中、施設内で骨折を伴う事故が起きてしまった。施設全体で反省し、ご利用者様・介助者ともに安全な介助を目指すべく、ノーリフティングケアを推進した。事故への反省、多職種連携、各人の自己研鑽等により効果を上げ、生産性向上まで使用を続ける事ができた。
【はじめに】
当施設は在宅復帰超強化型の老健である。在宅を目指して生活リハビリを行うため、日中は離床して過ごして頂く事をモットーとしている。そのため離床やトイレ、入浴などケアワーカーの介助の頻度は高くなる。その介助の多くは人力で行っていた。
5年前にノーリフティングケアの一環として床走行式リフト(以下リフト)を導入した。しかし現場ではリフトの用意、スリングの装着を考えると持ち上げた方が早いとの意見が多く定着が難しかった。人力での介助は、体格やスキルの差で安定したクオリティを提供する事が困難でご利用者様・介助者双方の負担も大きい。そんな中、施設内で骨折を伴う事故が起きてしまった。施設全体で反省、ご利用者様・介助者ともに安全な介助を目指すべく、ノーリフティングケアを推進するために必要だったことについて報告する。
【経過報告】
令和5年11月28日、当施設入所者に車椅子移乗時の転倒事故あり。ベッドから車椅子に移乗しようと端座位をとっていた時にベッドから転落。翌日病院受診。担当医師の病状説明は「左脛骨に骨折線がありそう。保存的治療でよいと思う。シーネ固定を行いたい」と返答あり。シーネ固定の状態で当施設に再入所。直後に関係者で対応について協議した。施設長からは「左下肢免荷、移乗動作はリフトを使用、確実な安全のため3人介助に統一すること。寝たきりにさせない、食事は車椅子に移乗し食堂で召し上がって頂く」と指示あり。
骨折部の管理、リフト操作の双方に気を配る必要があり難易度の高い移乗となった。リフト導入開始直後はフロアスタッフから不安の声も出ていた。そこでフロア担当OTがフロアスタッフと共同、何度もリフト操作を確認しフロアスタッフの習熟を促し続けた。人員配置、スケジュール管理を行い環境調整した。当初は時間を多く要し、作業の生産性は低下した。それでも徐々にリフトを正確に操作できるスタッフが増えていった。フロアスタッフの習熟度向上に伴い、介助人数は3人から2人に変更。生産性も向上していった。また、リフトを使用し続ける中で、リフト使用による移乗の利点について理解が深まった。その後、他利用者様へのリフト使用の検討、導入へと至るケースが出てきた。
【考察】
今回、ノーリフティングケアを推進するために以下のことが有用だったと考える。
1.施設長からの上意下達、共通のルール設定によりスタッフ間での目標設定の共有(やらなくてはならないこと、出来るようにならなくてはいけないことが明確になった)がされたこと
2.フロアの担当OTが、習熟を促し続け各人のリフト操作習熟に繋げたこと
3.現場の人員配置の工夫、スケジュール調整により環境を整えたこと
4.フロアスタッフ同士での技術確認、実技テストを行い習熟に繋げたこと
導入初期はリフトの使用に不安を示すスタッフも多かった。それでも事故を引き起こしてしまった反省、ご利用者様の安全・安心の確保に向け諦めるわけにはいかない状況だった。そのためフロアスタッフのリフト操作が定着するまでフロア担当OTが習熟を促し続け、フロアスタッフも人員配置、スケジュール調整を行うとともに、フロアスタッフ同士での技術確認を行い習熟に繋げた。
田上らはノーリフティングケアを推進するために、利用者に対する有効性を把握するために多職種協働の体制が有効であること、また利用者にとってのメリットは実践後に理解され、職員のリフトに対する拒否反応は薄れ、利用に不安感がなくなっているという見方をしている(1)。ノーリフティングケアは安全で働きやすい職場をつくることを目的としている。さらにその先にはご利用者様の事故や剥離などの負傷を予防し安心してケアを受けられる環境調整に繋がることを実践の中で実感した。また、新しいものに慣れるまでは効率が落ち、ある一定期間使用し、慣れが生じる事で再度生産性が向上する「U字の法則」の谷の部分に対し、事故への反省、多職種連携、フロアスタッフの自己研鑽等により効果を上げ、介護サービスにおける生産性の向上である業務負担の軽減と介護サービスの質の向上につながったと考えられる。
【終わりに】
安全・安心な職場作り、さらにはご利用者様が安心してケアを受けることができる環境作りの知見を深めていきたい。他施設の取り組みにも関心を持ち、また研修等への参加も積極的に行っていきたい。
【参考文献】
1)田上優佳他.ノーリフティングケアがもたらす利用者への効果の研究.2018.
2)高知県地域福祉政策課・一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク:腰痛予防のためのノーリフティング手引書-ノーリフティングの概念とケアの手法-
当施設は在宅復帰超強化型の老健である。在宅を目指して生活リハビリを行うため、日中は離床して過ごして頂く事をモットーとしている。そのため離床やトイレ、入浴などケアワーカーの介助の頻度は高くなる。その介助の多くは人力で行っていた。
5年前にノーリフティングケアの一環として床走行式リフト(以下リフト)を導入した。しかし現場ではリフトの用意、スリングの装着を考えると持ち上げた方が早いとの意見が多く定着が難しかった。人力での介助は、体格やスキルの差で安定したクオリティを提供する事が困難でご利用者様・介助者双方の負担も大きい。そんな中、施設内で骨折を伴う事故が起きてしまった。施設全体で反省、ご利用者様・介助者ともに安全な介助を目指すべく、ノーリフティングケアを推進するために必要だったことについて報告する。
【経過報告】
令和5年11月28日、当施設入所者に車椅子移乗時の転倒事故あり。ベッドから車椅子に移乗しようと端座位をとっていた時にベッドから転落。翌日病院受診。担当医師の病状説明は「左脛骨に骨折線がありそう。保存的治療でよいと思う。シーネ固定を行いたい」と返答あり。シーネ固定の状態で当施設に再入所。直後に関係者で対応について協議した。施設長からは「左下肢免荷、移乗動作はリフトを使用、確実な安全のため3人介助に統一すること。寝たきりにさせない、食事は車椅子に移乗し食堂で召し上がって頂く」と指示あり。
骨折部の管理、リフト操作の双方に気を配る必要があり難易度の高い移乗となった。リフト導入開始直後はフロアスタッフから不安の声も出ていた。そこでフロア担当OTがフロアスタッフと共同、何度もリフト操作を確認しフロアスタッフの習熟を促し続けた。人員配置、スケジュール管理を行い環境調整した。当初は時間を多く要し、作業の生産性は低下した。それでも徐々にリフトを正確に操作できるスタッフが増えていった。フロアスタッフの習熟度向上に伴い、介助人数は3人から2人に変更。生産性も向上していった。また、リフトを使用し続ける中で、リフト使用による移乗の利点について理解が深まった。その後、他利用者様へのリフト使用の検討、導入へと至るケースが出てきた。
【考察】
今回、ノーリフティングケアを推進するために以下のことが有用だったと考える。
1.施設長からの上意下達、共通のルール設定によりスタッフ間での目標設定の共有(やらなくてはならないこと、出来るようにならなくてはいけないことが明確になった)がされたこと
2.フロアの担当OTが、習熟を促し続け各人のリフト操作習熟に繋げたこと
3.現場の人員配置の工夫、スケジュール調整により環境を整えたこと
4.フロアスタッフ同士での技術確認、実技テストを行い習熟に繋げたこと
導入初期はリフトの使用に不安を示すスタッフも多かった。それでも事故を引き起こしてしまった反省、ご利用者様の安全・安心の確保に向け諦めるわけにはいかない状況だった。そのためフロアスタッフのリフト操作が定着するまでフロア担当OTが習熟を促し続け、フロアスタッフも人員配置、スケジュール調整を行うとともに、フロアスタッフ同士での技術確認を行い習熟に繋げた。
田上らはノーリフティングケアを推進するために、利用者に対する有効性を把握するために多職種協働の体制が有効であること、また利用者にとってのメリットは実践後に理解され、職員のリフトに対する拒否反応は薄れ、利用に不安感がなくなっているという見方をしている(1)。ノーリフティングケアは安全で働きやすい職場をつくることを目的としている。さらにその先にはご利用者様の事故や剥離などの負傷を予防し安心してケアを受けられる環境調整に繋がることを実践の中で実感した。また、新しいものに慣れるまでは効率が落ち、ある一定期間使用し、慣れが生じる事で再度生産性が向上する「U字の法則」の谷の部分に対し、事故への反省、多職種連携、フロアスタッフの自己研鑽等により効果を上げ、介護サービスにおける生産性の向上である業務負担の軽減と介護サービスの質の向上につながったと考えられる。
【終わりに】
安全・安心な職場作り、さらにはご利用者様が安心してケアを受けることができる環境作りの知見を深めていきたい。他施設の取り組みにも関心を持ち、また研修等への参加も積極的に行っていきたい。
【参考文献】
1)田上優佳他.ノーリフティングケアがもたらす利用者への効果の研究.2018.
2)高知県地域福祉政策課・一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク:腰痛予防のためのノーリフティング手引書-ノーリフティングの概念とケアの手法-