講演情報

[15-O-P106-03]タスクシフティングについての取り組み

*坂元 英樹1、柴田 紗希1 (1. 愛知県 介護老人保健施設フラワーコート江南、2. 介護老人保健施設フラワーコート江南、3. 介護老人保健施設フラワーコート江南)
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介護職は専門職であり、専門的な知識と能力を必要とする。利用者様へのよりよいケアを実現するためにも、専門職である介護職が利用者様に関わる時間を少しでも増やしたいところではあるが、対応すべき間接的業務もあることから、なかなかその時間を捻出できずにいた。そこで、まずは食事面において、間接的業務を清掃パート等の介護職以外の職員(以下:間接介護職とする)にタスクシフティングできたケースがあったため報告する。
【はじめに】
きっかけは介護職からの「もっと利用者様の食事介助を時間に余裕をもって対応することができれば、食事摂取量をアップさせるためのはたらきかけができるのではないか」という声だった。その声は介護職の誰もが思っていたことではあったが、食事介助以外にも対応しなければならない様々な業務があることから、その実現は困難であろうと捉えていた。しかし、新たな視点で何かを始めない限り何も変わらないと考え方を切り替え、フロア全体で今回の取り組みを行うに至った次第である。
【対象/方法】
まずは全職員が担っている食事介助に係る各種業務の内容を把握するために、フロアの全職員に対してアンケート調査を実施した。アンケートの内容は「専門性が必要な業務」「介護職以外でも対応が可能な業務」「機械でもできる業務」の3つの視点で回答できるものとし、その回答を分析した上で、「専門性が必要ではない業務」の洗い出しを行った。
食事終了後の業務である食器洗いやキッチン清掃、床の掃除については、間接介護職にて対応してもらっていたが、今回は介護職の専門性がより必要となる「食事提供時間帯」において、介護職がゆとりを持ってケアができるようにするために、食事提供前の業務に着目して見直しを行った。
食事提供前の業務には「お茶の準備」「配膳車の運搬」「お箸やスプーンのセッティング」「利用者様への食事配膳」等が挙げられるが、これらの業務を間接介護職へタスクシフティングするために必要な対応や環境について協議し、そして整えた。
【対応内容】
・誤配膳を防ぐために、利用者様の座席の一覧表を作成し、食事席には利用者様の氏名のシールを貼付した。
・食札と食事席の氏名のシールを確認することで、誤配膳を防ぐ環境を整えた。
・各利用者様に必要な物品については、その内容を掲載したシールを食札に貼り付け、その利用者様にどの物品か必要かをひと目でわかるようにした。
・食札に色付きのシールを貼付し、必要な物品が「箸のみ」「スプーンのみ」「箸とスプーン」のどれなのかがわかるようにした。
【結果】
食事提供前の間接的業務を間接介護職へタスクシフティングすることで、利用者様35名分の配膳準備に係る時間を5分~6分、食事配膳に要する時間を10分~15分短縮することができた。これらを短縮することで生じた時間を、介護職が介助を要する利用者様に充てることができ、これまでよりも15分~20分はゆとりを持って介助にあたることができるようになった。
【考察】
1日の一連の業務の中でタスクシフティングができている内容はまだ限られているが、食事提供時間帯に15分~20分のゆとりを捻出できたことで、声掛けの頻度やその口調にも良い変化が生じている。ゆとりを持った対応ができる環境を作り出すことで、各職員のケアの質が向上し、それが利用者様の生活の質の向上にもつながっていると実感できた。また間接介護職より「以前は利用者様と話をする機会が殆どなかったが、食事の準備の際に関わる機会ができ、利用者様の顔と名前とが一致したことでよりコミュニケーションがとりやすくなった」「利用者様と関わることで、利用者様から『ありがとう』『よろしくね』といった言葉をいただけることが増え、自身の仕事に対してのモチベーションが上がった」といった声も聞かれるという波及効果にもつながった。
【まとめ】
これまでは間接的業務を介護職以外の職員へ依頼する、機械にて対応するといった発想に欠け、なかなか行動に移すことができていなかった。今回の取り組みにおいて、タスクシフティングによる介護職のゆとり時間の捻出がよりよいケアにつながるということが理解でき、更なるタスクシフティングについても検討していく必要性を感じている。現在は障がいを持った職員にも理解しやすいように、間接的業務を「見える化」し、統一した対応ができるようその環境整備に取り組んでいる。今後介護職の人材確保が困難となることも予想される中、間接介護職との連携や機械化を導入していくことで、利用者様に対してのケアの質を落とさずに対応していける態勢を今以上に確立していきたい。