講演情報
[15-O-P106-04]質の高いケアと「ひと」作りを目指して~介護の価値を高める業務改善~
*吉澤 望1、舟田 伸司1、水島 雅子1、高橋 智子1 (1. 富山県 黒部市介護老人保健施設 カリエール)
当施設では、様々な雇用形態の職員が働いている。次年度の運営形態変更に向け、チームケアの質の向上を目指し、多職種で業務改善(生産性向上)を行ったので報告する。業務の効率化に向け、「気づきシート」「因果関係図」「業務時間調査」を活用し、3M・5Sやマスターラインの観点から分析した。その結果、業務改善及びケアの質の向上に繋がった。今回の小さな改善が、次年度の大きな改善へと繋がる可能性を強く感じた。
【はじめに】
「団塊の世代」が75歳以上となる2025年、介護人材は約3万人不足すると言われている。私たちは、人手不足の中でも専門性の高いケアサービスを提供しなければならない。職員が業務に集中でき、いきいきと働くことのできる環境を作るため、日頃の業務改善(生産性向上)は重要と考え、施設全体で取り組んだので報告する。
当施設は、デイケア20床、入所2階:42床、3階:38床の介護老人保健施設であり、次年度、運営方針変更のため、2階3階の統合を予定(検討)している。現在、勤続年数の長い職員が多く離職者は少ないが、任用職員の増加に伴い、時短勤務職員の割合が増え、フルタイムや夜勤可能な職員の確保が困難な状態である。各勤務形態の大まかな業務表はあったが、業務分担が明確ではなく、(各自の裁量で業務を遂行するため)ケア内容や業務時間に格差があり職員の不満にもつながっていた。また、次年度の運営形態変更に対しての不安感も加わり、それがストレス調査結果にも表出していた。
【目的】
次年度の運営形態変更に向け、生産性向上を意識した業務改善を図り、より質の高い介護サービスを提供する。
【経過】
I、改善活動の準備
1)プロジェクトチームを立ち上げ、役割分担をした。
2)メンバーの中核人材3名で厚生労働省老人保健健康増進等事業に採択された「デジタルテクノロジー基本研修」に参加した。
3)師長から施設全体に改善活動で目指す取り組み開始を宣言し、職員への周知を図った。
II、現場の課題・業務の見える化
1)「SWOT分析及び気づきシート(全職員対象)」を実施し、現場のリアルな声を集め課題を抽出した。
2)「因果関係図及び課題分析シート」で課題を構造化した。
3)それらの課題の要素同士の繋がりを考え、どうして課題が発生するのかその成り立ちについて俯瞰的かつ具体的に捉え、現実的にどこから取り組むかの優先順位の決定をした。
4)現在の業務を定量的に把握するため、全職員に10分毎に業務区分を記入する「業務時間調査」を実施した。簡易に遂行できるよう改良した自施設版を使用し、多様な業務形態を分析できるよう入浴日(男・女)、入浴日以外、休日の4パターンで実施した(5月)。
III、実行計画立案
・業務時間調査結果から、業務の必要性の整理をし3M(ムリ・ムダ・ムラ)を見つけ「集約させる」「分散させる」「削る」の3つのポイントで業務の見直しを図った。
・「改善方針シート」を活用し、課題に対して取り組む内容を整理した。
<改善する課題>
・夜勤者の時間外業務が多かった。
・朝の申し送り開始後の時間帯(8時30分~9時30分)に入浴、バイタル測定、環境整備、シーツ交換の業務が同時に開始となることで、職員が分散し、夜勤者がコール対応や排泄・臥床介護をすることが多かった。
・日勤者のPHS所持が明確に決まっておらず、ナースコールの対応が特定の職員に偏っていた。
・職員の生産性向上に向けた取り組みの理解が不十分であった。
<改善活動案>
・夜勤者が定時(9時15分)で終業できることをマスターラインとする。
・業務の明確化と役割分担の見直しにより業務全体の流れを再構築したマニュアルを作成する。
・早出業務であったテーブル拭きを間接業務専従職員へ移行する。
・日勤者が各自PHSを所持し、コール対応業務の分散化を図る。
・日勤者が朝食後の排泄や臥床介護等に介入する。
・eラーニングツールを活用し一連のプロセスを学習する。
<実施する改善活動>
・修正改良した業務マニュアルの浸透を図った。入浴業務開始時間を現行の9時から9時30分に変更した。それに伴いバイタル測定の時間を9時15分からに変更した。早出と日勤者は、9時30分まで排泄及び臥床介護やコール対応をし、終了後、環境整備やシーツ交換を行った。
・間接業務専従職員への業務を依頼した。
・PHS所持番号を出勤ボードに掲示し各自所持した。
・改善活動の成果を見える化し効果を図るため、業務時間調査を再度実施した(6月)。
・eラーニングツールの動画視聴を開始し、職員の意識変化のアンケートも実施した。
【結果】
<量的な効率化>
・入浴業務を効率的かつ適切な人員で遂行出来た。
・早出や日勤者が排泄や臥床介護に関わるようになり、夜勤者の記録時間の確保ができ定時に終業出来るようになった。
・PHSの所持が習慣化したことで、職員の役割意識が明確になり、日勤者のコール対応数が増加した。
・間接業務専従職員へのタスクシェアにて介護専門職が直接業務に関わる時間が増えた。
<質の向上>
・入浴後の飲水や整髪、処置に十分な時間をかけることが出来た。
・朝食後の適切な排泄や臥床により、入所者に合わせた個別ケアが出来た。
【考察】
業務時間調査で業務を定量的に把握し、全体の流れを見える化することで、職員の役割分担や業務実施のタイミングが明確になり、より効率的で実態に即したマニュアルの作成が出来た。また、個々の価値観で動いていた職員が自己の役割を認識し、チームケアを意識出来るようになった。
【終わりに】
今回、「より質の高い介護サービスの提供」に向けて、短期間で小さな改善を積み重ね、大きな改善へと繋げる第一歩を踏み出すことが出来た。今後も、「何のために業務改善をするのか」を常に意識しながら、かつ現場のモチベーションを高く維持するため小さな成功体験を重ね続けPDCAサイクルを回しながら改善活動を継続していく。
「団塊の世代」が75歳以上となる2025年、介護人材は約3万人不足すると言われている。私たちは、人手不足の中でも専門性の高いケアサービスを提供しなければならない。職員が業務に集中でき、いきいきと働くことのできる環境を作るため、日頃の業務改善(生産性向上)は重要と考え、施設全体で取り組んだので報告する。
当施設は、デイケア20床、入所2階:42床、3階:38床の介護老人保健施設であり、次年度、運営方針変更のため、2階3階の統合を予定(検討)している。現在、勤続年数の長い職員が多く離職者は少ないが、任用職員の増加に伴い、時短勤務職員の割合が増え、フルタイムや夜勤可能な職員の確保が困難な状態である。各勤務形態の大まかな業務表はあったが、業務分担が明確ではなく、(各自の裁量で業務を遂行するため)ケア内容や業務時間に格差があり職員の不満にもつながっていた。また、次年度の運営形態変更に対しての不安感も加わり、それがストレス調査結果にも表出していた。
【目的】
次年度の運営形態変更に向け、生産性向上を意識した業務改善を図り、より質の高い介護サービスを提供する。
【経過】
I、改善活動の準備
1)プロジェクトチームを立ち上げ、役割分担をした。
2)メンバーの中核人材3名で厚生労働省老人保健健康増進等事業に採択された「デジタルテクノロジー基本研修」に参加した。
3)師長から施設全体に改善活動で目指す取り組み開始を宣言し、職員への周知を図った。
II、現場の課題・業務の見える化
1)「SWOT分析及び気づきシート(全職員対象)」を実施し、現場のリアルな声を集め課題を抽出した。
2)「因果関係図及び課題分析シート」で課題を構造化した。
3)それらの課題の要素同士の繋がりを考え、どうして課題が発生するのかその成り立ちについて俯瞰的かつ具体的に捉え、現実的にどこから取り組むかの優先順位の決定をした。
4)現在の業務を定量的に把握するため、全職員に10分毎に業務区分を記入する「業務時間調査」を実施した。簡易に遂行できるよう改良した自施設版を使用し、多様な業務形態を分析できるよう入浴日(男・女)、入浴日以外、休日の4パターンで実施した(5月)。
III、実行計画立案
・業務時間調査結果から、業務の必要性の整理をし3M(ムリ・ムダ・ムラ)を見つけ「集約させる」「分散させる」「削る」の3つのポイントで業務の見直しを図った。
・「改善方針シート」を活用し、課題に対して取り組む内容を整理した。
<改善する課題>
・夜勤者の時間外業務が多かった。
・朝の申し送り開始後の時間帯(8時30分~9時30分)に入浴、バイタル測定、環境整備、シーツ交換の業務が同時に開始となることで、職員が分散し、夜勤者がコール対応や排泄・臥床介護をすることが多かった。
・日勤者のPHS所持が明確に決まっておらず、ナースコールの対応が特定の職員に偏っていた。
・職員の生産性向上に向けた取り組みの理解が不十分であった。
<改善活動案>
・夜勤者が定時(9時15分)で終業できることをマスターラインとする。
・業務の明確化と役割分担の見直しにより業務全体の流れを再構築したマニュアルを作成する。
・早出業務であったテーブル拭きを間接業務専従職員へ移行する。
・日勤者が各自PHSを所持し、コール対応業務の分散化を図る。
・日勤者が朝食後の排泄や臥床介護等に介入する。
・eラーニングツールを活用し一連のプロセスを学習する。
<実施する改善活動>
・修正改良した業務マニュアルの浸透を図った。入浴業務開始時間を現行の9時から9時30分に変更した。それに伴いバイタル測定の時間を9時15分からに変更した。早出と日勤者は、9時30分まで排泄及び臥床介護やコール対応をし、終了後、環境整備やシーツ交換を行った。
・間接業務専従職員への業務を依頼した。
・PHS所持番号を出勤ボードに掲示し各自所持した。
・改善活動の成果を見える化し効果を図るため、業務時間調査を再度実施した(6月)。
・eラーニングツールの動画視聴を開始し、職員の意識変化のアンケートも実施した。
【結果】
<量的な効率化>
・入浴業務を効率的かつ適切な人員で遂行出来た。
・早出や日勤者が排泄や臥床介護に関わるようになり、夜勤者の記録時間の確保ができ定時に終業出来るようになった。
・PHSの所持が習慣化したことで、職員の役割意識が明確になり、日勤者のコール対応数が増加した。
・間接業務専従職員へのタスクシェアにて介護専門職が直接業務に関わる時間が増えた。
<質の向上>
・入浴後の飲水や整髪、処置に十分な時間をかけることが出来た。
・朝食後の適切な排泄や臥床により、入所者に合わせた個別ケアが出来た。
【考察】
業務時間調査で業務を定量的に把握し、全体の流れを見える化することで、職員の役割分担や業務実施のタイミングが明確になり、より効率的で実態に即したマニュアルの作成が出来た。また、個々の価値観で動いていた職員が自己の役割を認識し、チームケアを意識出来るようになった。
【終わりに】
今回、「より質の高い介護サービスの提供」に向けて、短期間で小さな改善を積み重ね、大きな改善へと繋げる第一歩を踏み出すことが出来た。今後も、「何のために業務改善をするのか」を常に意識しながら、かつ現場のモチベーションを高く維持するため小さな成功体験を重ね続けPDCAサイクルを回しながら改善活動を継続していく。