講演情報

[15-O-P106-05]老健における自立支援を促進するための体制作り

*片山 裕介1 (1. 愛知県 介護老人保健施設メディコ阿久比)
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自立支援を促進するための取り組みとして、現行の業務内容を見直し、チェック表やシートを作成して、入所者の生活歴や趣味、好みなどの情報を多職種間で共有できるようにした。それを基に業務体制の見直しを行うことで、多職種の連携や業務改善の効率化を図ることができ、入所者のADL・QOLの向上に繋がった。今回の取り組みに関して、成果や課題について報告をする。
【はじめに】
当施設は1階が通所施設、2階から4階が全入所者数214名の入所施設となっている在宅強化型の老人保健施設である。当施設では令和5年度より自立支援促進加算の算定を開始した。算定に伴い、改めて入所者の自立支援を促進することに着目し、現行の介護業務内容の見直しや職員の意識改革の取り組みを行うことにより、改善点や課題が抽出されてきているため、その取り組みを報告する。
【方法】
自立支援計画の策定にあたって、自立支援促進加算に関する周知のための施設内研修の開催、事務職員と介護職員が連携して自立支援促進加算の評価を行い共有ができる体制作り、主に食事、排泄、入浴、日々の過ごし方の4点について介護職員とリハビリ職員を中心とした業務の見直しや改善のための取り組み方法に関して話し合いを行った。まず初めに周知のための研修を開催し、自立支援促進加算の要点、日常生活動作の具体的な着眼点や取り組み方法、入所者の情報を共有するためのシートに関して伝達を行った。研修参加方法として、対面式と動画での研修を行うことで全職員が周知できるようにした。入所者の生活歴や日常生活動作の状況を共有するため、新たに自立支援促進シートを作成し、全入所に対して担当介護職員が聴取、評価を行い記入することで、全職員が常に情報を閲覧できるようにして情報の共有ができるようにした。作成した自立支援促進シートに関しては、介護職員だけでなく看護やリハビリ、相談員等も内容を確認、必要に応じて追記し、その情報を基に食事、排泄、入浴、日々の過ごし方に関して話し合いを行い、様々な視点から自立支援に向けて業務改善案を検討した。
食事に関しては、元々多職種共同でミールラウンドを開催しており嚥下状態等の機能についての情報共有はある程度されている状態であった。そこで本人の嗜好を確認し、食事摂取があまり進まない入所者に対して栄養管理の範囲内で調味料の提供等を行った。また、本人の食べたいものを介護職員が聴取し、希望したものの中から管理栄養士が中心となって、医師、看護師、言語聴覚士と相談し、できる限り希望したものが食べられる体制を整えた。この取り組みをハッピー食と名称し、年に1回誕生日の日に提供できるようにした。
排泄に関しては、排泄の状況を記入する排泄管理表が使用する階により一部異なる等の状況がみられたため、各階での取り組み状況を確認し、全体の情報をまとめた上で新たな排泄管理表を作成した。また、記入方法や見直し方も統一し、情報伝達や話し合いがしやすい環境整備を行った。
入浴に関しては、当施設では1階に特別浴槽、各階に一般浴槽が設置されており特別浴槽の使用に関しては各階で連携を取りながら通常業務に取り組んでいる。特別浴槽から一般浴槽への日常生活動作の変更について確認したところ、職員間で介助方法や誘導方法に対する認識の違いがみられたことから、介護主任を含む一般介護職員から中心職員を選抜し、現状の課題と改善に向けた話し合いを行った。
日々の過ごし方に関しては、生活歴や趣味や特技を聴取した情報を基に、本や新聞、塗り絵や編み物などの入所者の趣味や特技に合わせて行えるものを整えたスペースを設置して、適宜声掛けもしながら自主的な活動の促しを行った。また、個別や集団での体操や運動を介護主体で行えるように、リハビリ職員から介護職員に向けた入所者の身体機能や認知機能に合わせた、個別の運動や集団の体操に関する情報の提供や、(エクシング)の健康王国DXというタブレットツールを使用して、日常業務の間に運動や体操が促すことができるようにした。
【結果】
自立支援促進のために取り組みを行うことで、今まで職員が取り組んできた介護に加えて、入所者のADL動作だけでなく趣味や生活歴など背景まで意識するようになり、お世話をする介護からできることを支援する介護への移行が進んだ。また、目的や方向性を改めて示すことにより入所者と職員の話す機会や職員同士で入所者についての話し合いをする機会が増加した。食事面ではハッピー食として、本人が食べたいものを食べられるように体制を整え、実際に食べている場面に参加することで本人の笑顔や満足感に加えて、準備に関わった職員の達成感や満足感に繋がった。排泄面では、排泄管理表の設置場所や、トイレに設置してある時計を増やす希望が挙がるなど職員の意識向上に繋がった。それに伴い排泄動作の介助方法の検討や排泄リズムを意識した話し合いが行われる頻度が増加した。入浴面では、入浴基準の明確化と入浴誘導の方法や手順の見直しを行い、可能な範囲で特別浴槽から一般浴槽への変更をすることができた。介護方法についても、着替えの衣類を自分で選ぶ、自分で髪を乾かすなど過剰な介護とならないような取り組みが行えるようになった。日々の過ごし方では、物品の整理、準備により特に元々活動性の高い入所者では自分から行うとすることが増え活動量の増加に繋がった。また、体操や運動を通じて職員の入所者に対する身体機能や認知機能に関する理解が深まり、移乗動作や排泄動作時等の際にも入所者が残存している機能を生かした介護に繋がるようになってきた。
【まとめ】
取り組みにより、最初は業務の見直しに対しる負担感や不安感から抵抗感のみられた職員に関しても、研修や業務改善に伴う実際の変化を体験すると好意的な反応がみられることが多かった。また、職員の自立支援に対する理解に伴い、今まで行っていた介助方法に関しての話し合いの機会の増加や改善に繋がり、内容の充実に繋がったと考えられた。しかし、訴えができない入所者や訴えがあまりない消極的な入所者に対する取り組みにはまだまだ改善の余地が残っている。