講演情報

[15-O-F001-02]利用者、家族の想いをかなえる活動支援

*神戸 貴紀1、佐藤 彩1 (1. 静岡県 医療法人徳洲会介護老人保健施設あじさい)
PDFダウンロードPDFダウンロード
自施設では、コロナ禍の影響で外出制限、また長期化する入所生活で適応力が低下し利用者にとっては大きなストレスや負担が生じていた。施設での看取りを希望する利用者も年々増えてきている。利用者や家族の想いが聴けてもその想いを支援に繋げる事が出来ず看取りとなる利用者もいた。職員のアンケートを実施し97%の職員が想いをかなえたいと思っていた。今回「思いを繋げるシート」を作成活用し、17件の活動支援を実施した。
1.はじめに
平成24年に介護老人保健施設における看取りのガイドライン1)が出され、特に本人の意思確認として、「看取りの場所の選択、終末期に際して行われる医療行為及び看取りのための看護、介護、リハビリテーション等の内容について本人の意思が最大限に尊重されなければならない。」とされている。また、高齢者の看取り期は「老いの延長上にある死」つまり自然な過程である。そのため1日1日の生活の延長線上に死があるととらえ、ケアを行う事が大切と言われている。施設生活の中で利用者の想いに寄り添う事は利用者にとっては心理的な活性化や介護職員への副次的な効果もあると言われている。自施設でも、入所期間が長期化し施設での看取りの利用者が増えている。しかしコロナ禍の影響で様々な制限があり、想いがあっても活動に繋げる事ができなかった。想いをかなえられないまま看取りとなった利用者もいた。そこで、今回利用者と家族の想いを確認し、かなえる事で利用者及び家族が悔いのない看取りに繋げられるように業務改善に取り組んだ。
2.目的
継続的に利用者、家族の想いを聴き、利用者、家族の想いを繋げる活動支援ができる
3.方法
1)職員に利用者毎の個別的な活動支援を行う事に関してアンケートを実施
2)想いを繋げるシート及び手順書の作成
3)利用者、家族より想いを聞けた方に活動支援を行う
対象の利用者、家族には活動支援の目的や意義を説明し同意を得る。
4.結果
1)利用者の想いをかなえてあげたいと思っている職員 が48名中47名であった。出来ない理由として、『思いはあるが業務優先の毎日で行う余裕がない』が10名。『方法・進め方がわからない』が4名であった。
2)想いを繋げるシートの作成について(表1)
3)活動支援の実際(1)100歳間近に「ターミナル」を迎えた利用者がいた。「想いを繋げるシート」をもとに利用者と家族から想いを聴いた。利用者からは「昔から天ぷらとビールが好きだった。」家族からは「本当は100歳のお祝いをしてあげたいけれど、この状態じゃ連れて帰れないし無理だね。」との話を聞く事ができた。職員が外出先の店までの送迎、食事中も家族だけでは心配との事で付き添う事を提案し、100歳のお祝いを実現する事ができた。出発するまで本人は乗り気ではなかったが、店に到着し家族の顔をみた瞬間笑顔がこぼれた。天ぷらとお蕎麦を美味しそうに食べる姿は印象的だった。この利用者は外出支援から45日後に 穏やかな最期を迎える事ができた。家族からは「あの時お祝いができて本当に良かった。」と言葉があった。
(2)食事摂取が困難となった92歳利用者がいた。医師、家族の面談にて施設での看取りの希望があった。その後家族会議を行い「やっぱり家で看取ってあげたい。」との想いがあり在宅での看取りの環境を整えた。4日後住み慣れた家で家族に囲まれ最期を迎える事ができた。
5.考察
今回想いをかなえられないまま看取りを迎える利用者が増えてきている現状の中、業務改善に取り組んだ結果17件の活動支援ができた。アンケートの結果自分と同じ想いの職員が97%いた事は、活動を進めて行く中で大きな後押しとなった。
(1)の利用者の家族は甥の経営する店で100歳のお祝いをと考えたが本人の様子を見て諦めていた。今までの外出は家族依頼型であったが、今回家族と協力し役割分担を計画、更に業務調整を行い実現の可能性を高められた。外出する事によって、周囲へ注意集中が向いて、心理的に活性化されるといわれている。その後、離床時間も増え「また天ぷらを食べに行きたい」との声も聞かれた事は、活性化の効果があったのではないかと考える。
(2)の利用者については家族の想いを聴き、訪問看護の介入などのサービスを調節した事で、家族の不安を解消でき在宅での看取りの実現に至った。佐野らは、外出泊の希望を早い時期から確認して支援する事が家族ケアの観点から重要と指摘している2)。看取りの利用者だけでなく、すべての利用者に対し元気なうちに想いを聴き、寄り添う事は本人や家族の満足度の向上に繋がると考える。
職員にとっては利用者の普段とは違う表情、様子を伺う事ができる。また、利用者のアセスメントの機会や、外出する事で気分転換となり、モチベーションの向上にも繋がった。
今回「想いを繋げるシート」を作成、活用した事で家族や本人の想いに寄り添った支援を行う事ができた。今後は受け持ち職員が中心となり活動を行い、フィードバック、アセスメントを続ける事で、施設全体としての質の向上にも繋がると考える。
6.まとめ
今回の活動を通して利用者や家族の喜ぶ姿を見る事ができた。現在では職員からも様々な活動の提案があがるようになった事は意識の変化の現れである。
今後担当職員を中心として「想いを繋げるシート」を活用し、ひとりひとりの利用者に活動支援ができるように関わっていきたい。日々の業務に流されがちではあるが、多職種で協力し利用者のために時間をつくる事を大事にして行きたい。
7.文献
1)施設での看取りに関する手引き[ウェブサイト]
https://www.kokushinkyo.or.jp/Portals/0/Report-houkokusyo/H25/H25%E7%B5%82%E6%9C%AB%E6%9C%9F_%E6%89%8B%E5%BC%95(%E6%96%BD%E8%A8%AD).pdf
(検索日:2024年6月4日)
2) 佐野久美子,柿沼敦子,六反勝美,他. 緩和ケアにおける遺族の心残り - 遺族への調査結果より.日看会論集 成人看2 2008;201-3.
3) 認知症高齢者の外出支援実現マニュアル(H17.3)[ウェブサイト]
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center1/128/128.pdf
(検索日:2023年11月1日)
4)日本看護協会 介護施設の看護実践ガイド,第2版.医学書院,2023.
5)鄭春姫.高齢者の生活における外出の重要性に関する研究(外出支援のあり方について)浦和大学短期大学部.第54号,2016-2.