講演情報

[15-O-F002-03]脳活ダンスで目覚める 有酸素運動と脳トレの相乗効果日常の習慣化が生んだご利用者、職員の変化

*相原 良美1、宜野座 さおり1、石井 雄大1 (1. 東京都 介護老人保健施設サルビア)
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COVID-19により、集団での活動が長らく制限されていた.集団活動を復活させる過程で、身体、認知機能維持・改善に着目し、有酸素運動と脳トレを組み合わせた「脳活ダンス」を発案した.ご利用者の習慣化による認知機能・ADLへの効果と、介護職員への意識・実施方法について着目し数値測定やアンケートを通し集計した.相乗効果によるプラス、マイナスを得たものの数値以外の要因についても考える機会となったためここに報告する.
【はじめに】
当施設はベッド数165床の超強化型の施設である.コロナ禍で停滞していた集団レクリエーション(以下集団レク)を復活させたい.ご利用者にとって意味のある集団レク活動を生活習慣に取り入れ身体・認知機能、ADL面の改善に繋げる.同時に、活動再開が介護職員の一般業務として、どのようにムラなくスムースに取り入れていけるかが課題であった.ご利用者、介護職員それぞれの視点で有効となるものを考案し工夫・実施・測定・集計し考察を行ったためここに報告する.
【目的】
生活習慣の中でリハビリテーションの視点に着目し、有酸素運動と脳トレーニング(以下脳トレ)を組み合わせた「脳活ダンス」を考え、実施する.ご利用者へ提供し有効な変化を得ることで職員のモチベーション向上にも繋げたい。集団での活動が双方に有益で活気のあるものとなり、また更なるご利用者の変化へと繋がることを目的とした.
【方法】
集団レクの再開、脳活ダンスを構成するにあたり、高齢者を対象にした運動強度について考えた.ウォーキングなどの軽い運動でも身体機能が改善したことが明らかになっていることに着目した.その効果は、筋・骨の強度だけではなく、心肺機能・持久力など全般的な改善に期待ができるとされている.その中有酸素運動は、負荷が少なく高齢者でも日課にしやすいことがメリットであり無理に身体を動かすことなく、導入しやすい点に注目した.また、ご利用者の多くは認知機能低下をきたしており自立した日常生活を送るうえで大きな支障となっていることは間違えない.
エクササイズは約20分で多職種が共同し構成した.有酸素運動と脳トレ要素を入れたこのプログラムが認知機能・ADLに与える効果・影響ついてHDS-R、BIの数値をもとに開始時、終了時の2回評価・集計を行った.実施期間は2月とし検証した.実施は演者を含めた介護士18名が関わり開始前説明と2月後職員の意識に関してアンケート調査を行った.
【詳細】
●対象者:13人
●対象者選定基準:体力的に安定している方
●導入前HDS-R:平均17.5点
●導入前ADL:BI:平均57.3点
●脳活ダンスの構成:全体構成20分、楽曲を4曲用意し振付をした。「ステップや振り付けを覚える事」で認知機能を刺激する内容とし、1曲目は上半身、特に肩甲帯の動きを多くし、2曲目は前方、上下左右への上肢のリーチ動作を中心とした力強い運動とした.3曲目は下肢で足踏み運動、4曲目は全身のストレッチ要素を入れ構成し各曲のインターバルでは深呼吸で腹式呼吸を意識させた.
●実施者:介護士(18人)
●実施期間、令和6年5月1日から6月30日
●頻度:脳活ダンスは毎日20分、日曜日のみ脳活ダンス前後に脳トレ問題(小学1年生程度15分で1枚)を実施.なお問題はダンス前後で同様の物とした.
●実施に当たりご利用者・職員に対して合意形成を行い開始した.
【結果】
●終了時HDS-R:平均17.3点
●終了時ADL、BI:平均58.1点
2月のプログラム終了後、HDS-R、BIの数値にはついてはほぼ変化が見られなかった.また、毎週行っていた脳トレ問題の正当数に関してはその都度プラスの変化が確認された.
●ご利用者の意見
朝から体を動かしやる気が出た・職員に声をかけてもらいうれしい・おなかの調子がよくなった.
●客観的変化
時間になると準備として椅子を動かす、セッティングを行ってくれる・参加者同士のコミュニケーション場面が増えた・集中力が高まった.
●介護職へアンケート実施(18人実施)
アンケートは業務として問題ないか、利用者との意思疎通は出来ているか、レク・運動に関する意識に変化はあったかなどを確認した.
・ポジティブな意見
楽しんで取り組んでいただき職員もやる気が出る.毎日の習慣となり、少しでも体を動かすことができるということは大事だと思う.楽しみにしているので、忙しい時でも時間作って行う気持ちになれる.
・ネガティブな意見
1人での対応が難しい、声をかけながらの体操が苦手
マンパワー不足を不安視する意見も聞かれた.
【考察と結論】
今回の脳活ダンスを通したご利用者、介護職員の変化ついて、数値・相乗効果を踏まえて考えていく.
ご利用者では、2月でHDS-R、BIの数値に関してほぼ変化は見られなかった.有酸素運動が認知機能に与える影響や運動介入によって維持・改善をもたらす結果については、多種多様な要素が複雑に影響しあって得られるものだと考えられる.今回は脳活ダンスの実施がどの程度数値の変化に有益であったかは本結果からは判断が難しいと思われる.しかし、ご利用者の発言や職員による客観的変化の結果にあるように数値化できない変化は参加したほとんどのご利用者から確認されている.これは、単に集団レク再開といった単一的な側面だけでなく、コロナ禍により利用者同士・職員間のコミュニケーション自体が狭小化していたかを示している.毎日の生活リズムが平凡化する事は低刺激な習慣と非活動的な悪循環を生んでいたと考えられる.日常生活や習慣は時間の流れや、そこにいるご利用者、職員など多くの人的・物的環境によって構成されている.今回脳活ダンスを前述した理由で生活習慣に取り入れたことは、習慣を再構築し、場を提供することで人同士の一体感を獲得し、出来た、出来ないではない相乗効果を得る事が出来たと考える.
職員についても単に業務を習慣化し、ご利用者の生活リズムに取り入れただけではなく、得られた数値以外の結果から、職員もモチベーションを向上させる要因となった.介護職として関わる上でのやり甲斐や楽しさなどを再確認する事となり、日々業務が「忙しい」の中にあった日常から一歩前進出来たと考えている.
今回の結果をどのように継続し発展させて行くか.生産性向上が求められる現代、エビデンスに基づいた戦略・結果への結びつきと共に、人と人ご利用者の笑顔を大切に多くの相乗効果をこれからも追求していきたいと思う.