講演情報
[15-O-F004-03]好きだったことをもう一度~諦めから楽しみへ~
*船倉 久美子1、小川 信1、岡坂 直幸1、鵜川 早弥佳1、下河 浩也1、三宅 利明1 (1. 香川県 介護老人保健施設ハートフルこくぶんじ荘)
転倒を心配する家族からの言葉に傷つき、活気や意欲低下がみられたデイケア利用者A様。得意だった料理が定期的にデイケア・レクリエーションへ取り入れられた事から自分の思いを職員に伝え、そこからコミュニケーションが取れた。今まで難しいと諦めていた作業へも挑戦するなどの行動変容が見られるようになった。本人の生活歴や趣味を手がかりとして自信や活気を再び取り戻していただくために実施した取組みについて報告する。
【はじめに】転倒リスクを理由に「危ないから、じっとしておきなさい」「部屋にいて、テレビでも見ていたら?」等、家族からの声掛けに傷つき活気や意欲低下がみられたデイケア利用者A様。ご本人の生活歴や趣味を手がかりとして自信や活気を取り戻していただくために実施した取組みについて報告する。
【対象者の状態】
89歳、女性、要介護3
障害高齢者日常生活自立度A1
認知症高齢者の日常生活自立度1
【既往歴】脳梗塞、糖尿病、左膝半月板損傷
二度の脳梗塞のため、重度の右片麻痺(利き手側)がある。
移動は施設内、自宅ともに普通型車椅子を使用し日常動作は、座位ならば自立または、見守りのレベルであるが立位時は、一部介助または見守りが必要である。野球や料理が好きでその話しで親しい方と盛り上がっている。作業活動として車椅子座位で行える、かご編みや貼り絵をルーティンで何年も行っていた。貼り絵は他の方から褒められるほどの腕前だが、みんなで一つの貼り絵を作るとなると参加する事はなかった。
【生活歴とA様の思い】生活歴は、仕事は農業(米・麦等)をしながら、近郊のJAふれあい市場にて、たこ焼き、寿司、餅等を作って販売していた。また、学生時代はソフトボールでファーストを守る等活動的であった。
生活歴等を聴き取りA様の思いを探っていく。すると、コロナ渦に夫と死別もあり外出制限される中、自分一人が家族のお荷物となっていると感じていた。その頃、自宅での転倒歴が目立っていたためリスク回避を理由に家族から、「じっとしときなさい」「部屋にいなさい」「テレビでも観ていたら、どう?」等を言われストレスを感じていた。昔作っていた、押し抜き寿司(香川の郷土料理)をまた作ってみたいが「右手の動きが悪い、肩より上に上がらない。」と、デイケアでの活動の参加には消極的であった。元々仕事としていたので、作る事だけではなく、上手くできる事に意識をおいているようであった。自分の出来ないところだけに目が向き、出来ている事には目が向きにくかったのである。
【取り組み】毎月2回クッキングを計画し進める。A様を料理長としてメニューの選定や作り方、必要物品等A様を中心に決定した。A様の持っている知識や技術を披露できる場となるように計画した。
【実施内容】
R5年 9月:おはぎ・月見団子
R5年 10月:たこ焼き・焼き芋・茶巾しぼり
R5年 11月:芋もち・鈴カステラ
R5年 12月:どら焼き・餅つき
R6年 1月:ぜんざい・いなり寿司
R6年 2月:巻きずし・チョコレートケーキ
R6年 3月:ぼたもち・桜もち
R6年 4月:パンケーキ・蒸しパン
R6年 5月:抹茶のロールケーキ・たこ焼き
R6年 6月:サンドイッチ・ギョウザ
【経過1】令和5年9月21日よりクッキング計画を実施した。デイ介護職員がA様に声を掛けし誘うも「右手が動かないのに。」「できないのに。」と尻込みしている。そこで車椅子を押し誘導してみると「きな粉ぐらいしかつけられないのに。」と言いながらきな粉をまぶし始めた。1月初旬までは誘っても「もっと出来る人がいるでしょ?」と一度は断りつつも職員に再度誘われ、車椅子を押されながら参加する日が続いていた。参加を重ねることで、する前から「できない」と言う事は減ってきた。誘うと簡単な作業を選んで参加するようになってきた。気持ちも少し前向きになってきた様子である。
【経過2】令和6年1月下旬頃より、メニューの選定を主体的に行うようになってきた。節分の巻きずしを作るための材料などを決め、当日は親しい方と「今日は巻き寿司をつくろうね」と笑顔が見られて楽しみにしている様子である。作り始めると自然と車椅子から立ち上がり、10分程立ったままお寿司を巻いている。
5月はたこ焼き作りを計画。常に車椅子に座っていることが多いA様が徐々に身を乗り出し、約30分程度立ったままたこ焼きをひっくり返していた。好きな事には身を乗り出し立位にて作業を行えている。
6月のサンドイッチ作りでは、ツナに味付けをしたり、出来上がった物を包丁で切り分けたりしている。両手を使う難しい作業にも手を出すようになってきたのである。
【結果】車椅子座位でも行えるかご編み以外の作業活動等、自分が苦手と思った動作には消極的だったが、クッキングに関しては積極的に身体を使おうとする姿が見られるようになった。
集団でのレクリエーションには嫌がって参加しなかったが、料理に関しては集団の中で自分の役割を持ち自発的に参加できるようになってきた。
自分の思いを閉じ込め、なかなか口にすることが出来なかったが、料理に関しては「○○したい。」等、職員に伝えられるようになってきた。
料理を作る時間は作業療法としての一面としてだけでなく、他利用者様と協力し合い、良いコミュニケーションの場となっている。
さらに波及効果として、片麻痺のあるかたや、認知のある方、調理経験のない男性も挑戦する姿が見られるようになってきたのである。
【まとめ・今後の展望】
今回、自分にも出来たという達成感を経験していただくことで今まで諦めていた活動にも参加してもらえた。
今後、他のご利用者様で同様に「できない」と諦めていた方に中心となっていただきA様のように達成感から行動変容に繋げていただけるよう思考・工夫を凝らしていきたい。
ご利用者様が主体的に、みんなのニーズを取り入れながら、ご利用者様同士で話し合い決めていく活動と参加を目指します。
【対象者の状態】
89歳、女性、要介護3
障害高齢者日常生活自立度A1
認知症高齢者の日常生活自立度1
【既往歴】脳梗塞、糖尿病、左膝半月板損傷
二度の脳梗塞のため、重度の右片麻痺(利き手側)がある。
移動は施設内、自宅ともに普通型車椅子を使用し日常動作は、座位ならば自立または、見守りのレベルであるが立位時は、一部介助または見守りが必要である。野球や料理が好きでその話しで親しい方と盛り上がっている。作業活動として車椅子座位で行える、かご編みや貼り絵をルーティンで何年も行っていた。貼り絵は他の方から褒められるほどの腕前だが、みんなで一つの貼り絵を作るとなると参加する事はなかった。
【生活歴とA様の思い】生活歴は、仕事は農業(米・麦等)をしながら、近郊のJAふれあい市場にて、たこ焼き、寿司、餅等を作って販売していた。また、学生時代はソフトボールでファーストを守る等活動的であった。
生活歴等を聴き取りA様の思いを探っていく。すると、コロナ渦に夫と死別もあり外出制限される中、自分一人が家族のお荷物となっていると感じていた。その頃、自宅での転倒歴が目立っていたためリスク回避を理由に家族から、「じっとしときなさい」「部屋にいなさい」「テレビでも観ていたら、どう?」等を言われストレスを感じていた。昔作っていた、押し抜き寿司(香川の郷土料理)をまた作ってみたいが「右手の動きが悪い、肩より上に上がらない。」と、デイケアでの活動の参加には消極的であった。元々仕事としていたので、作る事だけではなく、上手くできる事に意識をおいているようであった。自分の出来ないところだけに目が向き、出来ている事には目が向きにくかったのである。
【取り組み】毎月2回クッキングを計画し進める。A様を料理長としてメニューの選定や作り方、必要物品等A様を中心に決定した。A様の持っている知識や技術を披露できる場となるように計画した。
【実施内容】
R5年 9月:おはぎ・月見団子
R5年 10月:たこ焼き・焼き芋・茶巾しぼり
R5年 11月:芋もち・鈴カステラ
R5年 12月:どら焼き・餅つき
R6年 1月:ぜんざい・いなり寿司
R6年 2月:巻きずし・チョコレートケーキ
R6年 3月:ぼたもち・桜もち
R6年 4月:パンケーキ・蒸しパン
R6年 5月:抹茶のロールケーキ・たこ焼き
R6年 6月:サンドイッチ・ギョウザ
【経過1】令和5年9月21日よりクッキング計画を実施した。デイ介護職員がA様に声を掛けし誘うも「右手が動かないのに。」「できないのに。」と尻込みしている。そこで車椅子を押し誘導してみると「きな粉ぐらいしかつけられないのに。」と言いながらきな粉をまぶし始めた。1月初旬までは誘っても「もっと出来る人がいるでしょ?」と一度は断りつつも職員に再度誘われ、車椅子を押されながら参加する日が続いていた。参加を重ねることで、する前から「できない」と言う事は減ってきた。誘うと簡単な作業を選んで参加するようになってきた。気持ちも少し前向きになってきた様子である。
【経過2】令和6年1月下旬頃より、メニューの選定を主体的に行うようになってきた。節分の巻きずしを作るための材料などを決め、当日は親しい方と「今日は巻き寿司をつくろうね」と笑顔が見られて楽しみにしている様子である。作り始めると自然と車椅子から立ち上がり、10分程立ったままお寿司を巻いている。
5月はたこ焼き作りを計画。常に車椅子に座っていることが多いA様が徐々に身を乗り出し、約30分程度立ったままたこ焼きをひっくり返していた。好きな事には身を乗り出し立位にて作業を行えている。
6月のサンドイッチ作りでは、ツナに味付けをしたり、出来上がった物を包丁で切り分けたりしている。両手を使う難しい作業にも手を出すようになってきたのである。
【結果】車椅子座位でも行えるかご編み以外の作業活動等、自分が苦手と思った動作には消極的だったが、クッキングに関しては積極的に身体を使おうとする姿が見られるようになった。
集団でのレクリエーションには嫌がって参加しなかったが、料理に関しては集団の中で自分の役割を持ち自発的に参加できるようになってきた。
自分の思いを閉じ込め、なかなか口にすることが出来なかったが、料理に関しては「○○したい。」等、職員に伝えられるようになってきた。
料理を作る時間は作業療法としての一面としてだけでなく、他利用者様と協力し合い、良いコミュニケーションの場となっている。
さらに波及効果として、片麻痺のあるかたや、認知のある方、調理経験のない男性も挑戦する姿が見られるようになってきたのである。
【まとめ・今後の展望】
今回、自分にも出来たという達成感を経験していただくことで今まで諦めていた活動にも参加してもらえた。
今後、他のご利用者様で同様に「できない」と諦めていた方に中心となっていただきA様のように達成感から行動変容に繋げていただけるよう思考・工夫を凝らしていきたい。
ご利用者様が主体的に、みんなのニーズを取り入れながら、ご利用者様同士で話し合い決めていく活動と参加を目指します。