講演情報
[15-O-F004-07]インコのぴぃちゃんが利用者、職員に与えた影響
*川添 裕美1、小野寺 喜子1、若月 聡美1、佐藤 くるみ1 (1. 北海道 社会医療法人豊生会 介護老人保健施設ひまわり)
当施設では、セキセイインコを飼育し利用者と触れ合う場を設けている。この取り組みについて振り返り今後の活動に活かすため、利用者、職員にアンケート調査を実施した。結果、利用者同士のコミュニケーションや交流機会の増加に繋がっている事、利用者だけでなく職員自身の癒しに繋がっている事等がわかった。一方で課題も見えてきたため、併せて報告する。
【はじめに】
当事業所では、2021年6月よりセキセイインコのぴぃちゃん(以下インコ)の飼育を始めた。人と人が関わる活動の制限が多かったコロナ下で、感染リスクのない人と動物の触れ合い機会を増やしては、との発案から、飼育、交流のし易さ等からインコの飼育を決めた。
犬や猫等と異なり、施設でのインコ飼育例は少ない。そこで今回、当施設でのインコ飼育の取り組みが利用者、更に職員に与える影響について、具体的に調査、考察してみる事とした。
【目的】
インコの飼育について(1)利用者に与える影響(2)職員に与える影響(3)飼育する上での課題をアンケート調査結果から考察し、今後の取り組みの一助とする。
【方法】
調査期間 2024年6月18日~6月29日
調査対象 通所リハビリテーション職員20名(介護職員、看護師、リハビリ職員、相談員)、インコを見に来た通所リハビリ利用者
調査方法 職員、利用者それぞれにアンケート調査を実施
【結果】
1)職員アンケート
アンケート回収率は100%だった。
「鳥は好きか」の問いに、はい10名、いいえ5名、どちらでもない4名と、半数の職員が好きと答えた一方で、好きではない又はどちらでもないと答えた職員もほぼ同数だった。
「飼育が利用者にプラスになっている事はあるか」の問いには、あるが18名、どちらでもないが1名だった。ある、の理由について「利用者が自発的に移動する機会になっている」「インコを介して利用者同士の交流が生まれた」「コミュニケーションの機会が少ない方の自発語が得られるきっかけになっている」「普段は見る事の出来ないような笑顔がみられ、安心感や楽しみに繋がっている」等が挙げられた。
「飼育が自分にプラスになっている事はあるか」は、ある13名、ない3名、どちらでもない3名であった。ある、の理由について「利用者との共通の話題が持てる」「利用者がインコと話しているのを見ると穏やかな気持ちになる」「可愛い姿を見ると癒される」「わずかな時間だが仕事から抜け出せストレス解消になる」等が挙げられた。
「飼育が利用者にマイナスになっている事はあるか」は、ある2名、ない12名、どちらでもない5名であった。ある、の理由について「皆が鳥が好きな訳ではない」「アレルギーが心配」「新規、体験利用者への配慮が必要」「鳴き声に神経を使い疲れると言っていた利用者がいた」が挙げられた。
「飼育が自分にマイナスになっている事はあるか」は、ない11名、どちらでもない7名、無回答1名で、あると答えた方はいなかった。自宅でペットを飼っている(いた)は8名だった。
2)利用者アンケート
アンケート回答者は20名だった。
「鳥は好きか」の問いに、はい18名、どちらでもない2名であった。鳥を飼育した事のある利用者は15名だった。
「インコを見に来た理由」について「可愛いから」が12名、「鳥が好きだから」が8名、「癒されたいから」「話し相手が欲しいから」「習慣だから」等がそれぞれ4名だった。
【考察】
1)利用者に与える影響
多く挙げられたのは、他者交流、コミュニケーションへの好影響だった。インコがいる「場」が常に固定されていて人が集まりやすく、様子を一緒に見る事で普段は関わりの少ない利用者同士に共通の話題が出来、また、会話がなくても自然に場を共有する事が出来るのではと考える。インコが「(教えた)言葉を話す」事が場を和ませ、自身の声掛けに対し何等かの反応が得られる事で、話しかけたいという意欲も引き出されると考える。言語障害のある利用者や男性利用者等、他者との会話が苦手な方の反応が良く、単純な声掛けに対し単純な返答が得られる事、場を共有するのに言葉が必要ない事等が影響しているのではと考える。
利用者にはインコの飼育歴のある方が多く、インコを見ながら昔の思い出をお話される場面が頻繁にある。認知症の方が、施設でインコと交流した事を記憶し自宅で家族にお話しされた、というケースもあった。また、(自席から移動して)インコに会いに行きたい、という利用者の自発性や、活動意欲を引き出している面もあり、これらから、今後認知機能への働きかけに活用できるのではと考える。
2)職員に与える影響
職員アンケートでは、「癒し」というキーワードのコメントが多かった。今回の調査では、職員、利用者共にペットを飼っている(いた)方が多く、ペットから「癒し」や「交流のきっかけ」を得ているとのコメントがあった。事業所のインコからも同様に、癒しを与えられている職員が多いことが分かった。鳥が好きではない職員が半数近くいる中で、直接インコと触れ合う事による癒しだけでなく、利用者がインコと触れ合う様子を見る事が、職員自身の癒しや喜びに繋がっているという一面も明らかとなった。
3)インコを飼育する上での課題
インコとの交流は、「直接触れる事は難しいが、籠の中と外という一定の距離を保てる」特徴があるため、インコが苦手でもある程度許容出来るという面があると思われる。一方で、鳴き声のように距離を保ってもコントロールが難しい点や、利用者が初めて接する際のアレルギーや鳥の好き嫌いについて等、配慮が必要な事も課題として残る。
また、飼育は比較的簡単だが日々の世話にはある程度時間が必要な事や、多くの人との触れ合いによるインコのストレス等についても考える必要がある。
【まとめ】
職員アンケートに「インコは職員とは異なる特別な存在」というコメントがあった。今回の結果からも、インコの存在が交流、コミュニケーションや癒しという点で、対職員、対人からは得られない効果を与えてくれている事が明らかとなった。今後利用者の興味関心の幅がますます拡がる中で、「動物との触れあい」も魅力的な活動の一つになると考える。これからも、ぴぃちゃんが通所リハビリチームの一員として利用者、職員に良い影響を与える存在であり続けるよう一緒に過ごしていきたい。
当事業所では、2021年6月よりセキセイインコのぴぃちゃん(以下インコ)の飼育を始めた。人と人が関わる活動の制限が多かったコロナ下で、感染リスクのない人と動物の触れ合い機会を増やしては、との発案から、飼育、交流のし易さ等からインコの飼育を決めた。
犬や猫等と異なり、施設でのインコ飼育例は少ない。そこで今回、当施設でのインコ飼育の取り組みが利用者、更に職員に与える影響について、具体的に調査、考察してみる事とした。
【目的】
インコの飼育について(1)利用者に与える影響(2)職員に与える影響(3)飼育する上での課題をアンケート調査結果から考察し、今後の取り組みの一助とする。
【方法】
調査期間 2024年6月18日~6月29日
調査対象 通所リハビリテーション職員20名(介護職員、看護師、リハビリ職員、相談員)、インコを見に来た通所リハビリ利用者
調査方法 職員、利用者それぞれにアンケート調査を実施
【結果】
1)職員アンケート
アンケート回収率は100%だった。
「鳥は好きか」の問いに、はい10名、いいえ5名、どちらでもない4名と、半数の職員が好きと答えた一方で、好きではない又はどちらでもないと答えた職員もほぼ同数だった。
「飼育が利用者にプラスになっている事はあるか」の問いには、あるが18名、どちらでもないが1名だった。ある、の理由について「利用者が自発的に移動する機会になっている」「インコを介して利用者同士の交流が生まれた」「コミュニケーションの機会が少ない方の自発語が得られるきっかけになっている」「普段は見る事の出来ないような笑顔がみられ、安心感や楽しみに繋がっている」等が挙げられた。
「飼育が自分にプラスになっている事はあるか」は、ある13名、ない3名、どちらでもない3名であった。ある、の理由について「利用者との共通の話題が持てる」「利用者がインコと話しているのを見ると穏やかな気持ちになる」「可愛い姿を見ると癒される」「わずかな時間だが仕事から抜け出せストレス解消になる」等が挙げられた。
「飼育が利用者にマイナスになっている事はあるか」は、ある2名、ない12名、どちらでもない5名であった。ある、の理由について「皆が鳥が好きな訳ではない」「アレルギーが心配」「新規、体験利用者への配慮が必要」「鳴き声に神経を使い疲れると言っていた利用者がいた」が挙げられた。
「飼育が自分にマイナスになっている事はあるか」は、ない11名、どちらでもない7名、無回答1名で、あると答えた方はいなかった。自宅でペットを飼っている(いた)は8名だった。
2)利用者アンケート
アンケート回答者は20名だった。
「鳥は好きか」の問いに、はい18名、どちらでもない2名であった。鳥を飼育した事のある利用者は15名だった。
「インコを見に来た理由」について「可愛いから」が12名、「鳥が好きだから」が8名、「癒されたいから」「話し相手が欲しいから」「習慣だから」等がそれぞれ4名だった。
【考察】
1)利用者に与える影響
多く挙げられたのは、他者交流、コミュニケーションへの好影響だった。インコがいる「場」が常に固定されていて人が集まりやすく、様子を一緒に見る事で普段は関わりの少ない利用者同士に共通の話題が出来、また、会話がなくても自然に場を共有する事が出来るのではと考える。インコが「(教えた)言葉を話す」事が場を和ませ、自身の声掛けに対し何等かの反応が得られる事で、話しかけたいという意欲も引き出されると考える。言語障害のある利用者や男性利用者等、他者との会話が苦手な方の反応が良く、単純な声掛けに対し単純な返答が得られる事、場を共有するのに言葉が必要ない事等が影響しているのではと考える。
利用者にはインコの飼育歴のある方が多く、インコを見ながら昔の思い出をお話される場面が頻繁にある。認知症の方が、施設でインコと交流した事を記憶し自宅で家族にお話しされた、というケースもあった。また、(自席から移動して)インコに会いに行きたい、という利用者の自発性や、活動意欲を引き出している面もあり、これらから、今後認知機能への働きかけに活用できるのではと考える。
2)職員に与える影響
職員アンケートでは、「癒し」というキーワードのコメントが多かった。今回の調査では、職員、利用者共にペットを飼っている(いた)方が多く、ペットから「癒し」や「交流のきっかけ」を得ているとのコメントがあった。事業所のインコからも同様に、癒しを与えられている職員が多いことが分かった。鳥が好きではない職員が半数近くいる中で、直接インコと触れ合う事による癒しだけでなく、利用者がインコと触れ合う様子を見る事が、職員自身の癒しや喜びに繋がっているという一面も明らかとなった。
3)インコを飼育する上での課題
インコとの交流は、「直接触れる事は難しいが、籠の中と外という一定の距離を保てる」特徴があるため、インコが苦手でもある程度許容出来るという面があると思われる。一方で、鳴き声のように距離を保ってもコントロールが難しい点や、利用者が初めて接する際のアレルギーや鳥の好き嫌いについて等、配慮が必要な事も課題として残る。
また、飼育は比較的簡単だが日々の世話にはある程度時間が必要な事や、多くの人との触れ合いによるインコのストレス等についても考える必要がある。
【まとめ】
職員アンケートに「インコは職員とは異なる特別な存在」というコメントがあった。今回の結果からも、インコの存在が交流、コミュニケーションや癒しという点で、対職員、対人からは得られない効果を与えてくれている事が明らかとなった。今後利用者の興味関心の幅がますます拡がる中で、「動物との触れあい」も魅力的な活動の一つになると考える。これからも、ぴぃちゃんが通所リハビリチームの一員として利用者、職員に良い影響を与える存在であり続けるよう一緒に過ごしていきたい。