講演情報

[15-O-A009-02]「起きて食べたい」夢を実現に導いた多職種の力

*山内 淳史1 (1. 宮城県 介護老人保健施設せんだんの丘)
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認知症専門棟に入所されているベッド上寝たきりの廃用性の利用者について、多職種による支援を行ったことで離床の機会が増え、食事を自力で摂ることが出来た。入所前は「何もしたくない」と顕著な意欲低下がみられていたが、「今後は、また歩きたい」と話されるほど意欲の向上がみられたので、その経過を報告する。
【はじめに】
当施設は超強化型老健であり、多くの入所者が日々在宅復帰に向けて生活リハビリに取り組んでいる。本症例は度重なる自宅での転倒、双極性感情障害を抱え、廃用性が進みADLの低下がみられベッドでの生活が続いていた。家族からは「介助がないと起きられない様子なので自宅での生活は難しい」と話があり入所される運びとなった。当施設に入所されてからは、リハビリや内服調整、多職種による様々なアプローチにより、ADLの向上、本人の意欲の向上がみられた。「起きてご飯が食べたい」という本人の意向を踏まえつつ、本人の残存能力を引き出した経過を報告する。

【対象者】
A様 70代前半  
障害高齢者日常生活自立度 C1 
認知症高齢者日常生活自立度 ΙΙΙa 
疾患名:双極性感情障害
夫と長男3人暮らしで生活されていた。40代で、躁うつ病(双極性感情障害)と診断される。令和X年から身体機能の低下がみられ、転倒を繰り返す。令和X+1年12月、歩行困難となりベッド上の生活となる。令和X+2年1月に身動きが取れない状態となりB医院に入院、要介護5の認定となる。同年3月に今後の生活環境の検討、ADL動作の向上、リハビリ目的で当施設へ入所される。

【入所時状況・経過】 
入所直後はうつ症状から「起きたくない」「体が痛い」と意欲の低下が見られていた。廃用による身体全体の関節の痛み、過緊張や恐怖心により離床ができずベッド上で食事を行っていた。ギャッチアップを行なうと後ろに突っ張るように身体の緊張が高まり姿勢崩れがあるため、食事は介助にて召し上がられていた。また、義歯が欠けていたりと不具合が多く、装着時に痛みの訴えがあった。
1ヶ月が経過し、起きる恐怖心はあるものの「起きてご飯が食べたい」と意欲の向上が徐々に見られていた。
(ステップ1)
「起きてご飯を食べたい」と話があるものの離床への恐怖心がある為、ベッドのまま他利用者のいる食席(フロア)へご案内し活動の幅を広げた。リハビリではベッドギャッチアップからの端座位の訓練を行なっていた。
ベッドのまま食席へ案内した事で、他利用者とのコミュニケーションにも繋がった。ベッド上での食事は、姿勢崩れは見られるものの自分で召し上がれることも増えてきた。
リハビリ場面での端座位の姿勢もとれるようになった為、次のステップへ取り組むことにした。
(ステップ2)
少しずつ身体の痛み、恐怖心が無くなってきた為、2人介助スライド移動にてリクライニングの車椅子に移乗しテーブルでの食事に切り替えた。食べ始めは自立促進の為、自力摂取を促した。摂取が難しい際は、介助を行なった。身体の痛み等があった為、時間を決めての離床を行い徐々に体力がつくよう耐久性の向上を図った。
リハビリでは、平行棒を使用し職員支持の下、立位保持訓練を行なえるようになっていた。
徐々に介助なく自力で食事を摂ることが出来るようになった。しかし、時間を決めていたものの、長時間の離床で、身体の痛み、疲労感があり「早く部屋に連れてって」と話されることがあった。2人介助のため、タイミングによりすぐに対応できないこともあり、リクライニングを倒して対応していたが、端座位、立位訓練がすすんできた事もあり、多職種で検討を行い、1人で移乗介助してみようとなり次のステップへ取り組むことにした。
(ステップ3)
恐怖心があるため臥位→端座位、端座位→臥位動作では強く後ろに力が入り突っ張る状態であった。加えて体格の大きい方のため、ある程度の力が必要であった事と、リクライニング車椅子使用であったため、初めは男性スタッフのみの1人介助とし、リクライニング車椅子→ベッドへの一方向の移乗で限定した。1人介助での移乗回数が増えたことで、恐怖心からくる筋緊張や振戦、疲労感が軽減していった。
現在では、前傾の姿勢を保つことができ、リクライニング車椅子からスタンダード車椅子に変更する事が出来た。スタンダード車椅子に変わったことで、全職員が1人介助可能となり、本人の希望に合わせて生活できるようになった。
食事も、スプーンを使用していたが箸を使用して召し上がる事が出来るようになった。リハビリでも、平行棒にて職員見守りの下、立位保持が可能となった。入所時に不具合があった義歯も並行して調整を行い、「〇〇をたべたい」と意欲の向上もみられた。

【結果・考察】入所前は、ベッド上での生活が続いていた。入所後も、離床への不安や恐怖心がありベッド上での生活であったが、「起きてご飯が食べたい」と話された事がきっかけとなりご本人の気持ちに寄り添いつつ多職種が段階的にアプローチしたことで身体面・精神面ともに改善がみられた。ADLについては、入所時に比べ、離床時間も大幅に増え、精神的な部分でも、「〇〇をしたい。」と積極的な発言が多々見られている。現在では、味噌汁作りに参加されたり、職員とボールを使用し、パス練習を行ったりと生活の質の向上も見られている。今後も、生活支援を行っていく中での気づき、表情の変化に注意し些細なことでも情報共有していく事で本人が安心した生活が出来ると思われる。

【まとめ】利用者の要望に対して介護職は、どうしたら実現ができるか日々考え、勉学に励む使命が我々にはあると思う。多職種アプローチにて出来ることが増え、生活意欲が高まり「これからも生きていきたい」と思う利用者が一人でも増える介護が、これからもこの社会に必要だと思う。